第三十八話 水際の少年
ラロット・リエル・リドル視点
村を出て数十分。
巣を探すため、辺りを走り回っていた。
バッタがいる巣穴を荒らせるのは、ラロット組しかない。
この作戦にとって一番とも言える要である。
そのことは、ラロット組も自覚している。
だから、一時も手を抜けない。
どんな巣に女王バッタがいるかを考えてみた。
ユレンとルンの考えだと、大きい巣か見つけにくい場所にある小さな巣。
この可能性が高いと言っていた。
確かに、見つけやすい小さな巣には女王バッタなどいない。
大きい巣は、大きな巣は規模が大きい分、発見されやすい。
キングバッタが知能を持っているなら、わざわざそんな場所に女王を置くとは考えにくい。
だが、大きな巣も無数にあり、ラロット組の力をもってしても攻め入れない鉄壁である。
どうするべきだろうか....と頭を悩ませる。
見つけにくい小さな巣を見つけ出すのもいいが、ラロット組に命じられている任務の本質は、巣を荒らし、そこから見えるキングバッタの生態を見ること。
その生態から、女王バッタの糸口を見つけ出す方法があるかもしれない。
でも、小さな巣を攻めても見れなかったキングバッタの生態を見ることができるのだろうか。
少し、疑問が残る。
「たくさんの小さな巣を攻めて、キングバッタの特徴を見つけ出すしかないな!!」
とリドル。
「流石、俺の弟!!俺の考えとあってるな!!」
リエルはリドルの両肩に腕を回す。
仲が悪い兄弟がたくさんいる中で、この兄弟は異常とも言える程、仲が良い。
なんでであろうか。
「まぁ、俺も考えてることは同じだ。だが、それで本当に生態を見れるかどうかは疑問だ」
「まぁ、やるっきゃないっしょ!!」
リドルの能天気ぶりにラロットの緊張が少し解ける。
「そうだな。やるしかない。後戻りはできねぇ」
小さな巣を見つけようと駆け回る。
そうしていると、リドルが「おい!」とラロットとリエルを引き止め、ある方向を指差す。
ラロット達がそちらの方向へと目をやると川の水際に人間らしきものが流れ着いている。
目を凝らし、よく見てみると、少年だった。
服は川にある石に当たったからだろうか、所々破れている。
全身傷だらけで、まるで何かから一生懸命に逃げてきたようだった。
意識はない。
その時だった。
少年のすぐ近くで、水面が大きく揺れた。
何かいる。
すると、少年の近くに爬虫類の鱗のようなものが水面から出てる。
あの鱗はヘルシャースにいる固有の魔物。
ナンバワニだ。
大人になると全長20mを誇る。
肉食である。
そしてワニは大きく口を開く。
狙いは少年だ。
「お前ら!!」
ラロットは気付き、瞬時に動く。
ナンバワニは、少年を丸呑みにしようとする。
「昇炎」
刃を炎に包む。
ラロットは剣先を下から上へと昇るように走らせる。
間一髪だった。
ラロットの剣先は、ワニの歯に辺り硬直状態になる。
「リドル!」
リドルは、少年を水から引き上げる。
少年の胸元を触ると、心臓の音が聞こえる。
低体温症になっているが、少年は生きていると確信が持てた。
「白く凍てつく精霊よ、時の流れを拒み、万物を静寂へ導け!絶零氷状クラシアネヴァ」
リエルがそう唱えると、川の水がたちまち凍りだし、ワニの動きを止めた。
「ありがとう!リエル!!」
ラロットは感謝すると、魔力を刃に集中させる。
そして、口の中から脳天へと一突きし、ナンバワニを絶命させた。
完璧な連携をみせたのだ。
ラロットは、剣を鞘に収めると、少年の方へと駆け寄る。
「大丈夫か?この少年」
「大丈夫だよ!俺見た感じ」
水で濡れた髪を指であげ、顔を見る。
スッとした鼻筋に可愛いらしい輪郭だった。
顔色は悪いが、命に別状はないなとラロットが安心する。
「この少年を俺らの村に連れ帰った方がいいんじゃないか?」
ラロットはリエルの意見に同意した。
◇
ユレン視点。
俺はルーレトと修行するぞ!!と思ってたら、作戦に出ていった筈のラロット達が戻ってきた。
うん?なんでだ?と思って、ラロット達をよく見るとラロットの腕の中に、一人の少年がいた。
この少年....見たことがない。
ヴァンパイアとかリザードマンのような見た目ではない。
違う種族なのか?
まぁ、ヘルシャースにそんなのがいても不自然ではない。
「この少年は?」
俺はラロットに聞く。
「川の水際に引っかかってました。気絶しているだけで、命には別状はなさそうです。早く医務室に」
水際に引っかかっていたか....
