第四十一話 過去の自分と今の自分
レイン・ルーディア目線
「生物の本性が見られる時ってどこだか分かるかね。レイン君」
ルーディアは先頭をきり、レインに小言で質問をする。
「誰からにも見にくい場所ってのは分かるけど....洞窟の中にある巣に潜入はやばいよぉ」
とレインは泣きっ面で言う。
「そんなことを言っている場合じゃないだろ」
ルーディアとレインは足音を殺し、少しずつ洞窟の向こうへと進んでいく。
どうやら、ルーディアとレインがバッタの動向を追っていると、洞窟の奥にある巣を見つけてしまったのだ。
普通ならば、洞窟自体を巣にするのだが、洞窟の一部しか巣にしてないので、もしやと思い侵入を実行した。
ここまで目立たないように巣を作っているということは、もしかすると女王バッタがいる巣なのかもしれない。
そうなれば、他のみんなも呼び寄せ、一気に襲撃をするだけである。
洞窟の中は、暗く恐ろしいほど静かである。
水の滴が落ちる音が辺りに響くほどだ。
熱帯気候であるこの地では、洞窟は丁度良い休み場になるだろう。
「ねぇ怖いよ!!後ろから幽霊とか来たらどうするのぉ〜....」
洞窟は奥に進むほど太陽の光が届かなくなり、真っ暗になっていた。
レインはそれを怖がりルーディアの後ろにつきルーディアの肩を両手でしっかり掴んでいた。
「うるさい!弱音吐くな。鬱陶しい」
ルーディアの冷徹な言葉にレインは余計精神を追い込まれる。
ポタン
「ヒッ!!」
レインの口から押し殺した悲鳴が出る。
レインは、水滴の音で驚いてしまったのだ。
手足は、極度の恐怖で震えていた。
「いいから黙ってよ!!」
ルーディアは小声で叫ぶように言った。
「ごめんヨォ〜」
とレインは涙を流すだけである。
ルーディアはなぜコヤツと一緒になったのだと頭を悩ますばかりである。
しばらく進んでいると、微かに羽音の音が聞こえた。
小走りで近付いていくと、キングバッタの姿が見えた。
ルーディアは壁に身を隠しながら見てみる。
そこには、緑色のキングバッタとは違う、黒色のキングバッタがいた。
黒色のキングバッタ....
一体なんなんだ。
確か、二本足のバッタも黒色とか言ってた。
だけど、二本足のバッタとは違う黒色のキングバッタ。
二本足系統のバッタなのか....
キングバッタが成長するにつれの形態なのか。
しかし、なんで黒くなるんだ。
ていうか、突然変異前のバッタは成長してもずっと緑だった聞いている。
ならば、進化であの黒色の体になったのは、何かしらのメリットがあるのか?
分からないことだらけだ。
ルーディアは頭を巡らす。
「キ....キキキ.....」
頭を取られても小刻みに震える体が動いている魔物。
キングバッタ達が、その魔物を噛み千切り、小さな肉塊にし卵へと放り投げていく。
その肉塊は、床、壁に張り付いた卵へと吸い込まれるように入っていった。
膜を張っていないのか?
ならなぜ、あの卵は形を保てている?
まさか、魔力によるものなのか?
確かに、ここまでの卵を産むとなると、膜などの物よりもそこら中にある魔力を取り込み、産んでいった方が効率よく大量の卵を産めるだろう。
だが、最初ら辺に見た卵と巣に乗り込んで壊した卵は殻付きであった。
卵を産んでいる途中で進化でもしているというのか?
