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中庭のジンクス⑥

 街灯の灯りが、疎らな公園。  人影のないベンチの端で、私は膝の上に置いた拳を、指先が白くなるほど強く握りしめていた。


……二点。  浅間千冬との、実力テストの点数差。


学年順位表に刻まれたその数字が、網膜の裏側に焼き付いて離れない。私が計算し、予測し、積み上げてきた努力のすべてが、あの「記憶を失ったはずの男」の執念に、わずか二点差で叩き伏せられた。


(……あり得ない。こんなこと、あってはならないのに)


計算外だった。記憶を失い、ペースを乱し、三橋さんのような雑音に囲まれている今の彼が、なぜこれほどの「精度」を維持できているのか。


あいつはただ、自分に課した数値を、淡々と、狂気じみた精度でクリアし続けているだけ。それが、何よりも悔しかった。私が必死に、人生のすべてを懸けるような覚悟で挑んでいる場所を、あいつはただの日常として踏み越えていく。


「……っ、ふ……」


堪えきれず、唇が震えた。 冷たい空気の中で、視界が滲んでいく。


今回のテストで私が勝てば、三橋さんとは近づかない。 そんな条件を出したのは、彼の学習環境からノイズを排除するためだと自分に言い聞かせてきた。戦略的な判断だったはずなのに、なぜだろう。二人が並んでいる姿を思い出すだけで、胸の奥がひどく焼け付くように疼く。ただの敗北への憤りにしては、この感情はあまりに不合理で、説明がつかない。


「……浅間、くん……。どうして、あなたなの……」


自分でも驚くほど、惨めな声が出た。 私は、自分がこれほどまでに一人の人間に執着し、その背中に絶望するほど弱い人間だとは思わなかった。あいつの当たり前を叩き壊すために、私のすべてを捧げるだけ。


「……負けない。次のテストでは、あなたが二度とそんな淡々としていられないくらい、完璧に引き離してあげる」


私は立ち上がり、乱れたスカートを整えた。 冷たい風を吸い込み、再び無機質な白氷冴の仮面を被る。


駅へと向かう私の背筋は、誰に見せるためでもなく、ただ一点の曇りもなく真っ直ぐに伸びていた。

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