第二十五話 美味しいスイーツ店
「墓参りか?」
と俺はリドルに聞きつつ、腰を曲げ、手を合わせた。
どうやら、リドルが見つめていた墓は、リザードマンの元長――ガエルのだった。
ガエルの墓は、水が撒かれ、太陽光がキラりと反射し、ピカピカに磨かれていた。
きっと、リドルが綺麗に掃除したのだろう。
それ以前にも、よくガエルの墓は磨かれているのを目にする。
あんな一件があったが、やはり皆んなの心の中では、今も尚、慕い続けているのであろう。
「ありがとうございます」
リドルは、俺に一礼をした。
だが、本当の感謝と言うよりは、何かマナーでやってるような無機質な感謝であった。
「いやいや、当たり前のことだ。なんせ、仲間のお前らが、ガエルを慕っているからな」
俺がそう言うと、リドルはガエルの墓へと目線を寄せ、下を向いた。
リドルは、ゆっくり瞳を閉じ、暫くしてから、開くと、口を開く。
「全員が全員、心の底から慕ってる訳じゃありませんよ」
「え?」
俺は、突拍子のないリドルの発言に、無意識に口が開いた。
「俺は、ガエル様を憎んでいます」
「なんでだ?」
「ユレン様は、ガエル様の付き添い人を知ってますか?」
あぁ、ガエルが、戦いの戦の引き金にする為に、ガエルの自作自演で殺されたあの付き添い人か。
「知ってるよ。それが何か関係あるのか?」
「それが、俺の親友だったんです。名前はディアです」
「え?」
又もや、俺は無意識に口が開いてしまった。
そっか、リドルと付き添い人のディアは、親友関係にあったのか。
リドルは続ける。
「俺、ガエル様の口から、ディアが殺されたと聞いた時は、精神が崩れ去りましたよ。だけど、ディアを殺したヴァンパイア共を殺してやる!っていう煮えたぎる復讐心で、何とか立ち直ったんです」
リドルは、自分の拳を強く握りしめた。
「だけど、結局、本当の真相は、ガエル様が、戦いの引き金を引く為に殺されたと聞いた時は、もう理解が追いつかなくて。嘘であって欲しいと思っていても、それは、本当で.... ガエル様を憎みましたが、俺の尊敬できる人でもあったので、心の底から憎めなくて」
平坦に喋っていた口調が徐々に揺らいでいく。
何かを思い出すと同時に、あの時の記憶も呼び起こしているようだった。
「だから、こうやって、ガエル様の墓を磨いてしまうんです。この憎しみをどこにも本気でぶつけれない、そんな自分も憎くしょうがない。だけど、少し心にゆとりができました。ユレン様の村で暮らしていると、心に余裕ができるんです。辛いことを忘れられるからです。ユレン様、あなたには本当に感謝しています」
リドルは、明るい奴で、仲間とバカやってる姿を見てきたが、こんなに悩みを持っていたとは、知らなかった。
大切な親友を失った悲しみ、どこにもぶつける事のできない想い。
これがこの先、呪いとなって、ずっとくっついてくるだろう。
長である俺に打ち明けてくれたんだ。
その悩みに俺も付き合っていきたい。
「おう!どうって事ねぇよ!感謝される筋合いはないさ。皆を導くのが、俺が目指している長だからな。リドル、もし俺でよかったら苦しくなった時には、相談にのる。遠慮なく言ってくれ。打ち明けてくれて、ありがとな!」
「はい!!」
曇っていたリドルの顔は、光が差したような気がした。
ガエル、お前のやったことに、俺は、最低な奴だななんて思えない。
何でだろうな....
なぁ、皆を従えるものは、何かの犠牲を払い、何かを得るしかないのか?
そんな、ギブ/テイクを俺も少しは、現実として受け入れてきているのかもな。
だけど、俺は、そんなモノは、今は信じきっちゃいねぇ。
最善手と言う“手”を見つければ、きっと、皆を平等に導けるはずだ。
俺は、そんな理想論を捨てちゃいないんだ。
俺は醜くも足掻いてみせるさ。
「ユレン様!!甘いモノ食べに行きましょ!!」
気付くと、リドルは、墓地の入り口にへと居た。
リドルがジャンプしながら、手を振っている姿が見える。
「ちょっと待って!」
俺は、リドルの元へと駆け出した。
◇
連れてこられたのが、中枢議事堂から離れている場所にある店だった。
外見を見てみると、所々ツタが壁にへばりついており、木造で出来ているので、ヒビが入ってる箇所もあった。
年季が入っているようだ。
こんな渋めの店が、甘いモノを食べれるなんて俄かには信じがたい....
「ユレン様!ここが入り口です!ここ、美味しいんですよ!!」
とリドルが、ドアを開け、手招きをしているので、そこへ足を進めた。
店内に入ってみると、そこは渋めな感じではあったが、どこかオシャレな場所であった。
窓際には、観葉植物みたいなのが置かれており、通気性もバッチリだ。
暑いこの土地には、ぴったりな場所である。
雰囲気百点満点だな!!
