第十五話 長同士の戦い
燃え盛る剣が空中で弧を描き、敵の長に刃先を向ける。
辺りの温度が、まるで地獄に居るのかと錯覚する程、上昇していた。
ラロットの眼光は、常に敵の長の命を刈り取る、レーダーに成り変わっていた。
敵の長は、何かに気付き、嘲り笑った。
「ラロット....お前が常に携えていた大剣は、どこに行った?まさか....弱い故に捨てたと言うまいな?お前があの時、父を見殺しにされたのは、剣ではなくお前の力不足だったからだ」
鞭のようにチェーンを振り回し、先端が音速を超え、容赦なくラロットに襲いかかる。
歪んだ空間を見た、ラロットは、攻撃を受けるのをやめ、空へと飛んだ。
すぐさま、チェーンの軌道を変え、ラロットに吸い付いてるかのように、疾風の如く向かってくる。
だが、チェーンをいきなり軌道を変えた代償として、先程よりも“速さ”が疎かになっており、威力はそこまで無かった。
受け止めきれると踏んだラロットは、振り回るチェーンに対し、強化された大剣を叩きつけた。
チェーンと大剣同士がぶつかり合い、音と共に炎が辺り周辺を覆い尽くす。
お互い、止まらない斬撃の合間に隙を模索する。
互いに譲らない攻撃と間合い。
ややラロットが劣勢であったが、それは数ある斬り合いの中では、誤差でしかなかった。
このままでは、体力勝負へと持ち越す事になるが、すぐに勝負が付かない上、互いに技量に自信があり、この状況を切り替えるアクシデントを望んでいた。
だが、互いにそのような事をできる手札なの持ち合わせていなかった。
ならば、何がこの状況を変えるだろうか?
それは――他ならない魔物であった。
他の国周辺にいる魔物とは、比べ物にならない程に魔力を含んだ魔物が木々から突発に出てくる。
魔物は4本足で地面を蹴り上げ、大きく鋭い牙を保有した口をおもいっきり開け、敵の長とラロットを食おうとした。
それにより、彼らの攻撃の間合いに入り、攻撃の打ち合いは、中断へとなった。
「仕切り直しだな。ラロット」
敵の長は、目を張り、ニタっと笑った
だが、間合いに入った魔物は、幾らかの攻撃を喰らったが、まだ死なない。
彼らの対角線上に入り、死角を作る。
ラロットは何かを察し、すぐに攻撃体勢から防御に移った。
ラロットの相手の武器は、チェーン。
それ故に、死角が作られたとしても、撓りながら、ここへと飛び込んで来るからだ。
予想通り、敵の長のチェーンが、魔物の体に沿って、ラロットの懐に飛び込んできた。
ラロットは、炎柱えんばしらを作り、チェーンの攻撃を六割防ぎきった。
ただ、その四割は、ラロットの体にへと傷を負わせ、壁へと打ち付けた。
ラロットは血を吐いた。
肺に血が入ったんじゃないか?と思うぐらいゴロゴロと音が鳴っていた。
きっと、折れた骨が肺を突き刺しているのだろう。
絶え間ない痛みと、息のしにくさに、弱音を吐きたくなる。
回復魔法を使っている暇もないので、治すこともできないのだ。
ラロットには分からなかった。
なぜ、父があのような理由で殺されたのか。
父と敵の長は、仲が良かった。
酒を吐くほど飲んで、くだらない冗談を言い合い、笑い合ってたじゃないか。
なぜだ、なぜだと思考を巡らせる。
これが夢なんじゃないかと思える程、逃げたい現実であった。
敵の長は、割り込んできた魔物をチェーンで締め付け殺し、ラロットの元へと戻ってきた。
フラフラになりながらも立っているラロットに視線を預けた。
「ラロット、お前には俺に勝てるほどの力がない。ったく、お前は全く成長してないな。だから、親父一人も守れないんだよ」
敵の長は、ラロットを酷く哀れに思っていた。
父親を目の前でなす術なく殺され、泣き暮れる暇もなく、前を向き、皆をまとめ上げ、この戦場に立たされる。
