第二十九話 五度目の再会
「……どうして」
掠れた声が漏れる。
リゼリアは震える唇を必死に動かした。
「どうして……あなたが」
ノアは答えない。
ただ、愛おしいものを見るような目でリゼリアを見つめている。
その視線が怖い。
優しいはずなのに。
逃げ出したくなるほど怖い。
「どうしてなの……」
何度も問いかける。
ようやくノアは小さく息をついた。
「その質問をされるのも、五回目だ」
リゼリアの瞳が大きく見開かれる。
「一度目も」
静かな声。
「二度目も」
一歩、近付く。
「三度目も」
また一歩。
「四度目も」
もう逃げ場はない。
「君は、同じことを聞いた」
「来ないで……!」
反射的に後ずさる。
しかし、すぐに背中が壁へぶつかった。
「っ……」
「逃げなくていい」
ノアは穏やかに笑う。
その笑顔が、恐ろしい。
「今夜は、どこへも行けない」
リゼリアは息を呑んだ。
鍵。
さっき閉まる音がした。
まさか。
最初から。
ノアは視線だけを扉へ向ける。
「安心しろ」
そして、またリゼリアを見る。
「誰も入ってこない」
その言葉に、全身が粟立った。
「どうして……」
涙がこぼれる。
「どうして私なの……!」
王女でもない。
聖女でもない。
世界を救えるような特別な人間でもない。
「私なんて、どこにでもいる普通の女なのに!」
叫ぶように言うと。
ノアは少しだけ困ったように笑った。
「普通?」
その一言が、おかしかったように。
「君が?」
くすり、と笑う。
「リゼ」
その呼び方だけは優しい。
「君は、何度生まれ変わっても自分を過小評価する」
ゆっくりと手を伸ばし、リゼリアの髪に触れる。
「俺にとっては違う」
さらり、と金色の髪を指に絡める。
「世界中の誰よりも」
その指先は優しい。
なのに。
逃げたい。
本能が叫んでいた。
「君だけが特別だ」
リゼリアは首を横に振る。
「違う……」
「違わない」
即座に否定される。
「君は毎回そう言う」
懐かしそうに微笑むノア。
「『どうして私なの』って」
その言葉だけで分かった。
この人は。
全部覚えている。
五回分、全部。
「……あなたも」
震える声で尋ねる。
「覚えているの?」
ノアは迷うことなく頷いた。
「ああ」
短い返事。
それだけで十分だった。
リゼリアは絶望する。
自分だけじゃなかった。
この男も。
何度生まれ変わっても、記憶を失っていなかったのだ。
そして。
ずっと。
自分を探し続けていた。




