第二十一話 舞踏会の夜
リゼリアが十二歳。
ノアが十四歳になった春。
王城で、若い貴族たちの親睦を目的とした舞踏会が開かれることになった。
社交界デビュー前の子どもたちが、礼儀作法やダンスを披露するための小さな舞踏会。
婚約している二人にとっても、大切な催しだった。
◇ ◇ ◇
「お嬢様、本当によくお似合いです」
侍女が最後にリボンを整え、満足そうに微笑む。
鏡の中には、淡い水色のドレスをまとったリゼリアが映っていた。
「少し緊張します」
「ノア様がお隣にいらっしゃいますから、大丈夫ですよ」
リゼリアは小さく笑った。
「そうですね」
◇ ◇ ◇
王城の大広間は、煌びやかな光に包まれていた。
音楽が流れ、色とりどりのドレスが揺れる。
「リゼリア様」
優しい声に振り向く。
「ノア」
自然と笑みがこぼれた。
紺色の礼服に身を包んだノアは、いつも以上に凛々しい。
眼鏡の奥の優しい瞳は変わらないのに、少しだけ大人びて見えた。
「そのドレス、とてもお似合いです」
「ありがとうございます。ノアも、とても素敵ですよ」
「……ありがとうございます」
ノアは照れたように微笑んだ。
◇ ◇ ◇
「それでは、婚約者同士のダンスをどうぞ」
司会役の声が響く。
ノアはリゼリアの前へ進み、一礼した。
「リゼ」
少しだけ照れながら名前を呼ぶ。
「一曲、お相手をお願いできますか?」
リゼリアもドレスの裾をつまみ、優雅に礼を返した。
「喜んで」
二人は音楽に合わせて踊り始める。
息はぴったりだった。
婚約してから何度も練習してきたのだ。
「やっぱりノアはお上手ですね」
「そんなことはありません」
ノアは少し恥ずかしそうに笑う。
「昨日も家で何度も練習してしまいました」
「まだ緊張しているんですか?」
「はい」
素直に頷く。
「王城で、リゼと踊るのは今日が初めてですから」
その言葉に、リゼリアも微笑んだ。
「私も少し緊張していました」
「本当ですか?」
「ええ。でも、ノアの顔を見たら安心しました」
ノアは一瞬目を丸くしたあと、照れたように笑った。
「僕もです」
その笑顔につられて、リゼリアも笑う。
何度も一緒に踊ってきた。
それでも今日が特別なのは、この場所だから。
王城という晴れ舞台で、婚約者として並んで踊る。
その事実だけで胸がいっぱいになった。
◇ ◇ ◇
曲が終わると、会場から温かな拍手が送られた。
「お見事でした」
「息がぴったりでしたわ」
貴族たちが微笑みながら口々に褒める。
年配の伯爵夫人が二人を見比べ、優しく笑った。
「本当にお似合いですこと」
「将来が楽しみですわね」
リゼリアは照れくさそうに頭を下げた。
「ありがとうございます」
隣ではノアも耳を赤くしながら一礼する。
「そのように仰っていただけて光栄です」
二人の初々しい様子に、周囲から穏やかな笑いがこぼれた。
◇ ◇ ◇
帰りの馬車。
「今日は本当に楽しかったですね」
リゼリアが窓の外を眺めながら言う。
「はい」
ノアも穏やかに頷いた。
「家で練習した時よりも、ずっと楽しかったです」
「私もです」
「また一つ、素敵な思い出が増えましたね」
「ええ」
リゼリアは嬉しそうに微笑んだ。
「これからも、たくさん思い出を作っていきましょう」
「はい」
ノアは優しく微笑み返す。
「約束です」
二人は顔を見合わせて笑った。
窓の外では、春の夜風が静かに王都を包んでいた。
リゼリアは、その穏やかな景色を眺めながら願う。
――この幸せが、いつまでも続きますように。