どれほどキングバッタとやらはヤバいんだ。
「おい....嘘だろ」
レインは震えた声でそう言う。
「なんだ?」
とルーディアは後ろを振り返ると、そこには“ネズミ”がいた。
しかし、そのネズミはユレンの前世にいたような普通のネズミではない。
ネズミは、形を徐々に膨張していく。
「やめろやめろやめろ!!」
「嘘だろ....」
そして、一定のデカさになると、体が爆発するように弾けた。
その音、衝撃波は、すぐにキングバッタの気を引いた。
それにより、レインとルーディアは見つかった。
キングバッタは一斉にこちらへと襲いかかってくる。
その中には、ラロット組が村に帰る時に見た巨大な黒いキングバッタも含まれていた。
ルーディアは弓を構え、戦う姿勢を見せる。
「凍てつく矢を――」
ルーディアが詠唱を始めた途端、後ろから頭にチョップが入る。
したのは、レインだ。
「バカかお前!!あのバッタ共を見てみろ。勝てるわけないだろ!!早く逃げるぞぉおおお!!!」
と恐怖と怒りが入り混じった声でレインが叫ぶと、ルーディアの後ろの襟を掴み一目散に逃げ出す。
「――でも」
「黙れ!!無鉄砲野郎!!いいか?戦っとしても俺たちは100勝てない!だから逃げるんだよ!!イヤァアアアアアア」
レインは怒りと恐怖で情緒がグッチャグチャである。
レインの判断は実際正解だ。
ルーディアは逃げても追いかけられると思い、戦いの選択肢を選んだ。
だが、狭く障害物の少ない洞窟では、キングバッタに勝率が上がる。
普通のキングバッタを相手にするのに4体が限界。
相手は7体いる。
それに巨大なキングバッタがいる中での戦いは、レインの言う通り勝率は0に等しい。
ギャアアアアアア!!と目を充血させながら、レインは足を走らせる。
レイン逃げ足はっや、とルーディアは心の中で呟いた。
洞窟を出て、無我夢中でレインは走る。
レインが走った後には砂埃がブワッと辺りに立ち込めるほどだった。
しかし、バッタの飛行スピードは、人間の“走り”とは比べ物にならないものだった。
キングバッタはレインの前へと立ちはだかる。
レインはすぐに斜め前へと進んでいくが、壁にうちあたる。
後には、6匹のバッタ達。
絶体絶命の状況であった。
「ヤバいヤバいヤバい!!どうする?」
とレインは焦った様子でルーディアに聞く。
「私に聞いても分かるわけないじゃん!!」
「あわわわわ」
「えっと取り敢えず戦うしかない!はやく剣を取って!」
とルーディアはレインに急かした。
しかし、レインはあまりの恐怖に気絶をしてしまった。
倒れるレインをルーディアの頭を手で支える。
「ねぇ!!なに気絶してんの!起きてよ!!」
ルーディアはいきなり気絶するレインに動転しながら、叫ぶ。
だが、起きない。
あまりの絶望的な状況にルーディアは腰を落とす。
ここで私死んじゃうの?
そんなの嫌だ。
バッタ達は、ルーディアの方へと足を進めていく。
だが、違和感があった。
顔を向けている方向は、ルーディアの膝の上にいるレインにあったからだ。
確かに、叫んで逃げたりと一番目立ってたのは、レインでありそれによりキングバッタの気がレインの方にあったからだ。
ルーディアはそのことに気付くと生存の糸口を見つける。
そう、レインを見捨てて自分だけ逃げることであった。
そうすれば、自分は死なずに済む。
前もしてきたことだ、別に私に守る尊厳などない。
レインは死んでしまうが、戦いの途中に死んでしまったなど言えば、特に見捨てたなど怪しまれないだろう。
それに、勝手に気絶したのはレインだ。
ルーディアに非はないと、ルーディアが心の中で言い訳をする。
だが、なぜだろうか。
なぜ、ルーディアは弓を構えているのだろうか。
ここで攻撃をすると言うことは、レインが引いている注意を自分に移すことになる。
それは、ルーディア自身が逃げ道を潰すと言うことと同じことだ。
ルーディアは、なぜ弓を構えるのかを何回も自問自答をする。
「だって....見捨てるなんて、できるわけないじゃん....」
ルーディアが行き着いた自分自身の行動の答えは、こうであった。
前までのルーディアとは違うルーディア。
フィオナとの戦いで自分の本当の気持ちに気付いたからである。
仲間を見捨てるなど、もうルーディアには胸が苦しくなりできなくなっていた。
ルーディアは瞳に涙を浮ばせ、矢を引く。
放たれた矢は、キングバッタの頭に命中するが少し怯むだけだった。
そうだ、ルーディアの与えられた役割は、護衛であり倒すことではない。
だから、ルーディアはどう足掻いてもバッタの命を狩れないのだ。
弓を地面に置き、気絶しているレインの方を揺さぶる。
「ねぇ起きてよ....お願い」
涙声で上手く話せない。
拙い喋り方になっていた。
目の前には、6匹のバッタ達が無情にもこちらへと足を進めていた。
「私達、このままだと、ここで死んじゃうんだよ?」
ルーディアの涙がレインの顔にポタポタと落ちる。
その瞬間、レインの手がピクっと動く。
気のせいだろうか、ルーディアは瞳にある涙を手で拭う。
そして、ルーディアが瞬きをした時には、レインは剣を構える姿勢にへと変わっていた。
「ルーディア。できるだけ、後ろへと下がっていろ」
レインの情けない声から一変し、低く威厳のある静かな声になっていた。
「....え?」
ルーディアはレインの変わりように、困惑する。
言われた通りに、後ろへと下がる。
レインは目をバッと開けバッタ達を見る。
瞳には赤い亀裂のような模様があった。
剣を抜き、レインは技を使う。
「真空風刃ッ....!!」
レインが地面を蹴った。
その瞬間、ルーディアの視界からレインの姿が消えた。
「……え?」
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
次の瞬間。
ヒュンッ!!
