第十六話 この地の理 フィオナ目線
私の名はフィオナ。
五憲の守人の中の一人だ。
私がユレンに言い渡された役割は、仲間のヴァンパイアを守りながら、リザードマンの数を減らす事である。
ここまでの乱闘になると魔物達がこぞって集まりだすので、私が討伐する。
五憲の守人以外なら、強い魔物を倒す為にヴァンパス七人を必要とする。
だが、私なら一人で倒せる。
誰も死なせない....なんて無理だけど、私の手が届く範囲は全員仲間を救う。
でも、いくら五憲の守人と言う肩書きがあっても、限界がくる。
戦闘は初めてなのか?と言う程の慣れない手付きの若い男の子をリザードマンから救ったが、その際に右手に割と深めな傷を負ってしまった。
分かっていたのだ。
救うなら、ある程度の傷を負ってしまうよう程に、あの子の命は、ギリギリだった事ぐらい。
あそこの最善策は、あの子を見捨てて、リザードマンを斬る事だったが、どうもそれが出来なかった。
私は、男の子を戦線から引かせる。
向かってくるリザードマン、魔物を細長い剣で捌ききる。
武器強化のお陰で、感覚の1.5倍程攻撃範囲が伸びているから戦いやすい。
だが、私は右手で剣を握る為、さっきの傷が戦闘に響く。
回復魔法を使いたい所だが、生憎、私には使えない。
自分の得意不得意もあるのだが、回復魔法は、難しすぎるし、魔力も使う。
何より、リザードマンがすばしっこい。
私が入ったと思った攻撃は、たまにすり抜けている事がある。
それを可能にしているのは、私達にはない尻尾と太く筋肉質な足。
それによって、機敏な動きを可能にし、すり抜けてくるのだろう。
いつもの感覚でやっていれば、相手に隙を与えかねない。
少々、魔力の無駄使いになる斬撃が増えるだろうが、魔力をもっと放出することにしよう。
リザードマンは多数で陣営を作り、私に攻めてくる。
あるリザードマンは上から、真正面から、下からと四方八方だ。
だが、リザードマンは案外積極的に攻撃をしてこない。
どっちかと言うと、防御に徹している感じがする。
そうか、ここはあくまで時間稼ぎで、長同士の戦いが勝利を決める。
だから、リスクある攻撃は必要なく、防御に徹しているのか。
でも、私が一瞬でも隙を見せると剣で心臓を一刺しされる。
手を抜けない。
リザードマン達の統率された連携に、難色を見せながらも、前線を追い上げていると、五本の矢が私の頭を狙い飛んでくる。
私は間一髪で、その矢を剣で、叩き落とした。
息をする間もなく、四本の矢が飛んでくる。
私が横にへと避けると追撃するように、矢がグイっと曲がり、私の眉間を狙う。
だが、いきなり矢の運動方向を変えた弊害により、矢の威力が落ちていた。
それにより、足で矢を弾けた。
「ふーん、不意打ちの攻撃二連続を避けられちゃうか。流石五憲の守人って感じね。長様が私達に振り分けた理由も頷ける」
その声は、若くも芯のある女の声であった。
こんな芸当ができるのは、『弓使いのルーディア』であろう。
なぜここにルーディアが居るのだろうか。
ただ単に、ここに五憲の守人が配属される事が分かっていて、いたのか。
それとも、五憲の守人が倒して、ここに来たのか。
後者だと最悪だ。
レイン、ナギ、アスナは大丈夫かな。
「卑怯な手を使いますね。リザードマンはそんな卑劣な事をする種族なのでしょうか?」
私は、嘲笑いながら、体勢を整え、矢が飛んできた向きへと剣を向けた。
ルーディアは木の枝に乗っているのが見えた。
ルーディアは、蔑んだ目でこちらを見ると、後方に飛び、森の中へと入っていった。
私は、距離を取られるのは、まずいので、すぐさま後を追いかける。
案の定、無数の矢が無秩序に飛んでくる。
木の葉で、太陽の光は遮られ、木々が死角になり、どこから矢が飛んでくるかは、分かりづらい。
矢には魔力が込められているので、私の間合いに入れば、探知でき辛うじて探知ができ対処は出来た。
だが、このままだとあちらが優勢のままだ。
どうにかしてこの状況を変えたい。
「あなた本当に分かっていないわね」
ルーディアは、木の枝を飛び転々としながら言った。
卑劣と言ったことに対して言い返したのだろう。
「ここは、殺やるか殺やられるかの世界。不意打ちが卑怯で卑劣?バカなんじゃないの?どんな手でも使って、勝ちにいく。情なんて捨てる。それが私のやり方よ。あなた達が長様を殺そうとしたのも、別に卑劣だなんて思っちゃいない。だって、これが世界の理なんだもの」
元々リザードマンとは、話す気などなかったが、話してしまったのが悪かった。
こいつの話を聞いてると、反吐がでる。
リザードマンの長を私たちの長が殺そうとしたと言い、嘘で固め、この世を理由に己の行いを正当化しているんだから。
「私は、最初から敵同士なら、殺し殺されもこの世の秩序だと思う。でも、情を捨て、裏切って種族を殺すのは、理を言い訳に出来ねぇだろうが」
片足で一気に地面を踏み込み、ルーディアを捉え、木々を切りながら、直線距離で一気に間合いを詰める。
ルーディアは、矢を一気に六本放つ。
矢を剣で空中へと飛散させ、ルーディアの腹に蹴りを入れる。
ルーディアを木から地面へと落とし、動きを封じ込める。
動きを封じ込めれば、ルーディアは、私から距離を取れない。
私は、ルーディアの間合いに入った。
刃がルーディアの首から20cmまで詰めれた。
届く。
やれる。
とった!
