第二十三話 結婚式の日取り
ノアの卒業から一年。
リゼリアも無事に王立学院を卒業した。
十六歳。
成人を迎えた二人は、それぞれの家で公務や領地の仕事を学びながら、結婚式の準備を進めていた。
◇ ◇ ◇
「リゼリア」
ある日の午後。
父に執務室へ呼ばれた。
「座りなさい」
「はい、お父様」
父の隣には母が座り、向かいにはレイヴェルト公爵夫妻の姿もあった。
いつになく真剣な空気に、リゼリアは自然と背筋を伸ばす。
「今日は、お前たちの結婚式について話がある」
「結婚式……」
その言葉だけで胸が高鳴った。
「日取りが決まった」
父が一枚の書類を差し出す。
「来年、春の吉日だ」
「……!」
とうとう決まった。
あと一年。
あと一年で、ノアの妻になる。
嬉しさと緊張が一度に押し寄せ、思わず書類を見つめたまま固まってしまう。
「リゼリア?」
母が優しく笑う。
「嫌なのではありません」
慌てて首を振る。
「ただ……実感が湧かなくて」
部屋が和やかな空気に包まれた。
◇ ◇ ◇
帰り際。
玄関でノアが待っていた。
「リゼ」
「ノア」
今日は珍しく二人きりだ。
「聞きましたか?」
「はい」
ノアは少し照れたように笑う。
「あと一年ですね」
「ええ」
二人は並んで庭を歩き始めた。
春の花が風に揺れている。
「楽しみですか?」
ノアが尋ねる。
「もちろんです」
リゼリアは頷いた。
「少し緊張もしていますけれど」
「実は……」
ノアは困ったように笑う。
「僕もです」
「ノアも?」
「はい」
「意外です」
「何日も前から緊張してしまっています」
その言葉に、リゼリアは思わず笑った。
「まだ一年ありますよ?」
「分かっています」
ノアも笑う。
「でも、待ち遠しくて」
その一言が嬉しかった。
リゼリアも同じ気持ちだったから。
◇ ◇ ◇
庭園の東屋で休憩していると、侍女がお茶を運んできた。
「失礼いたします」
湯気の立つ紅茶と、小さな焼き菓子。
二人は向かい合って腰掛ける。
「そういえば」
リゼリアがカップを置く。
「婚約指輪、もう完成しているそうですね」
「はい」
ノアは穏やかに頷く。
「結婚式の日に交換するそうです」
「楽しみですね」
「はい」
二人は自然と微笑み合った。
幼い頃に選んだ、世界に一つだけの指輪。
あの日は、まだ遠い未来の話だと思っていた。
それがもう、すぐそこまで来ている。
◇ ◇ ◇
帰る時間になり、馬車の前で足を止める。
「リゼ」
「はい?」
「これから一年、よろしくお願いします」
「ふふっ」
リゼリアは笑った。
「結婚した後も、よろしくお願いします」
ノアは少し驚いたあと、柔らかく笑う。
「はい」
「こちらこそ、一生よろしくお願いします」
リゼリアは照れくさくなって頬を染めた。
「そんなふうに言われると、恥ずかしいです」
「本心ですから」
真っ直ぐに言われ、ますます顔が熱くなる。
「もう……ノアは時々、ずるいです」
「え?」
「何でもありません」
リゼリアは笑って馬車へ乗り込んだ。
あと一年。
その頃のリゼリアは、結婚式を心から楽しみにしていた。
幸せな未来が待っていると、何の疑いもなく信じていた。




