第二十九話 方針
「ユレン様!女王バッタの駆除は、出来たのですか??」
「女王バッタが生まれるバッタの卵は、壊したんですよね?」
「ヴァンパイアの元長――ルーレト様は、次世代の女王様の卵を残すと言うスタンスを取っていたのですが、今になっては、バッタの存命の糸を繋いで置くのは、非常に危険だと思います!」
「あぁ、我が子をお守りしてください」
などなど、俺らが村に帰ってきた瞬間、色んな意見が飛び交う。
だが、俺は、その意見への返答は何一つしなかった。
ここで、「女王バッタも次世代の女王バッタの卵も見つかりませんでした!!」なんて言ってみせよう。
村の皆んなは、不安と恐怖に駆られるだろう。
そうなれば、秩序が乱れ、混乱を招き、今一番必要な、未知数の者へ立ち向かう為の“協力”がなくなってしまうかもしれない。
そうなれば、制御を失い、自滅に向かうだけだ。
ならば、今は、何も語らず、対策と作戦を立て直し、希望の光を提示できる時に、質問の問いに答えるのが最善策といえよう。
それが、長である俺が責任持ってする事だと考える。
◇
俺は、中枢議事堂に戻ると、ナギとルンが完全回復している事が分かった。
何故ならば、ルンは研究室に立てこもっており、ナギはソワソワと元気そうに建物内を歩いていたからだ。
元々、深傷ではなかったとは言え、前世の世界では、二週間ぐらい回復に掛かる傷を、回復魔法で数時間にまで短縮されるのは、異常である。
これが、異世界が憧れられる理由であろう。
俺が好きなドラ○エなら、回復魔法から一秒ぐらいで治るけどね!!
まぁ、元気ならば、二人とも会議に参加させようと思う。
なぜルンも?と思うかもしれないが、理由がある。
それは、ルンの意見が作戦に必要だと思ったからだ。
ルンは、この村唯一の研究者である。
研究の対象は、魔力関連のものである。
ならば、魔物のキングバッタについても何か有益な情報を知っているのではないか?と思った。
だから、ルンを研究室から引っ張り出した。
しかし、本当に苦労した。
ルンを研究室から引っ張り出す前、「会議に出てくれ」とドアの前で呼んだ。
返事がなかったので、眠っているのだろうかと考えた。
だけど、緊急事態なので、無理矢理ルンを起こそうと思い、ノックをする。
「研究室に入るぞ」と言い、ドアノブに手を掛け、ドアを引いてみると動かないのだ。
「.....」
「.....」
俺は察した。
こいつ会議に出たくないから、眠っているフリをしていたんだな!?
万が一入ってこられるのを危惧して、ドアに張り付くなど、小癪なマネをしやがって。
「用があるんだ!出てきてくれ」
と言いながら、俺は力いっぱいドアを引く。
「すみません。ユレン様!今、研究の良いところでして....!手を外せそうにありません!!」
と言いながら、ルンはドアを開けられないように、必死に抵抗する。
そこから数秒の一悶着が続いた。
しかし、出てこないので、やり方を変える事にする。
というか、会議に呼ぶ理由を最初から伝えておけば、良かったのかもしれない。
「バッタの件なんだ」
俺は、そう言うと、ドアがいきなり軽くなり、一気に開いた事で、俺はドアの前でよろける。
すると、ルンが勢い良く、研究室から飛び出してきて、俺とぶつかり、二人とも倒れた。
「いたたた....」
俺は、ぶつけた後頭部をさすりながら、閉じてた目を開けると、ルンが俺の体の上に倒れていた。
俺は、体が小柄なルンの脇を手で支え、持ち上げる。
こんな小さな体で、あそこまで俺の力に抵抗していたのか。
凄いなぁ、ヴァンパイア。
いや、“ヘルシャースに住んでいるヴァンパイア”と言った方が間違いはないだろう。
ルンは、魔女が被ってそうな帽子の位置を直し、顔を上げ、何事もなかったような顔をして、口を開く。
「バッタの件とは、どういうことですか?」
「まだ、作戦で共にバッタを討伐しに行った人以外、言ってないのだが、いつもいる筈の場所に、バッタの女王がいなかった。それどころか、次世代の女王バッタの卵もない。リエルが言うには、何らかの突然異変が起きたから、それだからじゃないか、と言う事らしい。だから、会議室で意見をもらいたい」
俺は、事態の状況をルンに言うと、眉を寄せた。
「分かりました。お力になれるかは、分かりませんが、出席します」
ルンは言い終えると、俺は、ルンの体を地面に下ろした。
◆
「それは、本当ですか?」
ナギは、驚きつつも、納得してそうだった。
「あぁ、女王様もその次世代の卵も居なかったし、なかった。それについて、ルンの見解を聞きたいと思う」
俺は、ルンにふった。
ルナは、しかめ顔をしながら、少し黙った末、答える。
「色々、考えられる理由がありますが、飛躍しすぎるので、現実的な理由は、こうだと思います。
バッタの突然変異による肉食化、或いは、雑食化。何をトリガーにそうなったかは、知りませんが、その要素と言うのは、生命を脅かされたことによる“進化”と推測します。
その急激な進化により、次世代の女王バッタの卵は、産めなかった、と考えるのが自然です。
それにより、女王バッタも目的を見失って、どこかを彷徨いてるのかもしれません」
「なら、もう女王バッタは、次世代の女王バッタの卵を産めないということですか?」
アスナが問う。
「いえ、ただ単に、女王バッタ自身混乱しているだけなのかもしれません。
落ち着いてくると、立て直し、女王卵を産むかもしれません。
いずれにしよ、今は女王卵を気にするより、異常に羽ばたいている大量のバッタ達を減らす、増やさない方に舵を切るべきだと思います」
「だとしたら、その為には、結局、女王バッタを探すしかないですね
落ち着きを戻し、また違う場所で卵を産み出したとしたら、手が付けれません」
と、ラロット。
「だけど、女王バッタは、生まれ育った土地に卵を産むと言う習性があるから、またあの場所へと戻ってくるんじゃないのか?一つの巣しか女王バッタは作らないだろう?」
心なしか、少し声が震えているレイン。
うむ、今まで出た意見を纏めると、突然変異による女王卵を産む事の失敗。
女王バッタは、混乱してどこかを彷徨っていると言う推測。
混乱が収まったら、女王卵と卵を産み出す可能性。
産む場所は、さっき俺らが行ったあの巣の可能性が高い。
あの大量のバッタを減らし、増やさない事も女王バッタを見つけるのと同時並行で行わなければいけない。
だが、少し気になったことがあった。
女王バッタは、卵をどれだけ産めるのだ?と言う話だ。
卵を産むと言う行為は、割と身体にダメージを喰らうだろ?
