第十七話 一つの推理 ナギ/アスナ目線
「俺が見たのは、以前俺とレインに襲撃を仕掛けてきた剣使いと長細い杖を持ったリザードマンだけだ」
「その口ぶり的に、まだリザードマンの幹部的な存在が、どこかに潜伏している可能性があると言うことですね」
ナギとアスナは、二人組で敵陣地へと突っ走っていた。
本当は、レインとアスナで行動する予定であったが、ナギがアスナとレインと別れようとする際、レインが何かを手繰り寄せたように、進む方向を変え、単独行動に移ったのだ。
ナギは、手を掴みレインを止めようとしたが、それは愚行だと思いやめた。
何故だか分からないが、レインからきっと大丈夫だと思わされてしまうオーラ的なものが、出ているように感じたからだ。
アスナもレインとナギの行動に困惑し、何故だとナギに訊いたが、「あいつなら大丈夫」とナギは答え、アスナとナギで行動する事にした。
ナギとアスナは、敵、味方が少ない戦場から離れたルートを使い進んでいたが、戦場から伝わってくる地響きが、絶え間なく続く。
ナギとアスナは、戦場で何が起きているかは分からないが、激しい戦いが繰り広げられている事だけは、分かる。
仲間の死などを脳裏にチラつかせては、自分の任務に集中すべきだと喝を入れ直した。
その時であった。
「ファイヤ」
と、重低音の声が響いた。
魔人は愚か、魔物すら戦場の衝撃で居ないこの場所で、ナギ達へと攻撃する為の魔法の詠唱が聞こえたと言う事。
それは、リザードマンの幹部的存在の声――リエルだ。
「アスナ!!」
ナギは叫ぶと、アスナはすぐさま反応し、魔法による球体のシールドをナギとアスナを包む形で発動させた。
その瞬間、燃えたぎる炎が、シールドを烈火の如く覆った。
シールド越しにも炎の熱波が肌に伝わる。
だが、このような炎でも有機物がない限り、長くは続かない。
炎が弱まった瞬間に、ナギは白く細い剛糸を指先から出し、敵に鞭のように攻撃を放った。
それにより、敵は、後退した。
その隙に、乱れた体勢を立て直し、状況を冷静に分析する。
敵の姿は、よく見えなかったが、魔法を使ったと言う事は、あの長細い杖をもったリザードマンだと察しが付く。
そして、あの炎の威力なら、直で当たれば、アスナは2回、ナギなら、5回で動けなくなるだろう。
それに、炎の攻撃が敵の最大攻撃ではない事は、承知している。
ならば、魔法使いが嫌とする近距離戦に持ち込む事が、有利と言えるだろう。
ナギが常備している短剣で、近距離戦を詰めればいい。
それに、アスナから敵を離すことも出来る。
しかし、魔法使いの敵が槍で魔法の壁を壊したように魔法で武器も作れるというだから、近距離も戦えるのであろう。
だか、ナギとの大きな差は、無から魔法で武器作るか、実体のあるものに魔法を込めて戦うかだ。
ナギは後者で相手は前者。
前者である無から武器を作る方が、魔力の消費量が高まるのだ。
つまり、ナギは近距離戦で戦うことが最善策であると考えた。
ナギは、後退して木の影に姿が隠れた敵が出てくるのを待った。
「あれに反応して、尚且つカウンターを入れてくんのか。五憲の守人」
ハハっと笑いながら、緑色の髪を揺らしながら、木陰から出てきたのは、リザードマンは、ナギの予想通り“リエル”であった。
ナギとアスナは、リエルの姿を見えた瞬間、警戒を一層強める。
と同時に長を殺された怒りで、ナギ達は息が荒くなっていた。
ナギらがここまで強くなれたのは、長のお陰だし、とても慕ってくれた人なのだから。
「俺達リザードマンの長の付き添い人知っているだろう?アイツはなぁ、とっても良いやつで、俺の弟リドルの面倒をよく見てくれた。俺は弟が大切だし、それに....いや、いいか」