俺は、ヴァンパイアの女性の店員さんに壁際の机へと案内された。
この女性の店員さんは、リンさんと言うらしい。
この店のオーナーらしく、よく慕われているらしいのだ。
見た感じ、落ち着きがあって、気品もありそうで、慕われる理由も分かる。
椅子は、植物でも使っているのか、フカフカで座り心地が良かった。
机は、木で作られており、独特な匂いを放っていたが、嫌な匂いでもないし、その匂いもそんな強くはない。
「お決まりになりましたら、声を掛けてください」
とリンさんは、軽く頭を下げると、さっさとどっかへと行ってしまった。
周りを見てみると、沢山のお客さんが入っている。
この店は、立地が悪いけど、繁盛しているようだった。
リンさんも忙しいんだなぁ。
俺は、リドルにお勧めされたスイーツを頼み、運ばれてきた。
「うわぁああ美味そう!!」
スイーツの商品名は、妖精のアクアゼリーだ。
その名の通り、美しく華奢な妖精が青く瑞々しく、皿に盛り付けされている。
香りもふんわりと漂ってくるスッキリと甘かった。
「リドル!これ美味しそうだな!!」
「はい!これとっても美味しいんです!!ささ食べて食べて!」
俺はリドルに急かされ、ちょっと名残惜しいが妖精にスプーンを入れ口に運んだ。
うわ、これ美味しい。
口に入れた瞬間、甘い水が弾けるのは、すごいな。
それにこれ何回口に入れようが飽きない。
「これは、また来たいなぁ」
「でしょでしょ」
とリドルは満足げな顔で言った。
俺とリドルは、あっという間に平らげてしまった。
食い終わった後は、すぐ店を出るのも良かったが、ここは過ごしやすいし、リドルの事をもっと知りたかった為、店内に残ることにした。
幸い、机の空きは、まだあるからね。
話してみると、リドルは本当にお兄ちゃん(リエル)好きだと言う事が分かった。
リエルのかっこいい姿の事とか。
リエルと一緒にいると楽しいとか。
リエルとディアと子供の頃、よく遊んだとか。
リエルを尊敬しているとか。
これが兄弟愛なんだなって思えた。
素直に感動したし、聞いてて楽しかった。
いつのまにかリドルの敬語口調がため口調になっていたのだ。
それ程、お兄ちゃんについて語るのが好きなのだろう。
俺は、リドルが二度と大切なモノを奪われないように頑張ろうと、責任を感じた。
「俺はずっと、兄ちゃんに守られる側で、俺が兄ちゃんを守った事がない。だから、今度は俺が兄ちゃんを守りたいんだ!!」
と机に身を乗り出して、俺の顔を真っ直ぐ見つめた。
「あぁいい心掛けだが、一旦落ち着け」
と、俺は宥めるように言うと、リドルは椅子に座る。
こんだけの兄弟愛ときたら、どうやったら作れるんだ?
俺には、兄弟が居なかったから、あまり分からないんだ。
前世で周りの奴らの話を聞いていた時も、兄弟の話となったら愚痴しか聞いてこなかった。
兄ちゃんがモノを奪ってくる!とか、弟が親を味方に付けて、俺を悪者に仕立て上げてくる!とか、聞いてると散々な話ばっかであった。
リドルとリエルの関係性は、こう特別なのだろうか。
俺がふと、斜め上を向くと、こちらの席と隣の席の壁の上に、レインのガンギまった目が見えた。
俺は思わず、飲んでいる飲み物を口から吹き出してしまった。
ゴホゴホっと咳込んで、口をタオルで拭くと、
「おい!レイン、なんでここにいるんだよ!びっくりしたじゃねぇか!!」
と遺憾の意を示す。
すると、レインは流れるように、こちらの席へとくる。
そして、リドルと同じ席に座った。
「この店にきたら、リドルとリエル様がいたから、驚かせてやろ!って思って!」
「そ、、そうか」
「レインもいたのか!驚かせずとも、早くこっちに来れば良かったのに」
と、レインも会話に参加した。
思いの外、会話が弾んでしまい、夕方になってようやく店を出た。
リンさんに怒られると思ったが、全然そんな事はなく、また来てください!と笑顔で返してくれた。
再度、慕われる理由を認識した。
◆
帰り道、俺達は、中枢議事堂に戻っていると、リザードマンの男性が俺の元へ走ってきた。
とても焦っている様子だった。
どうしたんだ?と聞くと、この村の外へと見回りに行った三人組が戻ってこないらしいのだ。
何か事故があったのかもしれない、どうしますか?と聞かれた。
「三人組って、もしかして、ルイス・ドン・イザベラのことか??」
フィオナのことを尊敬していると真っ直ぐ言った奴だ、名前をあまり覚えられない俺も、覚えている。
「はい、そうです。予定よりも大幅に戻ってくるのが遅くなっております。もしかすると、魔物と....」
「すぐ、救助へと向かわせる」
俺はそう言うと中枢議事堂に駆け足で戻り、ナギともう一人ルンと言う女のヴァンパイアの研究者を用意した。
ルンの見た目は、大きな帽子を被った、体が小さい。
タレ目で、薄い金髪が長く垂れ下がっている。
研究者だから、髪の処理がめんどくさいんだろうなと、察せる。
本当は、ナギ一人で行かせたかったが、魔物に攫われた或いは、地形による要因だったとすると、知識が沢山ある奴もいた方がいいと思った。
なんの魔物の仕業かも分かるだろうしね。
「三人組の見回り兵が行方不明になった。魔物の仕業かもしれん。だから、救助に行って欲しい。出来るだけ早めにだ」
「「分かりました」」
そうナギとルンは、任務を受けると、この部屋から立ち去っていった。
ここはヘルシャース。
魔力の量が少ないこの時期でも、魔物のレベルは諸外国などと比べれば、高い。
死んでいるかもしれない。
だが、まだあいつらは子供で将来有望の奴らだ。
生きている事を願おう。




