表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何度転生しても逃げられない  作者: S@Y@


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/91

第四十四話 膝の上


 馬車へ戻る道。


 リゼリアはノアの半歩後ろを歩いていた。


 逃げようと思えば、まだ逃げられるかもしれない。


 そう考えた瞬間。


「リゼ」


 ノアが振り返る。


「大丈夫か?」


「……大丈夫」


 嘘だった。


 心臓はまだ速く鳴っている。


 さっきの口づけが頭から離れない。


 ◇ ◇ ◇


 馬車へ乗り込むと、扉が閉まった。


 ガタン、と車輪が動き出す。


 狭い車内。


 向かい合って座る二人。


 沈黙だけが流れる。


「……怒らないの?」


 リゼリアは耐えきれず口を開いた。


 ノアは本を閉じ、ゆっくりと顔を上げる。


「何をだ?」


「逃げたこと」


「怒ってほしいのか?」


「そういう意味じゃない!」


 リゼリアは思わず声を荒らげる。


「普通なら怒るでしょう!」


 ノアは少し考え、小さく笑った。


「怒っても、君は逃げる」


「……」


「なら、怒る意味がない」


 あまりにも自然な答えだった。


「次は、もっと上手く逃げようとするだけだろう?」


 見透かされている。


 リゼリアは何も言えなかった。


「だから」


 ノアは席を立つ。


「逃げたくなくなるくらい、大切にする」


「っ!」


 ノアが隣へ腰を下ろした。


 近い。


 逃げようと身体を引いた瞬間。


「おっと」


 馬車が大きく揺れる。


「きゃっ!」


 バランスを崩したリゼリアの身体が、そのままノアへ倒れ込んだ。


 気付けば。


 膝の上に座る格好になっていた。


「……え」


 リゼリアの思考が止まる。


「ご、ごめん!」


 慌てて立ち上がろうとする。


 しかし。


 ノアの腕が、そっと腰へ回った。


「そのままで」


「で、でも……!」


「馬車が揺れる」


 低く落ち着いた声。


「危ない」


 確かに。


 また揺れれば転ぶかもしれない。


 それでも。


「恥ずかしい……」


 顔が熱い。


 ノアは小さく笑った。


「顔が真っ赤だ」


「見ないで……」


 リゼリアは思わず胸へ額を押し付ける。


 すると。


 ノアの身体がぴたりと止まった。


「……リゼ」


 掠れた声だった。


「それ以上は駄目だ」


「え?」


 顔を上げると。


 ノアは苦笑していた。


「今は我慢すると約束した」


 その言葉で意味を理解し、リゼリアは一気に耳まで赤くなる。


「ち、違っ……!」


「分かってる」


 ノアは優しく髪を撫でた。


「君は何も悪くない」


 その手は、あまりにも優しかった。


 まるで壊れ物に触れるように。


「もう少しだけ」


 ノアは静かに囁く。


「このままでいてくれ」


 リゼリアは抵抗しようとした。


 なのに。


 不思議と身体に力が入らない。


 温かい。


 悔しいほど安心する。


(駄目……)


 こんな風に思ってしまったら。


 また前世と同じになる。


 そう分かっているのに。


 馬車の揺れに身を任せながら、リゼリアは目を閉じた。


 その様子を見つめるノアは、小さく安堵の息を漏らした。


 まるで、大切な宝物がようやく腕の中へ戻ってきたかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