川の上流から流れ着いてきたと考える方が自然か。
にしても傷だらけだ、痛そうに。
医務室で治してやろう
「そうだな!!」
「ちなみに!俺が見つけたんだぜ!!」
リドルは手を挙げ跳ねていた。
「ああ!よくやった」
俺は褒めると嬉しそうな顔をした。
◆
少年を医務室に持っていきベッドに寝かせる。
そして、アスナが回復魔法を施し、みるみる傷を塞いでいった。
「どうしたんですか?この可愛らしい少年」
とアスナが少年の艶々な髪の毛を撫でる。
「川の水際に少年が流れ着いていた所をラロット達が保護したんだってさ」
俺はそう答える。
そして続ける。
「そうだラロット達ってこの少年を見たことあるのか?」
「いえ、自分は見たことありません」
とラロットが首を横に振る。
「私もです」
とラロットの言葉に便乗するアスナ。
「リエル、リドルは?」
「リザードマンである俺たちもサッパリです」
「俺もー!違う種族なのかな!」
そうか、ならこの少年はどこから来たかは不明というわけだ。
にしても、この少年の見た目は人間とほぼ変わらない。
服は長袖に半ズボンのラフな格好をしている。
外の世界の奴がまして少年が、こんなラフな格好でくるわけでもないから、ヘルシャースで生活をしている種族なのだろう。
起きる気配もないので、違う部屋で起きるのを待つことにした。
「ラロット達はどうする?」
「自分は、少しの間だけ少年が目覚めるのを待ちたいです。見つけた以上、放っておくのは嫌です」
「俺もだ。どこから来たか聞きたいし、バッタ共に出会っている可能性が高いと思います。だから、有益な情報も得られそうですし」
「そうだね!」
ラロット組は、少しの間だけ残る決断をした。
まぁ、そうだな。
リエルの言ってる通り、有益な情報を得られるかもしれないから、その場で聞いときたいよな。
「それじゃ私がつきっきりで見ておきますので!」
とアスナが笑顔で任してくださいと言わんばかりである。
この少年が起きた瞬間、錯乱でも起こしてアスナに襲いかかるのでは?
そうなると、アスナは対処できるのか?と心配があるが、仲間を信じるのも長には大事な心得だと思い、アスナと少年だけにさせることにした。
「頼んだ!」
俺とラロット達は部屋を出た。
あの少年をどうするかについて相談したかった。
俺はラロットだけを執務室に呼んだ。
なぜラロットだけかと言うと、あんま深い意味はないが、リーダー的存在なのと三人を呼んで意見が割れるのを取りまとめることなんて今やってられない。
「なんでしょうか?」
「あの少年のことなんだが....」
「あの少年の今後についてでしょうか?」
「ああ、事実上、今は俺らが保護していることになるが、あの少年をどうしたい?」
「どうしたいとは?」
ラロットは眉を顰める。
「勝利に有益な存在だった場合、利用するかどうかだ」
「....何を言って」
俺の言葉に思わずラロットが荒げる。
そうか、ラロットはそう言うスタンスなのか。
ラロットは、目線を下げ申し訳なさそうな顔をして口を開く。
「こんな状況で私情を挟み申し訳ありませんが、子供を危険な戦場に行かせるのは抵抗感があります。俺達でどうか完結させたいと思っている」
やはり、ラロットだな。
俺は、思わず微笑みが溢れる。
「俺も子供を危険な戦場になど行かせたくない。例え、その子供が勝利にとって有益な存在であってもだ。しかし、状況が状況で心が揺らいでしまった。だから、誰かに相談したかったんだ」
ラロットには試すようなことを申し訳ないと思ってる。
しかし、この戦いに負けると言うのは村の皆んなの死に等しい。
だから、倫理観を捨てるかどうか迷ってしまった。
「いえ、自分がユレン様の役に立てて嬉しいです!先ほども会議で言ったと思いますが、負けるなんて思っていません。何せ自分には仲間がいます」
するとラロットは、にっこりと笑った。
ったく、ラロットに長の座を譲りたくもなってしまうな。
そうなれば、俺の夢は途切れてしまうけどね。
俺がちゃんとした判断ができなくなったら渡すならラロットにしよう。
俺がそう思っていると、医務室から叫び声が聞こえた。
明らかにアスナの声ではない。
少年か....?少年が起きたのか?
俺は急いで、医務室に向かう。
ドアを開けベッドの方へと目線を向けた。
そこには、目を両手で覆い隠し、叫んでいる少年の姿があった。