鋭い風切り音が辺りに響き渡る。
レインの姿は、キングバッタたちの間を縫うように駆け抜けていた。
一匹目。
二匹目。
三匹目。
その剣筋を、ルーディアは目で追うことすらできない。
ただ、レインが通り過ぎた場所に、風が吹き抜けていくのだけが分かった。
まるで突風のように....
そして、
ピタリ。
レインの動きが止まった。
静寂が訪れる。
キングバッタたちは、まだ自分たちに何が起きたのか理解していないようだった。
しかし、次の瞬間。
ボトッ。
一匹の首が地面に落ちた。
続けて、
ボトッ、ボトッ、ボトッ。
残りのキングバッタたちの首も、次々と地面に転がっていく。
六匹すべての首が落ちた。
レインは何事もなかったかのように、静かに剣を鞘へ収める。
カチン。
その音だけが静まり返った辺りに響いていた。
ポカーンとしているルーディアにレインは急いで駆け寄る。
「大丈夫だったか?今バッタを6匹倒したが、もう一匹のあの巨大なバッタがいない。巣を守る為に戻ったのか知らんが、どちらにせよここに止まるのは危険だ。安全な場所へ逃げるぞ」
「ごめん。足が動かないの....」
レインは、ルーディアの手を取り、おんぶをする。
「えぇ?私子供じゃないよ!」
「バァカ 足も動かせない、おばあちゃんだから、おんぶをするんだよ」
「失礼ね!!」
とルーディアは怒った。
◇
レインとルーディアはあの場を離れた。
そして、木陰の場所を休憩場所にした。
「ねぇ」
とルーディアはレインの一変した態度に疑問を抱き、質問しようとする。
だが、レインは寝ていた。
すると突然、起き出したかと思えば、周りを見だす。
「ね!!あのバッタ達はどうしたの?もしかして、あの状況から逃げてきたのか?ありがとう〜!!」
レインは泣きながらルーディアに飛びつく。
ルーディアはレインの分からない行動に終始困惑し、レインのハグを受け入れてしまう。
ルーディアは、脳の処理が追いついてくると、レインを離す。
「ねぇ!!本当に何も覚えてないの?」
「何も覚えてないって?ルーディアがここまで俺を逃がしてくれたんじゃないのか?」
とレインは、涙と鼻水を垂らしながら言う。
そのレインの鼻水は、ルーディアの服に付いて伸びていた。
ルーディアは怒りがきたが、途中からバカらしくなる。
あのカッコいい姿のレインが今では嘘みたいである。
ため息を少しつく。
そして少し微笑むと、
「バァカ!レインがバッタを倒したんだよ!!そのことを覚えていないって....レインって二重人格なのかな」
「え?どういうこと!!」
「そのままの意味だよ!!」
「俺が?二重人格??」
「そうかなーって!もう分かんない」
ルーディアはそう言うと、立ちレインの鼻水を手で払った。
「あ、それとありがとね」
ルーディアは笑った。
レインは、終始、頭に??しかなかった。
レインは二重人格です。
恐怖で気絶して動けない自分を無理矢理動かす為に、怖がらないレインをもう一つの人格として宿しました。




