第二十五話 結婚式の前夜
結婚式まで、あと一日。
屋敷の中は朝から慌ただしかった。
使用人たちが式の最終確認を行い、侍女たちは花嫁衣装を何度も点検している。
「お嬢様、お疲れではありませんか?」
「大丈夫ですよ」
そう答えたものの、落ち着かないのは事実だった。
緊張しているのだ。
明日になれば、自分はノアの妻になる。
何年も待ち望んだ日が、ついにやって来る。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
一通の手紙が届けられた。
差出人はノアだった。
リゼリアは自然と笑みを浮かべながら封を開く。
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リゼへ
明日が来るのが楽しみで、昨夜はあまり眠れませんでした。
子どもの頃、「結婚式はまだまだ先ですね」と話していたのに、もう明日です。
少し緊張しています。
ですが、それ以上に嬉しいです。
明日は、どうぞよろしくお願いいたします。
ノア
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「ふふ……」
思わず笑ってしまう。
「やっぱりノアも緊張しているんですね」
机の引き出しを開ける。
そこには、幼い頃から大切にしまってきた手紙が何十通も並んでいた。
花の話。
本の話。
学院での出来事。
どれも何気ない内容ばかり。
けれど、一枚たりとも捨てられなかった。
リゼリアは今日届いた手紙も、その隣へそっとしまう。
「明日からは、お手紙を書かなくても毎日会えますね」
そう呟くと、少し照れくさくなった。
◇ ◇ ◇
夕方。
母が部屋を訪ねてきた。
「入ってもいいかしら?」
「もちろんです、お母様」
母は花嫁衣装を見つめ、優しく微笑んだ。
「本当に綺麗」
「ありがとうございます」
「明日には、お前もお嫁に行くのね」
その一言で、胸がじんわりと熱くなる。
「少し寂しいですか?」
「もちろん」
母は笑いながら頷いた。
「でも、それ以上に嬉しいわ」
「ノアくんなら安心して送り出せるもの」
リゼリアも頷く。
「私もそう思います」
「優しくて、誠実で、本当に素敵な方ね」
「はい」
迷いなく答えられた。
◇ ◇ ◇
夜。
寝室の窓を開けると、満月が静かに夜空を照らしていた。
「明日か……」
幼い頃の出会い。
花束。
舞踏会。
手紙。
笑い合った日々。
どれも昨日のことのように思い出せる。
前世では一度も味わえなかった穏やかな恋。
ようやく私は見つけられた。
普通の恋を。
普通の幸せを。
「明日から、よろしくお願いしますね」
誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。
そして、幸せな気持ちのまま目を閉じた。
明日、自分の人生が大きく変わるとも知らずに。




