第二十四話 最後の独身の誕生日
結婚式まで、あと半年。
今日はリゼリアの十七歳の誕生日だった。
屋敷には朝から祝いの花が飾られ、使用人たちが慌ただしく行き来している。
「お嬢様、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
笑顔で祝福を受けながらも、リゼリアの心はどこか落ち着かなかった。
今年の誕生日は特別だ。
来年には、もう「リゼリア・エヴァレット」ではなくなる。
ノアの妻として、新しい人生が始まる。
そう思うと、不思議な気持ちだった。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
レイヴェルト公爵家の馬車が屋敷へ到着した。
「ノア!」
玄関へ向かうと、花束を抱えたノアが立っていた。
「お誕生日おめでとうございます、リゼ」
柔らかく微笑み、花束を差し出す。
「わぁ……!」
淡い桃色と白を基調にした花束。
リゼリアの好きな花ばかりだった。
「覚えていてくださったんですね」
「もちろんです」
ノアは少し照れたように笑う。
「花屋の方にも相談して選びました」
「ありがとうございます」
花束を胸に抱く。
「とても嬉しいです」
◇ ◇ ◇
庭園を歩きながら、二人はゆっくりと言葉を交わす。
「そういえば」
ノアが口を開いた。
「十七歳のお誕生日ですね」
「ええ」
「来年のお誕生日は、夫婦として迎えることになります」
その言葉に、リゼリアは照れ笑いを浮かべる。
「まだ少し実感がありません」
「僕もです」
ノアは苦笑した。
「ですが、楽しみでもあります」
「私も楽しみです」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
◇ ◇ ◇
東屋で紅茶を飲んでいると、ノアが小さな箱を取り出した。
「誕生日の贈り物です」
「私にですか?」
「はい」
リゼリアは丁寧に包みを開く。
中には、銀細工の栞が入っていた。
小さな青い宝石が一粒埋め込まれている。
「綺麗……」
「本がお好きでしょう?」
「ええ!」
リゼリアは嬉しそうに頷いた。
「大切にします」
「よかった」
ノアは心から安心したように笑う。
「実は、何を贈れば喜んでいただけるか分からなくて、何日も悩んだんです」
「そんなにですか?」
「はい」
「私は、ノアが選んでくださったものなら何でも嬉しいですよ」
その一言に、ノアは少し目を丸くした。
それから、照れたように微笑む。
「……ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
帰る時間になり、玄関まで見送る。
「今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ」
ノアは一礼した。
「リゼが笑ってくださって、安心しました」
「そんなに心配だったんですか?」
「はい」
「もし気に入っていただけなかったらどうしよう、と」
「ふふっ」
リゼリアは思わず笑った。
「そんなこと、あるはずありません」
花束も。
栞も。
全部が嬉しかった。
それ以上に。
自分のために時間をかけて選んでくれたことが、何より嬉しい。
「また来週、お会いしましょう」
「はい」
「お気をつけて」
馬車がゆっくりと動き出す。
リゼリアは見えなくなるまで手を振り続けた。
来年の誕生日は、夫婦として迎える。
そう考えるだけで、自然と笑みがこぼれる。
この時のリゼリアは、まだ知らなかった。
結婚式の日が、自分の運命を大きく変える一日になることを。




