第三十話 ヘルシャースから出れない理由
俺は、ルンを引き止め、俺の執務室へと呼んだ。
「なんでしょうか?」
ルンは、首を傾げた。
わざわざルンだけを執務室に呼んだんだ。
不思議がるのは、自然であろう。
俺は、自分の椅子に座らず、部屋の真ん中で立ち話を開始する。
「村の人達をヘルシャースから逃す事はできないだろうか?」
俺は、この作戦を失敗した場合の最悪な事態も想定していた。
失敗した場合、バッタは、この地を蹂躙するだろう。
そうなれば、この村も例外なく、殺戮が行われる。
だから、そうなる前に、村人を安全な地へと逃したいと考えた。
「無理でしょうね」
ルンは、キッパリと言う。
「なんでだ?」
「ユレン様が来た場所は、西からでしょ?」
そうだ。
転移した場所が、ヘルシャースから見て西にある国――ランジュ王国だったからね。
俺はコクリと頷く。
「一回、この村を取り巻く地獄の地から逃げ出そうと、安全の地を見つける為の隊を編成されたことがありました。
しかし、西に進んだもの以外、全員魔物により死にました。
戻ってきた西に進んだ者に話を聞くと、魔物のレベルは弱くなっているが、西に進むにつれ、呼吸が苦しくなったそうです」
「そうなのか?」
「はい。実際私も西に向かってみましたが、同じ症状が起きました。勿論、そのような症状を起こす植物や動物などありませんでした」
「なんでだ?」
「ヘルシャースの外は、あなたの話的に安全な地なんでしょう。
その理由は、空気中にある魔素が少なく、魔物が弱いんでしょう。
だけど、私たちは、この地に生まれた者です。魔素が少ない土地では、適用できなくて、死んでしまうんです。ここでしか生きていけないのです」
「そっか....」
これがヘルシャースからウジャウジャと居る魔物が逃げ出さない理由だったのか。
ということは、逃げることは、不可能。
だったら、勝つしかない。
勝つか死ぬか、その二択である。
手振れが止まらない。
「怖いんですか?」
ルンは、部屋を出る途中に足を止め、俺を背に聞いた。
「あぁ、怖い」
「一応言っておきますが、私達の命は、あなたに救ってもらいました。だから、死んだとしても、何も恨みませんよ。それでは、私は先ほどしていた研究に戻ります」
そうなのか....?
でも、皆を死なせるようなことは、俺には耐えられない。
必ず勝つ。
それだけだ。
しかし、ルンの人物像が掴めないな。
俺的には、研究大好きで、皆よりもサバサバしている感じがする。
それ故に、誰にも心が開かないというか、冷徹というか。
何を考えているか読みにくい。
まぁ、こんな時でも自分のしたい研究をしだすのだから、ある意味人物像は掴めるな。
◇
俺は、結成部隊を送り出す前に、村の人々に事情を説明した。
バッタの突然変異。
女王バッタなどの位置が掴めていないこと。
このままでは、まずいこと。
全てを話した。
村の人々から、どよめきが響き、不安の声も聞こえた。
やはり、帰ってきた時に、状況を説明しておかなくて良かった。
言っていれば、統率を取れなくなっていただろう。
俺は、それを鎮めるために、考えた作戦などを話した。
俺が考えた作戦が、最善策かどうかは、分からない。
だが、村の人々には、希望を持って欲しかった。
そのことも話すと、村の人々の不安の声は、なくなり次第に、応援の声へと変化した。
やはり、村の人々は、勇気のある良い奴らしかいない。
俺には、こいつらを守る義務がある。
俺は、結成部隊と一緒に、村の入り口まで来た。
会議で決めた、結成部隊を始め、バッタの生態を調査する奴もナギとフィオナ以外に増やした。
勿論、志願してきた者で、その中で選んだ奴らだ。
しかし、調査する奴は、バッタに対しての戦いに不安がある奴らなので、戦闘は控えるように言った。
「お前ら頼んだぞ」
俺はそう言うと、皆は微笑んだ。
「大丈夫ですよ。ユレン様」
「はい!!そうですよ!!バッタ共は、私が蹴散らしてやります!!」
「短い期間で、どれだけ尽力できるか分かりませんが、やり遂げてみせます」
ラロット、フィオナ、リエルを始め、皆んなが意気込みを言い出した。
俺はそれを見ていると、手の震えが止まった。
安心できたのだ。
こいつらならやり遂げてくれるそう言う気がした。
すると、リドルが俺の前に立った。
「ユレン様、覚えてますか?昨日のこと」
「あぁ」
きっと、墓のことを言っているのだろう。
「何回も言いますが、俺はユレン様に感謝をしています。だから、ユレン様の為に死ぬことになるなら、喜んで死にます。ですから、必ず俺達を導いてください」
俺は、リドルの言葉に拍子抜けをし、ポカーンとした。
「何言ってんだ?俺は誰も死なせる気などないさ。だから、俺の為に生きてくれ。必ず俺が導いてやる」
俺はそう言うと、リドルは微笑んだ。
「ユレン様らしいです。なんか安心しました」
「我輩は、歳をとって、キツイ任務ができないのが残念じゃ....」
「皆んな、頑張ってください!微力ながらも、村で皆さんの健闘を祈っております」
ルーレトとアスナがそう言う。
「時間がない。そろそろ行こう」
ナギは、そう言うと、皆は俺に背を向け、立ち去っていった。




