第四十二話 志願兵
フィオナ・ナギ視点
「この巣も襲撃したところで何もなかったな」
ナギは、子供のバッタを足で踏み付け固定し、頭を斬り落とす。
「そうですね。やはり、小さな巣だけでは有益な情報など得られないんでしょうか?」
フィオナが首を傾げる。
「そうなのかもな。にしても、さっきからあちこちで飛び回っている黒いバッタはなんなんだ?」
と、この巣に居た殺した黒いバッタを見ながら言う。
「それってキングバッタなのでしょう?」
「ああ、キングバッタなのには違いない。この黒いキングバッタ達は、緑のキングバッタよりも妙に体が硬い気がするんだ」
ナギは腰を下ろし、バッタの黒い鎧のような部分を触る。
文字通り、鎧のようなモノで、金属のようにしっとり冷たく、硬い。
無機物のようであり、生き物から生まれた温かみのようなものを感じない。
この黒い鎧が二本足のバッタの黒い部分と通ずるものがあれば、ユレンの加工技術能力が効力をなすだろう。
ナギは二本足を又もや思い出してしまい、軽く舌打ちをする。
辺りにの空を蹂躙するバッタ達。
緑のバッタもいれば、黒のバッタもいる。
黒のバッタが成長しきったキングバッタの姿だとすれば、あの緑色のバッタ達もすぐに黒色へと変わるのだろう。
そうなれば、少数匹で固まってるバッタ達にも襲撃が行えなくなるだろう。
今の比率としては緑が6、黒が4だろうか。
早めに戦いを終わらせなければ....
「ナギ。ここまで来ると、志願兵達を戦場から退避させた方がいいかもしれません!!」
「いいや、人手はあった方がいい。情報を収集する今ではもっとな」
ナギはフィオナの意見をキッパリと否定する。
「しかし、志願兵さん達は最初の卵の場所を見張っているだけらしいです。それだけなら、情報が入らないと思います。居ても危険なだけです」
「今の状況を分かっているのか?そんな所に気を配っている余裕もない。それどころか俺らが勝てる確率が随分と低いんだぞ?」
「そんぐらい知ってますー!・・・・それなら、一緒に行動させましょう!!人手も増えてバッタ倒しもやりやすくなるでしょう!」
どうやら、フィオナはスタンスを一歩も退く気がないようだ。
ここで、揉めても時間がもったいないだけである。
ならば、こちらが折れようとナギがため息を吐きながらそう思う。
志願兵と一緒に行動したところで、邪魔になるだけであろう。
にしても、フィオナの仲間想いは相当である。
周りの中でもフィオナは一番であろう。
何故なのだろうか、いや考えるのはやめよう。
仲間を想う気持ちに疑問を持つ方がおかしいだろう。
仲間を助け合うのは、自然のことだからだ。
「分かった。志願兵を村に退かせよう」
「はい!」
とフィオナはパッと目を開け笑顔になる。
◇
志願兵達がいる場所にへと戻った。
そこには、志願兵達の死体があった。
フィオナとナギは、その現場を見て言葉を失う。
頭部が強い圧迫からか変形している。
体から内臓が絞り出されたかのように、飛び出していた。
まるで、何かに強い衝撃で殴られたかのようだった。
これはキングバッタの仕業ではない。
キングバッタの仕業なら、圧迫されて死んだような形にはならない。
キングバッタなら、切り刻んでから食す。
そもそも、こんな場所に死体など残らないんだ。
いや、違う。
これはキングバッタの仕業だとナギだけが直感する。
そう、二本足のキングバッタである。
ナギはそいつと戦った経験から、そいつの戦い方が分かっていた。
二本足の戦い方は、殴る蹴るなどの圧迫系である。
もしも、そいつがこの志願兵を殺したならば、この状況が説明つくだろう。
「二本足の仕業かもしれない.....」
フィオナとナギは怒りを覚えていた。
それと同時に、恐怖さえも覚えた。
二本足が動き出したとするならば、そいつに出会した隊はおそらく全滅するだろう。
それがラロット組だったとしてもだ。
フィオナは近くに無惨に倒れている志願兵一人を抱きしめた。
