第二十二話 卒業の日
月日は穏やかに流れた。
リゼリアは十五歳。
ノアは十七歳になっていた。
二人は王立学院へ通い、多くの時間を共に過ごしている。
幼い頃は「婚約者」だった距離も、今では「恋人」と呼んでも違和感がないほど近くなっていた。
それでも。
手を繋ぐ時、ノアは今でも必ず一言添える。
「失礼します」
そんなところは昔と何も変わらない。
◇ ◇ ◇
今日はノアの卒業式だった。
学院には色とりどりの花が飾られ、卒業生たちが晴れやかな表情で歩いている。
「ノア!」
リゼリアが駆け寄ると、ノアは振り返って微笑んだ。
「リゼ」
「ご卒業、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
胸元には卒業生だけに贈られる記章が輝いている。
「とてもお似合いです」
「そんなことを言われると照れてしまいます」
「本当ですよ」
リゼリアが笑うと、ノアも照れたように笑った。
◇ ◇ ◇
「ノア先輩!」
卒業生を囲むように、下級生たちが集まってくる。
「今までありがとうございました!」
「お仕事も頑張ってください!」
「また学院にも遊びに来てくださいね!」
ノアは一人ひとりに丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます」
「皆さんも学院生活を楽しんでください」
その姿を見ていたリゼリアは、少し誇らしい気持ちになった。
(やっぱり素敵な人)
誰にでも優しくて。
偉そうにしなくて。
こんな人が婚約者で、本当に良かった。
すると。
「リゼリア様」
後ろから女子生徒に声を掛けられた。
「ノア先輩、本当に素敵ですよね」
「ええ」
「実は……一年生の頃、憧れていたんです」
恥ずかしそうに笑う少女。
「でも、ずっとリゼリア様だけを見ていらっしゃるから、諦めました」
「えっ……」
思わぬ言葉にリゼリアは目を瞬かせる。
「有名でしたよ?」
「ノア先輩、リゼリア様のお話になると、すぐ笑顔になるんです」
「そんなにですか?」
「はい!」
少女は嬉しそうに頷いた。
「本当に仲が良くて、みんな憧れていました」
そう言って去っていく。
リゼリアは少しだけ照れくさくなった。
「どうしました?」
戻ってきたノアが不思議そうに首を傾げる。
「何でもありません」
「?」
「内緒です」
くすっと笑う。
ノアは理由が分からないまま、一緒に笑った。
◇ ◇ ◇
学院を出る頃には、夕日が校舎を赤く染めていた。
「来年はリゼの卒業ですね」
「そうですね」
「きっとあっという間です」
二人はゆっくりと並んで歩く。
「卒業したら、お仕事で忙しくなりますよね」
リゼリアが少し寂しそうに言うと、ノアは優しく微笑んだ。
「忙しくなっても、リゼとの時間は大切にします」
「本当ですか?」
「もちろんです」
迷いのない返事だった。
リゼリアは嬉しそうに笑う。
「約束ですよ」
「はい。約束です」
夕暮れの道を、二人はゆっくり歩いていく。
幼い頃から交わしてきた約束は、もう数え切れないほどになった。
リゼリアはその一つひとつを、大切な宝物のように胸にしまっていた。




