第二十三話 時期外れ
第二部開始です!!
よろしくお願いします。
俺は、今ユレン様の命令の元、村から少し離れた場所で見回りをしている。
だが、夜だから周辺が暗く、見渡しが悪い。
魔法の炎で辺りを照らしながら、足を進めている。
「雰囲気あるよねー!こうなったら、魔物よりも幽霊的なモノの方が怖いかも!!」
そう冗談混じりに笑いながら言うのは、ヴァンパイアの女子、イザベラが言う。
華奢な体躯に赤と黒が混じるショートヘアである。
「あぁ、そうだな」
と冗談に笑いながら答えるのは、リザードマンの男子、ドンである。
黒い髪に、ヴァンパイアと比べれば、屈強な体の持ち主だ。
何しろ手に生えている鋭い爪、これが一番怖い。
俺がヤスリで、鋭い部分を削ってやりたいぐらいだ。
こいつらが軽い口を叩けるのは、赤月が近いからである。
どう言うことかと言うと、赤月の日に一気にこの場所にへと魔力が集まる。
そこから、魔力は次の赤月に向け、徐々に下がっていく。
つまり、次の赤月に近づくにつれ、魔力量が減り、魔物の数、強さも減っていく訳だ。
自己紹介遅れたが、俺の名前は、ルイス。
自分で言うのも変だし照れ臭いが、真面目さと正義感だけは、人一倍あるつもりだ。
だから、イザベラとドンの任務に必要ない話も俺が止めるとする。
「おい、お前らそんなくだらない話をしてないで、任務に集中しろ!ユレン様に頂いた大切な任務だぞ!」
「それは分かってるけど....ルイスが一番不純な気持ちで任務を行なっているんじゃないの??」
「そうだな、もうデレッデレだったもんな!!」
とイザベラとドンは、ケラケラと笑い合う。
こいつらが、言ってる事は、この二人と同じく、ユレン様の部屋に呼ばれ、この任務の命を受けた時のことである。
ユレン様に任務内容を聞き終え、立ち去ろうとすると、ユレン様が俺に話を振ってきたのである。
どうやら、俺が子供でありながらも、リザードマンとの戦いに志願し、参加していた事が、ユレン様の耳に入ってたそうだ。
そして、ある質問を受ける。
「ルイスは、憧れの人とか居るのか?今回も志願方式で、人を集めたのだが、君が真っ先に志願してきた」
と言われた。
その憧れの人が、同部屋に居て、気恥ずかしく、言うのかどうか迷った。
だが、ユレン様の質問なので、答えなくては!と思い、決心をして言った。
「フィオナ様です!!フィオナ様に戦場で助けられて以来、僕も仲間を守れるような強い存在になりたいと強く決心しました!」
と、緊張のあまり余分な声量で答えてしまった。
顔も炎に炙られてるんじゃないか?と思うぐらい熱く、真っ赤だっただろう。
リザードマンとの戦いに出たのは、俺がこの村の役に立ちたいと思ったからだ。
その戦いで、俺の事を手に傷を負ってまで、助けてくれたフィオナ様を見て、素直にかっこいいと思ってしまった。
だから憧れた。
そんなフィオナ様に習い、もっと村の為に何かをしたいと思い、この任務に志願したのだ。
「おいおい!そこは一人の名前だけ出しちゃダメだろ!!」
「そうだよ!長の名前も言わないと、失礼だよ!!」
ドンとイザベラに慌てた様子で小言に突っ込まれた。
俺も「あ...」と思うのと同時に脳がパンクしてしまったのを思い出す。
だが、そんな中でもユレン様の高らかな笑い声で、「俺はそんな絶対王政などやるつもりはないよ!」と言っていた事と、フィオナ様の笑顔だけは、未だに脳に焼き付いている。
その事を思い出し、イザベラとドンに頬を突かれながら、また脳がショートしそうになってしまった。
そんな不純な気持ちを抱えながら、前へと足を進めた。
◇
見回りも中盤に差し掛かっただろうか。
三匹、四匹の中型の魔物が襲いかかってきたくらいで、難なく事を進めていた。
赤月になれば、三匹、四匹の魔物が、五十匹の大型魔物に変形するって言うんだ。
本当に狂っている。
が、赤月に近付くにつれ、魔物達は、殺し合い、数を減らし、種を増やす為に身を隠す。
結果、ここまで減ると言う訳だ。
殺伐とした雰囲気の温度差で、風邪をひいてしまいそうだ。
だが、本当にここの雰囲気は、趣味が悪い。
風による葉が揺れ、重なり合う事で、俺らを嘲笑っているような、音を生み出す。
まるで、俺らが何か不吉な出来事が起きると言いたげのようだ。
「あ、あの足、魔物じゃない?」
と、イザベラが鋭い声で言い放つ。
剣先を顔の前へと持っていき、戦う姿勢にする。
俺は、先の方をよく見てみると、木の枝から少し、緑色の節足型の魔物の足が見える。
これは、バッタか?