リエルは、付き添い人を殺された怒りを理不尽に仲間を殺した相手に露わにするのは、不必要だと考え、口を閉じた。
弟が付き添い人を慕っていたのは、言うまでもない。
ただただ、付き添い人を殺された怒りと、弟を悲しませた怒りが頭の中に混雑し、今にも頭が破裂しそうだった。
ナギは、剛糸をリエルに対し放ち、一気に距離を詰めようとする。
相手への距離は、約二十m。
そこに行くためのステップ数は、九歩。
一気に足に全体に力を入れる。
今にも足の血管がはち切れんと言わんばかりに、拡張した。
そして溜めたパワーを一気に放出し、リエルの元へと弧を描きながら地面を蹴り付けた。
ナギが狙うのは、リエルの側面。
ナギが弧を描き魔法を当たりづらくして、リエルの元へと進んだのは、リエルがどこまで詠唱を短縮出来るかが分からなかったからだ。
詠唱とは、魔法の才のない人に与えられた補助的なものである。
詠唱は、口に出す事によって、使いたい魔法を一時的に脳にインプットさせる。
これによって、才のないものも魔法が使えるようになった。
つまり、個人個人の才の度合いにより詠唱の長さも変わってくるのだ。
例えば、リエルが先ほど出した炎の魔法。
詠唱を端折らずに全て唱えるとなると、『灼烈に燃え上がる赤き炎よ、我が力となりて、我を導け、ファイヤーボール』となる。
それをリエルは、『ファイヤ』だけの詠唱で魔法を出してみせたのだ。
他の魔法は、炎の魔法よりももっと得意かもしれない。
もしかしたら、無詠唱も使えるかもしれない。
それがナギの脳裏に焼き付いたのだ。
だが、案外間合いは、意図も容易く詰めれていた。
本来、魔法使いが近距離の剣士などに詰められていい距離は最低6mであった。
それ以上は、不利な局面を強いられる。
ナギは不可解で仕方がなかった。
リエルがその事を知らないはずもあるまい。
ならば、何かを仕掛けようと言うのだろうか?
だが、仮にリエルが無詠唱を持っていたとしても、攻撃魔法、近距離魔法を作る暇がない程、ナギは近距離にいる。
分からなかった。
ナギは、自分のしたいがままに、短剣を振り下ろした。
すると、短剣を持った手が一瞬ピクリと止まった。
その瞬間、ナギは右腕と左足に痛みが走った。
鋭い物に斬られた感覚ではない。
抉られたような、痛みであった。
ナギの目の前には、長細い杖が見える。
まさか!?とは、思ったが、そのまさかであった。
そう、杖で短剣を止められていたのだ。
本来の杖であれば、先端だけに魔石を埋め込み、持ち手などには、魔力流出を防ぐために、魔石を埋め込まない。
そうやって、先端だけに魔力を集中させる事によって、出したい方向に質の高い魔法を打ち込む仕様にしていた。
故に杖の持ち手は、魔力による防御が出来ないので脆いのだ。
ナギは杖の持ち手を狙い、リエルの体に短剣を刺そうとした。
実際には、先端に当たらず杖の持ち手に剣が入った。
だが、止められていた。
「バァカ」
リエルは最後まで攻撃を振り切ろう杖を振り翳そうとする。
「我が行く道にせせらぎを!ウォーターボール」
だが、アスナが割って入り、直様ナギをリエルから離す。
「ナギ!!何をしているの!?いつもらしくないです」
アスナは、油断していたナギを叱責する。
そしてナギに簡単な治癒魔法をかけた。
「すまない。怒りで動揺していた」
ナギは、あたかも俺達が付き添い人を殺したと言っている事に怒りを隠せはしなかった。
殺したのは、お前らの長だろうと。
しかし、何かが引っ掛かった。
ナギは、リエルが嘘をついているとは、思えなかったのだ。
いや、リエルが嘘を付いてないように見せているだけなのかもしれない。
さっき、杖の件で騙してきたように、今回も騙して動揺を誘う気なのだろうか?