この状況は、フィオナが一番憤っているだろうとナギは推測する。
そして、もっと早く志願兵を退避させていれば....とも思っているだろう。
しかし、ナギの考えは違っていた。
もし志願兵がいなければ、標的は俺らだったかもしれない。
或いは、それ以外のレイン・ルーディア組、ラロット組など。
志願兵達がいたから、俺達はこうして生きている。
身代わりになってくれたともナギには捉えられたのだ。
こんな所で自責の念に駆られられても困るだけである。
ナギはそう考えた。
「フィオナ....おもいつ――」
フィオナ、思い詰めるな、お前のせいではない。とナギが言い掛けた瞬間フィオナは口を開く。
「死ぬ時って寒くて孤独らしいですよ」
フィオナは、まるで死ぬ直前の人に聞いたかのように、冷たく呟く。
だから、フィオナは死体を抱きしめ、それを緩和させようとしているのか。
ギュッと抱きしめている。
しかし、ここに長居するわけにもいかない。
時間がないこともあるし、死体がある場所は目立つ。
死体の匂いだ。
既に、小さな虫達が志願兵の体に蝕んでいる。
いずれ、バッタ以外の魔物も集まり出すだろう。
その前に、早めにこの場を退散せねばならない。
「フィオナ、そいつらから離れて任務に戻るぞ」
フィオナは、志願兵達を村に連れ帰りたい気持ちがあった。
しかし、ここはヘルシャース。
魔境であるがために、そのような私情は許されない。
死臭など放ちながら移動すれば、魔物の格好の的になるだろう。
それはフィオナもナギも分かっていた。
だから、諦めるしかない。
フィオナは死体を地面に横たえる。
フィオナは佇みながら、拳をギュッと握る。
怒りのあまり小刻みに震えていた。
「そうですね。この人達はここに置いときましょう」
ナギとフィオナはその場から離れた。
◆
夜になった。
夜は視界が悪くなるので、山の中腹にあった小さな洞窟に入り、焚き火を焚いた。
そして、そこらの川で獲れた魚と事前にフィオナが忍ばせていた肉を焼いた。
「あ、その魚も食べていいですか?」
ナギの分である。
だが、フィオナの食欲が底がない。
だから、人のでも食べたくなってしまうのだ。
そのことは、ナギは理解している。
「ああ、好きに食べればいい」
ナギは了承すると、フィオナは嬉しそうな声で
「ありがとうございます!!」
と言い、フィオナ魚をガブガブ食べた。
「美味しい〜!」
フィオナはガブガブ食べ、美味しいそうに頬を抑える。
そんなフィオナにナギは質問する。
なんともない些細な質問だ。
「なぜフィオナはそこまで仲間想いなんだ?」
フィオナは眉を顰め、意味の分からないと言いたげな顔をする。
「何言ってるんですか?仲間を想うのは普通のことじゃないですか」
そう言いながら、フィオナは肉に手を伸ばす。
「いや、そういうことを言いたい訳じゃない。昔からお前は仲間を救う為なら自分の身の危険すら厭わない。いつか仲間を救うために命さえも投げ出しそうだ」
リザードマンとの戦いの時もルイスを助ける時に、右手に傷を負ったことだってある。
ナギはそう言うとフィオナは肉を置いた。
フフッと乾いた笑い声を響かせ、顔を俯かせる。
フィオナの青い髪が顔を隠した。
「昔の私の恩人との約束があるからです」
「約束....?」
「はい。あ、ちょっと顔を洗ってきますね」
フィオナはこれ以上話したくないかのようだった。
逃げるように、この場を立ち去る。
五憲の守人は子供からの長い仲であるが、フィオナに何があったのかは知らなかった。
だが、フィオナは自分の話を避ける。
だから、その話を聞くのはあまり良くないだろうとナギは考えた。
ナギは、あまり目立つことは避けるために焚き火の火を消した。
そして、壁に背中を預け、目を閉じ顔を俯かせる。
ナギはそうして寝ようとした。
だが、寝れない。
しばらく寝ようと試みるが寝れない。
だから、外に出てリラックスをしようかと思い、目を開け出口を見た。
そこには、二本足のバッタがこちらを覗いていた。




