第十八話 雪の日の約束
その年、王都には珍しく大雪が降った。
窓の外は、一面の銀世界。
庭園も噴水も、白い雪に覆われている。
「まあ……」
リゼリアは窓辺に立ち、小さく目を輝かせた。
「綺麗……」
すると、侍女が笑う。
「今日はノア様がお見えになりますよ」
「え?」
「雪をご覧になりながら、お茶をご一緒したいそうです」
リゼリアの顔がぱっと明るくなった。
「本当?」
「はい」
◇ ◇ ◇
レイヴェルト公爵家の温室。
ガラス越しに降り続く雪を眺めながら、二人は温かい紅茶を飲んでいた。
「外は寒そうですね」
ノアがカップを持ったまま微笑む。
「でも、温室の中から見る雪は好きです」
「私もです」
リゼリアは頷いた。
「静かで、不思議な気持ちになります」
「ええ」
二人はしばらく黙って雪を眺める。
この沈黙は、もう気まずくない。
むしろ心地よかった。
「ノア様」
「はい?」
「雪はお好きですか?」
ノアは少し考えてから答えた。
「昔は、あまり」
「そうなんですか?」
「寒いのが苦手なので」
「ふふっ」
「でも」
ノアは窓の外を見つめたまま言った。
「今は好きです」
「どうしてですか?」
「こうして」
ノアは少し照れながら笑う。
「リゼリア様と一緒に見られるので」
リゼリアは思わず息を止めた。
まただ。
この人は、こういうことを無意識で言う。
「……ずるい」
「え?」
「なんでもありません」
リゼリアは紅茶で誤魔化した。
顔が熱い。
ノアはきっと気付いていない。
だから余計にたちが悪い。
◇ ◇ ◇
温室を出ると、雪はまだ降り続いていた。
「少しだけ歩きませんか?」
リゼリアが言うと、ノアは嬉しそうに頷いた。
二人は護衛と少し距離を取りながら、雪道を歩く。
「足元、滑りますから気を付けてくださいね」
「はい」
歩いていると、リゼリアは立ち止まった。
「どうしました?」
「見てください」
真っ白な雪の上に、自分たちの足跡が並んでいる。
二人分の足跡。
寄り添うように続いている。
「……なんだか嬉しいですね」
リゼリアが笑う。
「本当ですね」
ノアも微笑んだ。
「この足跡みたいに」
ぽつりと呟く。
「これから先も、一緒に歩いていけたら嬉しいです」
リゼリアは胸がいっぱいになった。
何気ない言葉。
でも、その一言が何より嬉しかった。
「もちろんです」
自然と笑みがこぼれる。
「婚約者ですもの」
「……はい」
ノアは幸せそうに笑った。
その時だった。
ひらり。
雪がリゼリアの髪に落ちる。
「あ……」
ノアは少し迷ってから、そっと手を伸ばした。
「失礼します」
指先で雪を払う。
それだけ。
たったそれだけなのに。
二人とも、少し照れくさそうに笑ってしまった。
帰り際。
振り返ると、雪の上にはまだ二人の足跡が残っていた。
並んで。
寄り添って。
どこまでも続いている。
リゼリアは、その足跡を見つめながら思った。
この道が。
これからもずっと続けばいい。
何も恐れることなく。
ノアと一緒に歩いていけますように、と。




