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何度転生しても逃げられない  作者: S@Y@


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第三十四話 条件


 部屋に静寂が落ちる。


 リゼリアはノアから目を逸らさなかった。


 怖い。


 それでも、ここで俯いたら負ける気がした。


「……一つだけ」


 ゆっくりと口を開く。


「お願いがあるの」


 ノアは穏やかに頷く。


「言ってみろ」


「今日」


 リゼリアは拳を握り締めた。


「今日は、何もしないで」


 ノアは黙っている。


「お願い」


 涙が滲む。


「頭の中がぐちゃぐちゃなの」


 五度分の人生。


 思い出した記憶。


 信じていた婚約者が、四度も自分を監禁した男だったという事実。


 一度に受け止められるはずがない。


「少しだけ……考える時間がほしい」


 長い沈黙が流れた。


 やがて。


「……分かった」


 ノアは静かに頷いた。


 リゼリアは目を見開く。


「本当に?」


「ああ」


 意外なほどあっさりとした返事だった。


「今日は何もしない」


 その言葉に、張り詰めていた力が少しだけ抜ける。


「ありがとう……」


 小さく呟くと、ノアは困ったように笑った。


「礼を言われることじゃない」


「え?」


「本当なら」


 ノアは一瞬だけ視線を落とす。


「今日は誰にも邪魔されず、君とゆっくり過ごすつもりだった」


 リゼリアの心臓が跳ねる。


「でも」


 ノアはもう一度リゼリアを見た。


「泣いている君を無理やり抱く趣味はない」


 その言葉は真っ直ぐだった。


「君が笑ってくれない夜に、意味はない」


 リゼリアは何も言えなかった。


 優しい。


 今の言葉だけ聞けば、優しい夫だ。


 なのに。


 その優しさの奥にある執着を知ってしまった今は、素直に安心できない。


「今夜は休め」


 ノアはベッドへ視線を向ける。


「俺は隣の部屋にいる」


「……え?」


「何かあれば呼べ」


 そう言って扉へ向かう。


 リゼリアは呆然とその背中を見つめた。


 本当に出ていくの?


 扉の前でノアは立ち止まる。


 振り返ることなく、小さく口を開いた。


「リゼ」


「……何?」


「一つだけ、約束してくれ」


 リゼリアは息を呑む。


「窓から飛び降りようとは考えるな」


 全身が凍り付いた。


 確かに。


 一瞬だけ、その考えが頭をよぎっていた。


 ノアは振り返らないまま続ける。


「君は追い詰められると、無茶をする」


「昔から、そうだった」


 静かに扉を開ける。


「おやすみ」


 それだけ言い残し、部屋を出て行った。


 扉が閉まる音が響く。


 リゼリアはその場に崩れ落ちた。


 ――この人は。


 私のことを知りすぎている。


 五度分の人生を重ねた男に。


 私は、本当に逃げ切れるのだろうか。

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