「いや、待て!足が異様にデカくないか?」
ドンが震えた声で叫ぶ。
どうやら、俺とドンの考えは同じく、バッタだと思っている。
この時期にいるのは、ミドルバッタと言う小型のバッタぐらいである。
だが、あの足は、中型の魔物より一回り大きかった。
おかしい、ミドルバッタがあそこまでデカくなる筈がない。
もしかして、あれは――キングバッタか?
しかし、この時期にいるバッタではない筈だ。
何が起きている?
その緑色の足は、震えながら、前へと運ばれていき、木から姿を現した。
黒い触覚に、焦点がどこにあるか分からない黒い瞳。
頭と同等な細さの身体の部分から伸びる、不釣り合いな後ろ足が折りたたまれている。
所々に細い線が模様になっている矢が体に刺さっていた。
そこから出血しているのか、血のような赤い液体が、顔、腹、羽などに付着している。
やはりバッタである。
見た事のない、矢の模様が、刺さっているのは何故だ?
だが、バッタは、草食であり、肉を食べない。
故に、俺らにとって危険性はない筈だ。
そう考えてるとバッタは、口を小刻みに動かしカチカチと動かし出す。
バッタの焦点の合ってないような目は、食に飢えていた猛獣が、食にありつけた時のように、俺達を捉えていた。
考えるよりも先に、体が動いた。
早く逃げなければ!!
悍ましいほどの恐怖が、無数の毛穴に針を刺す様に、押し寄せていた。
「逃げろ!!お前ら」
俺は、二人の背中を手で押した。
俺が囮になり、この二人だけでも....!
アイツは、草食などではない。
たった今、肉食にへと変化しやがった目だった。
突然変異体の肉食の中型魔物に三人では、部が悪い。
誰かが犠牲になれば、二人は救われる。
その甘い考えは、一瞬で、崩れ去った。
そのバッタは、折りたたまれた、異様にデカい後ろ足をパッと力強く伸ばす。
音をも超えた速さで、イザベラとドンを狙い、鋭く尖った前足で体をギシャリ、ギシャリと刻んだ。
そこには、そいつらの声に変わり、取り止めのない血の滴る音だけがある。
息ができそうになかった。
仲間が呆気なく、まるで元々存在しなかったと言いたげに、この世から消える。
囮役にへとなった俺を狙わず、二人を狙ったコイツは、知性がある。
バッタがこちらへと振り向き、もう誰の血か分からない血が、びっしりとついた顔を覗かせた。
バッタは狂気ステップで、俺へと近付き、人間一人やっと飲み込める大きさの口を開け、無理矢理俺を押し込んだ。
俺は窮屈な場所にへと押し込められる。
肌に焼かれる様な痛みが走る。
声が出ない。
飲み込まれる時に、キザキザとした突起に喉を切られたからだろう。
溢れ出す血が体の表面を温める。
だが、体の深部が徐々に、冷えていってるのが分かる。
寒い、痛い、苦しい。
これが死というものだろうか?
あぁ俺は、もう死ぬ。
――嫌だ、死にたくない。
もっと仲間を守る為の役に立ちたい。
フィオナ様の笑顔を見ていたかった。
あわよくば、フィオナ様の温もりに触れてみたかった。
あぁ、俺は何にも出来なかった。
これも全て、俺の弱さのせいなのか?
視界は暗闇に包まれていく。
死は無情に俺の体を蝕んだ。




