第十七話 秘密のお願い
冬が近づき始めた頃。
リゼリアは、レイヴェルト公爵家の図書室で本を閉じると、向かいに座るノアを見つめた。
「ノア様」
「は、はい」
「お願いがあるのですが」
ノアは姿勢を正した。
「僕にできることでしたら」
リゼリアは少しだけ言いづらそうに微笑む。
「この前……眼鏡が外れた時のこと、覚えていますか?」
「……っ」
ノアの肩がぴくりと震えた。
「お、おぼえています」
「その時、とても素敵でした」
「…………」
返事がない。
見ると、耳まで真っ赤になっていた。
「だから」
リゼリアは少し照れながら言った。
「私だけに見せていただけませんか?」
「え?」
「眼鏡のないお顔です」
しん、と図書室が静まり返る。
ノアは瞬きを繰り返した。
「ぼ、僕の顔なんて見ても……」
「見たいんです」
即答だった。
「…………」
ノアは困ったように笑う。
「その……恥ずかしいです」
「一瞬だけでも?」
「……」
「駄目ですか?」
その言葉に弱かった。
ノアは観念したように小さく息を吐く。
「……リゼリア様には敵いません」
そう言って。
そっと眼鏡へ手を掛けた。
ゆっくり。
ゆっくりと外す。
さらり、と前髪が揺れる。
「……わぁ」
思わず声が漏れた。
やっぱり綺麗。
前よりも、ずっと。
冬の柔らかな陽射しを受けた瞳は、宝石のように輝いていた。
「そんなに見つめられると……」
ノアは困ったように笑う。
「照れてしまいます」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて目を逸らす。
「でも、本当に素敵です」
「……ありがとうございます」
ノアは少しだけ照れながら眼鏡を掛け直した。
いつもの気弱そうな雰囲気へ戻る。
「やっぱり、眼鏡を掛けると印象が変わりますね」
「そうですか?」
「ええ」
リゼリアはくすりと笑った。
「どちらのノア様も好きですよ」
その瞬間。
ノアはぴたりと動きを止めた。
「……あ」
リゼリアも気づく。
今。
何と言った?
"どちらのノア様も好き。"
顔が熱くなる。
「ち、違うんです!」
「その、婚約者としてという意味で!」
「もちろん、それ以外の意味ではなくて……!」
必死に言い訳を並べるリゼリア。
すると。
ノアが、ふっと笑った。
「分かっています」
穏やかな笑顔だった。
「でも」
少しだけ照れくさそうに。
「すごく嬉しかったです」
その笑顔を見て。
リゼリアは思う。
ああ。
私はもう。
ノア様の笑顔を見るだけで、幸せなんだ。
そんな自分に気づいて。
少しだけ照れくさくなった。