グサッ!!
まるで、弾力のある物体を鋭利なモノが刺したかのような音が響く。
それと同時に、私の首と肩の間から熱さが溢れ出す。
その熱さとは裏腹に、足先から寒さが徐々に私の体に広がる。
力が入らない。
今の自分を足で支える事がやっとだ。
熱さの原因を探る為に、自分の首の付け根に目をやると、赤黒い液体が吹き出している。
血が吹き出す入口には、一本の矢が斜め六十度ぐらいの傾きで刺さっていた。
◇
私の名は、ルーディア。
長様から、五憲の守人を討ち取れと言われたので、長剣を持った女と戦ってる。
長期戦でこいつを矢で削りに削って、倒すのも良いと思ったが、手の内が分からない以上、不意を突いて殺す事にした。
最初は、魔力を込めた矢を打ち続け、魔力探知のみの防御に切り替えさせる。
そして、私の徹底的な隙を見せ、こいつに勝ち筋を見せる。
そうすれば、こいつは、乗ってくるだろうから、防御に隙が出来た瞬間に、予め上空に打っておいた魔力が付与されていない矢を当てた。
完全に私の勝ちだ。
この女は、バカだ。
それは、戦いに『情』と言うものを持ち込んでいるからだ。
私は遠くから見ていたが、その右手の傷は、仲間を庇った時のだろう?
ほら、戦いにくそうだ。
見捨てていれば、お前は、怪我せずに済み、もっとマシに戦えただろうに。
情など、この地では、頭の中から排除しなければならない。
それが出来なかった奴の死に様を嫌と言う程見てきた。
私よりも強かった同世代の奴は、魔物に捕まった仲間を助けようとして、死んだ。
そして、私の友達だったあいつも、雨の日に、私を魔物から庇って死んだ。
本当にバカだよ、私なんて見捨てて逃げれば助かっていたのに。
友達を失くして、泣いてる私に「この地に生まれた者は、それを耐えなければいけない」と長様がそう言った。
はっきり言って、耐えるなんて無理だった。
辛すぎたのだ。
だから、こんな辛い思いするならば、戦いに情など捨てればいいと思った。
それが例え、大事な人であっても。
そうしてきた事で、今、五憲守人であるこの女に矢を向けれているのだ。
私は、魔力を込めた矢をおもいっきり弓で弾いた。
私の攻撃で、顔を俯かせて、動かないこの女を見ると、私のやり方は間違っていないと思える。
「こう見ると、情を持っているあなたと情を捨てた私。どちらが正しいかは明白ね」
そう私は哀れみの目を向けながら、矢を放った。
その瞬間、この女の右手がバッと動き、矢を受け止めた。
「嘘ッ....!!」
思わず動揺で、そう言葉が出た。
この戦いで、魔力を一番込めた矢を、直線距離で、至近距離で打ったはずなのに受け止められたからだ。
しかも右手で...!!
怪我をしていて使え物にならないんじゃなかったのか?
その女は、矢を地面に放り投げ、長身の剣を左手で握りしめる。
そして、ニヤリとした目をこちらに向け、私のお腹をシュパッと剣を振り抜いた。
私は意識を失いそうになる最中、こいつは、澄まし顔で言った。
「勝ち筋を見せたら、私の狙いに簡単に引っかかってくれたわ」
そう言うと、ピュッと、口から赤い液体が付いた植物の膜みたいなのを吐き出す。
匂いからするに血だろう。
そう言う事か、こいつは、ヴァンパイアだ。
血を飲めば、一時的でも回復ができるんだ。
口に血が入った膜を含んだのは、私を蹴った隙であろうか。
にしても、もっとマシなやり方があったろ。
わざと矢を首の付け根にあて、カウンターを狙うとか、脳筋すぎる。
でも、不思議と負けた気分は悪くない....
「私が情を否定したのは....」
私は、本当の自分に向き合う事にした。
この女が、私自身と向き合える時間を与えてくれたからだ。
「きっと、また情を持つのが怖かったんだと思う」
戦場で死んでいく仲間を見捨て、私がどう立ち回れば、勝てるのかを考えてきた。
「情を捨てた事で、仲間が死んでいく死に様もどうとでも思わなかった。そっちの方が幾分も楽だった。――私は嫌なものから逃げた弱者だったのかもしれない」
やっと私の本当の気持ちに向き合えた。
あぁ、私を助けてくれた仲間、私が見捨てた仲間にどうやって謝罪しよう。
いや、きっと皆んながいる所にいけないな....
そう考えてると、その女がしゃがみ込み、私に顔を近づけた。
「あなたもう動けそうにないだろ?動けたとしても、私にすぐ殺されるだけだ。よし、あなたを長の元へ連れて行く。処遇を決めるのは、私じゃないし」
「へぇ、あなた達の長が勝った確信でも?」
「負けた時は私達は自害する。あなた達の言いなりなど絶対嫌だからね」
そう不敵な笑みを浮かべて言うと私の首根っこを掴まれ、引きずられヴァンパイアの長の元へと進み出した。