俺は、そのことについて聞いてみた。
すると、答えは分からない、と。
いつも、そんな事になる前に阻止しているから、だと言うのだ。
トホホホホ....弱ったな。
だが、クヨクヨしていても仕方ない。
俺達が未知数を開拓しようではないか!!
よし。やることは二つだ。
一つ。女王バッタを探し出し、討伐する。
二つ。そこら中にいるキングバッタの数を減らす。
単純な作戦だ。
だが、相手は社会性を持った魔物。こちらの想像以上に厄介な戦いになるだろう。
これで、どうであろうか。
やる事は、二個だけだが、相手は社会性を持った魔物である。
中々に手こずるであろう。
皆は、俺の意見に承諾してくれた。
なら、やる役割を振るとしよう。
話し合った結果こうなった。
三グループに分かれ手分けをする事にした。
女王バッタもどこに居るか分からないし、手分けした方がいいよね!
ナギ・フィオナで、バッタ達の動向を観察し、女王バッタの位置を探す。
ルーディア・レインもその係である。
少し、ルーディアがレインと組むのに拒否反応を示していたが、気にしない。
前衛と後方が組み合わさったチーム編成だし、戦いもやりやすいだろう。
そして、ラロット・リエル・リドルがキングバッタを減らす係になった。
ラロットは、多分戦闘で一番強いであろう。
リエルは、弟のリドルを守りたい!と言って、同じグループになった。
よし!これでヨシ。
アスナとルーレトは、以前に引き続き、村を守る係である。
バッタ達が、どこまで村を脅かすか分からない以上、二人は最低置いておくべきであろう。
俺はと言うと、戦力外だから村に居ることにした。
だって、バッタに俺の最大限をぶつけたとしても、傷一つ入らなかったのだ。
だから、足手纏いとバッタの餌にならないように、村にこもる事を選んだ。
そんな俺にナギからお願い事をしてきた。
それが、俺の持っている加工技術能力を極めて欲しいと言うのだ。
どう言う事か、と言うと“二本足のバッタ”の身体は、まるで鎧のようなものだったと言うのだ。
もしかすると、加工技術能力が活きるかもしれないと。
あぁ、そうだった。
二本足もいるんだった。
多分、あれが俺らの最大の障害であろう。
ナギが手も足も出ないと言うからである。
俺の能力は、魔力が大量に含まれたものを加工する事は、できなかった。
だが、能力という事は、レベルアップをするから、二本足のバッタの鎧を加工できる程、極めて欲しいのだろう。
あははは、バカ言え。
と言いたいが、やるしかないよな。
だが、俺の能力は、ルーレトの剣を壊すのがやっとだった。
それにルーレトは、俺のことを警戒してない節があったから、あれが全力の魔力でもないのだろう。
短時間で加工技術能力を極めるのは、現実的ではない。
どうしようか....それは後で決めることにしよう。
「あ、バッタの大移動は、なんだったのでしょう?強く動かされる何かがバッタ達にあったのでしょうか?」
とリエルが眉をひそめる。
確かに、あの移動はなんだったんだ?
助かりはしたが、あの移動の意図は、気になる。
女王卵がないとは言え、卵を残して、大量のバッタが離れていくは、おかしな話だ。
それのせいで、あそこにあった卵は、全部俺らが破壊したし。
俺は、ルンに目配りをすると、ルンが口を開く。
「分かりません。そもそもキングバッタの実態は、あまり解明出来ていないのです(その前にキングバッタ達の量を減らしていたため)。
なので、私の勝手な憶測になりますが、なにか強い意思が働いたのでは?とは思います。
例えば、女王バッタについてなど」
あの時、バッタ達が、女王バッタを感じとれる距離までいたと言うことか?
バッタ達が仲間を呼び寄せるときは、鳴き声を出す方法をとるらしいのだが、その音すらも聞こえなかったし。
不明瞭な点が多すぎるな。
にしても、やはり不明な点が多すぎるのは、ナギが言っていた二本足である。
キングバッタが突然異変した反動で産まれた歪な生物なのだろうが。
バッタの中でもあいつが、特に強いと言う点なども含めると、本当に突然変異を反動に産まれたのか?
だって、普通は、以前の遺伝子とかけ離れすぎてて、弱った身体で産まれるとか、普通はそうだと思うが。
本当にあいつは、キングバッタなのか?と言う疑問すらも、うまれる。
考えても仕方がない事は分かる。
だが、アイツは、一体何なんだ?
その後、会議は、終わった。