だが、その頑張りも虚しく大きな力の前に、敗れる。
大剣を強化したようだが、そのせいでプレイスタイルも変化し、親父が教えていた剣技すら使わない。
救いもなく、村共と死んでいく。
お前が生きてきた人生は、全て俺のための物だったと言わんばかりであった。
ラロットは顔を俯かせ、辿々しい声で、話し始めた。
「強化したこの大剣は、攻撃範囲が広くなり、後残りも長くなる....なぁ、なんでお前は親父を殺した?あの理由が本当の理由か?あの理由で、お前は、仲間を殺してまで、俺達の村に攻め込みたかったのか?そんな奴が、あんなに幸せそうに親父と笑える筈ねぇだろ」
「何を言いたい?話が見え....」
言い掛けた瞬間、敵の長の背中に、電流が流れたような感覚が襲われる。
その電流は、やがて胸へと伝わった。
敵の長は、何が起きたか分からないまま、地面にへと跪く。
喉から液体が逆流してくるのを感じ、手のひらで口を塞ぎ、嗚咽し、手のひらを見てみると、そこには赤色の液体が付着していた。
どう言う事だ?と戸惑った。
確かに、あの瞬間、ラロットは攻撃をする素振りすらしていなかった。
なぜ――まさか?魔物で死角が出来た瞬間、炎を操り、俺の後ろへと忍ばせていたのか?
“攻撃範囲が広くなり、後残りも長くなる”と言ってたのも説明が付く。
ラロットの方へと目線をやると、静かに歩いてきている事がわかった。
その瞬間、ラロットが消え、気付くと心臓を貫かれ、ラロットは、後ろへと居た。
敵の長は、負けた事が分かったと同時に、懐かしい剣技を見て、笑みを溢した。
敵の長は、ラロットの親父――ヴァンパイアの長を見てるようだったからだ。
ラロットの親父の名前は、ルーレトでよく、リザードマンの長の名前――ガエルと良く呼んでくれた。
長同士の戦いの練習で、よくラロットが使ったあの技を使っていたのを思い出す。
どうしても、目に追えなくて、しまいには、勘で避けようとしていたから、よくルーレトに怒られていた。
でも、長同士ながらもバカやって、酒飲んで、喧嘩していた。
いや、長同士だからこそ、心が通じ合って、バカやれてたのかもしれない。
ガエルは、木に背を預け、地面に座った。
呼吸一つ一つが死のカウントダウンに感じていた。
「俺を殺す時は、あの技と決めてたのだろう?親父がよく使っていた技」
苦笑しながら言った。
「あぁ、親父からの仕返しだよ」
ラロットは、膝を地面につけ、ガエルと目線を合わせた。
「なぜ親父を殺した?」
「俺は不確かな情報に踊らされて、その上、判断を誤り、大切な親友を殺すと言う愚行を犯したんだ」
ガエルは呼吸が荒くなる。
「不確かな情報?」
「あぁ、不確かな情報さ....たった一夜の不確かな情報。それは、俺らの村が危なくなるから、このままではいけない....力をつけなければいけないと言う情報さ。なんで、信じてしまったのかと不思議だ」
「それは――」
それは誰に?と言った言い掛けた瞬間、ガエルが言葉を被す。
「全て俺が一人で判断して、ルーレトを殺し俺の村の人達にデマの情報を流した。だから、悪いのは、俺だけだ。アイツら罪のない俺への被害者だ。どうか、俺の首一つで許してくれ....なんて、都合が良いか。結局、俺が俺の村を危なくしていたのか....俺はどこまで行っても許されないな」
ガエルの目から光が消えていく。
「待て....!誰に言われたんだ!!それを教えてくれ」
ラロットは声を荒げるが、ガエルは手を脱力させ、顔をクイっと俯かせた。
ガエルは死んだ。
なぜ、敵の長を生かして情報を聞き出さなかったの?とツッコミがあるかもしれませんが、力然を前に、ラロットにその余裕がなかったからです。




