第三十話 ずっと探していた
「どうして……」
リゼリアの声は震えていた。
「どうして、毎回……私を見つけられるの?」
前世では身分も違った。
家柄も。
名前も。
生まれた場所さえ違った。
それなのに。
この男は必ず現れた。
必ず私を見つけた。
ノアは静かに微笑む。
「簡単だ」
あまりにも当たり前のように言う。
「君を探しているから」
「そんなこと……」
「君は気付いていないだけだ」
リゼリアを見つめる瞳は優しい。
その優しさが、今は恐ろしく感じる。
「髪の色が変わっても」
「瞳の色が変わっても」
「名前が変わっても」
「身分が変わっても」
一歩、距離を詰める。
「君は君だ」
「俺が見間違えるはずがない」
「嘘よ……」
リゼリアは首を振る。
「世界には何億人もいるのよ?」
「ああ」
ノアはあっさり頷いた。
「だから、一度目は随分苦労した」
懐かしそうに目を細める。
「どこにいるのか分からなかったからな」
「でも」
その口元がゆっくりと緩む。
「一度見つけてしまえば、次からは違う」
リゼリアの背筋が冷たくなる。
「君の癖を覚えた」
「笑い方」
「困った時の表情」
「好きな花」
「好きな本」
「甘いものを食べる時の顔」
「全部」
「だから」
ノアは穏やかに続ける。
「次は十歳で見つけた」
「その次は八歳」
「さらに次は六歳」
「そして今回は、五歳だった」
リゼリアの瞳が揺れる。
五歳。
前世の記憶を思い出した年だ。
つまり。
自分が「あの男」を警戒し始めた頃には。
もう。
向こうは自分を見つけていた。
「だから今回は、誰よりも早く君の隣へ行けた」
ノアは満足そうに微笑む。
「婚約者という立場は、実に便利だった」
リゼリアは息を呑んだ。
あの日。
父に婚約者を選ぶよう言われた日。
気弱で優しそうな次男を選んだ。
全部、自分で選んだと思っていた。
けれど。
本当にそうだったのだろうか。
「……最初から」
震える声で尋ねる。
「全部、知っていたの?」
「ああ」
ノアは迷いなく頷いた。
「君が好きな花も」
「好きな本も」
「好きな紅茶も」
「全部、一度目の君が教えてくれた」
優しく微笑む。
「だから今回も、君は喜んでくれた」
花束も。
栞も。
好きなお菓子も。
あの優しさは、偶然なんかじゃない。
五度にわたって積み重ねた記憶だった。
リゼリアは初めて理解する。
目の前の男は。
今世で恋に落ちたのではない。
何度人生を繰り返しても。
自分だけを探し続け。
自分だけを愛し続けてきたのだ。