ナギは、真偽を判別出来なかった。
だが、もしリエルの言ってる事に嘘がないならば....。
ナギは、ユレンと一緒に作戦を考えてるために作戦部屋にいた時、敵の長のこの行動の理由について、理解出来ずにいて、考えていた。
「なぜ敵の長は、この様な事を行ったのでしょう」
ナギは、敵の長がナギ達の長を殺さなければいけなかった理由が分からなかった。
だから、ユレンに意見を求めた。
「うーん。俺は、この村に来たのが長が殺された後でよく分からないけど、何か喧嘩的なのをして、血迷ってやったのかもしれない。あるいは、リザードマンの長以外のリザードマンからこの村への馴れ合いはやめて欲しいと言われたからかもしれない。こればっかりは、長の口から聞くしかないのかもしれないな。でも、抽象的に推理する事は出来るかもしれない」
ナギは、ポツンと出たユレンの発言に、ギュッと耳を傾ける。
「俺的には、リザードマンの長の付き添い人が、リザードマンの長に殺された事から推理をすれば良いと思っていて。ナギは、相手の付き添い人が、この村と癒着していて、リザードマン村のスパイ的存在になっていたか、分かるか?」
「スパイだったとしたら、俺達の長は絶対関係している。だが、長は、いつもリザードマンと対等な関係を望んでいて、それ以上もそれ以下も望んでいなかった。それに長はそんなに狡い事をやらない人だ。だから、付き添い人はスパイではない」
「うむ、なら相手の付き添い人がリザードマンにとっては、悪い奴で、仕方なくリザードマンの長が殺した路線はなくなるよな」
「はい」
「だから、俺はリザードマンの村全体の総意で起こしたと言うよりは、長が単独で、この行動を起こしたと考える」
ナギは、眉を顰め、自然と首を傾げていた。
「どう言う事ですか?」
「リザードマンの長は、付き添い人を攻め込む理由として、殺したと考えてるんだ」
ナギは確かにと相打ちを打つ。
「リザードマンとヴァンパイアとの長の交流は、リザードマンの村の人達も了承して行っていたのだろうだが、突然、長の事情でヴァンパイアの村を支配下に置かなければならなくなる。だけど、長の事情で村の皆んなが納得していたヴァンパイアの交流を打ち切り尚且つ、支配までしようとなると、反対意見などが出たり、仲間割れをする可能性がある。だから、自ら付き添い人を殺し、その罪をヴァンパイアに擦り付け、ヴァンパイアの村に攻め込む理由を作った」
ユレンが言いたい事は、リザードマン長だけの事情で、ヴァンパイアを支配下に置きたいとなると、リザードマンの村の人に反発を喰らうかもしれないから、付き添い人を殺された事を理由に正当にヴァンパイアの村を攻め込む理由を作ったと言うことか。
だが、それがどうリザードマンの長がヴァンパイアの村を攻めたかった理由に繋がるんだ?とナギは困惑する。
「話が見えません....」
「すまない。結論を言うと、長を強く変える外部的接触が起きたと考える」
「外部的接触??」
「あぁ、俺が来た地の人々では、国単位でこの地を狙っている奴らがいる。だが、この地を平定するには、軍事力とこの地の特色を理解しなければならない。なにせ、どっかの国の軍が攻めた時は散々な結果だったらしいからな。だから、この地に住んでいるコミュニケーションを取れる魔人と関係を持ちたい奴らがいたと考える。で、狙われたのがリザードマンの長だったって話だ」
ナギは、これなら合点がいくと考えた。
すぐにも村の皆んなに知らせたかったが、ユレンからは口止めをされた。
あくまで、俺の勝手な推測だから、それを軸に作戦を変える事は、愚行だろうし、皆んなを混乱させたくはない、と言われたのだ。
だが、これは話し合いが必要だと感じたナギは、リエルを静止する。
「おい待て。話したい事がある。信じられないかもしれないが、お前らの長がお前らに対し、虚言しているかもしれない」
リエルは、自分の長を蔑む様なナギの発言に、怒りを露わにする。
「あぁあ?」
ナギはリエルの反応を見て、確信する。
――リザードマン達は、リザードマンに長に騙されれいる事に。
「俺らは、お前らの付き添い人なんて殺していない」
「ちょ!そんなのは、あいつらも知っているわよ。知った上で、ヴァンパイアの村に攻めて来たんでしょ!」
アスナは、リザードマン達に心を開く必要はないと、ナギに強く言う。
「いや、知らない」
「え?」
アスナが怪訝な顔をする。
「こちらの考え的には、お前らの長が何らかの“外部的接触”により、何かを言われ、あるいは何かをされ、リザードマン達に嘘を付き、この様な惨状を招いたのかもと考えている」
リエルは、出しかけの魔法を消した。
何故だか分からないが、ナギが本当の事を言っている様に見えたからだ。
「どう言う思考過程でそうなったか話して貰おうか」
「ユレンに聞いた事だが....」
ナギは静かに口を開いた。
その瞬間、鐘の音が鳴り響いた。
それは戦いが終わった合図だった。
回想が見にくいかもしれない....




