表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/15

5.英雄達の墓場に転移してしまう

陽斗は荒野の真ん中で、またしても適当に転移魔法を発動した。


突然、目の前の景色が変わり、静かな雰囲気に包まれた場所に出現する。そこには立派な墓石が並んでいた。


「……墓場?」


「あなた、転移する場所はコントロールできないの?」


王女が呆れたように問いかける。


「見たことのある場所なら行ける。それ以外は……まあ適当な所に転移する」


「危ないわね……」


王女が溜息をつくのを横目に、陽斗は辺りを見回す。


「それより、ここはどこだ?」


王女は少し考え、ふと気づいたように微笑んだ。


「うーん、運が良かったわね。ここは英雄たちの墓場よ。」


「ほう、そんな場所があるのか。」


「ええ。ここに眠るのは、魔王討伐に挑んだ伝説の英雄たちよ。どの国の人も、この場所を聖地として敬っているわ」


陽斗は腕を組みながら少し感心する。


「なるほど。それなら、俺の目的地とは関係ないな。」


「ちょっと待って! ここに転移したのも何かの縁よ。英雄たちのお墓参りをしましょう!」


「いや、いい。俺の知り合いじゃないしな」


「そういう問題じゃなくて! こういう場では礼儀が大事なの! ああもう、とりあえず花瓶の水くらい取り替えなさいよ! それが終わるまで国には向かわないわ!」


王女の強い言葉に陽斗は渋々花瓶を手に取った。


「……分かったよ。」



---



陽斗が適当に花瓶の水を入れ替え、新しい水を注ぐ。何気なく花を挿し直したその瞬間――


「うん……!?」


陽斗が声を上げる。


「どうしたの?」


「……墓石が光ってる。」


王女が陽斗の隣に駆け寄ると、確かに目の前の墓石が薄い光を放ち始めた。突然、そこから声が響いた。


「よく来た、勇者よ。我が魔法に気づき、水を替えるとは有能だな」


「別に気づいたわけではないが……」


「ちょっと! これ、英雄のメッセージ!?」


声は続く。


「いかにも。我は英雄ロベルト。このメッセージは魔法で残したものである。」


陽斗はため息をつきながら墓石に向き直った。


「で、何か重要なことを教えてくれるのか?」


「もちろんだ。まず、お前のその無礼な態度を改めろ。」


「……。」


王女は陽斗を肘でつつき、小声で注意する。


「もっと丁寧に聞きなさいよ!」


ロベルトの声はなおも響く。


「わたしは英雄だ。魔王を討伐するために立ち上がり、数々の困難を――」


陽斗が遮るように口を開く。


「結果は?」


「……玄関マットにやられた。」


その場に沈黙が訪れる。


陽斗は無言で立ち去ろうとするが、王女が慌てて服の袖を掴んだ。


「ちょっと待って! もう少し話を聞いてあげなさいよ!」


ロベルトの声が少し怒りを帯びる。


「魔王城の玄関マットには特殊な魔法が仕掛けられているのだ! 無闇に踏むと――どうなると思う?」


「どうなる?」


「足が冷たくなる」


「……それだけ?」


「それだけではない! 冷えた足が滑りやすくなるのだ。その結果……転んでしまった。」


陽斗は再び立ち去ろうとする。


「待て! 帰るな! 聞け! 靴箱にも罠が――」


「玄関マットで転んだのに、靴箱の罠なんて関係ないだろ」


「黙れ! 聞け! 靴箱の罠は、靴紐を消す魔法だ!」


「……。」


ロベルトは声を張り上げた。


「だがな、勇者よ! この墓場には、我が生きた証と重要なヒントが隠されている! 質問があるなら何でも聞け!」


陽斗は少し考え、真顔で尋ねる。


「……四天王の中で誰が一番強い?」


ロベルトは微妙な沈黙の後、低く答えた。

「知らん。」


陽斗は無言で立ち去ろうとする。


「待て! そんなつまらん質問ではなく、もっと役立つことを聞け!」


陽斗は肩をすくめて、さらに問いかける。

「じゃあ、魔王城での注意点は?」


ロベルトの声が再び響く。

「よくぞ聞いた! 魔王城には無数の罠が仕掛けられている。例えば玄関マットには――」


「その話はもう聞いた」


「……ええい、そうだ。だがそれだけではない。靴箱には靴紐を消す魔法が――」


陽斗が呆れたように溜息をつく。

「それもさっき聞いた。それ以外で頼む。」


ロベルトは再び沈黙するが、急に真剣な声色で語り始めた。


「よかろう。ではこれを聞け。魔王を倒すには、力だけではなく……知恵が必要だ。」


陽斗が眉をひそめる。

「それは普通にわかるが?」


「そう思うだろう。しかし、多くの者は力に頼りすぎて失敗した。私もその一人だ。」


王女が興味深そうに口を挟む。

「それってどういうことですか?」


「我々英雄は、武器や魔法の強さばかり追い求めていた。だが、魔王はそういった正攻法では倒せない。」


陽斗は腕を組み、少し真剣な表情になる。

「じゃあ、どうすればいいんだ?」


ロベルトの声が低く響く。

「……常識に囚われるな。魔王は、お前たちの考える『正しい攻略』を常に予測している。だから、それを外れる発想が必要だ。」


王女が感心したように頷く。

「なるほど、柔軟に考えろってことですね」


「その通りだ、姫君よ。例えば――」


陽斗が興味を持ったかのように尋ねる。

「例えば?」


ロベルトの声が少し曖昧になる。

「例えば……玄関マットを踏まずに入る方法を考えるとか?」


陽斗は一気に興味を失った表情になる。


ロベルトが慌てたように咳払いをした。


「違う! 玄関マットの話は一例だ! 重要なのは、お前が既存の概念に囚われないことだ!」


陽斗はしばらく考え込むような仕草を見せたが、やがてぼそりと呟いた。


「……具体的にどうすればいい」


「お前が考えろ。」


「……。」


王女が陽斗の肩を叩いた。

「ほら、英雄も言ってるし、あんたがちゃんと考えなさい。」


陽斗は墓石を睨みながら、投げやりな口調で言う。

「……他に具体的なアドバイスはないのか?」


ロベルトの声が一瞬黙った後、力強く言い放つ。

「常に花瓶の水を替えろ。それが全ての基本だ。」


陽斗は目を閉じて深いため息をついた。


「……もう行くぞ。」


ロベルトの声は最後に静かに響いた。


「勇者よ、花瓶の水を替えるような小さな行動が、未来を変えることもある。忘れるな……想像力と、柔軟さを持て。」


墓石は光を失い、再び静まり返る。陽斗は歩き出しながら、王女に向かってぼそりと呟く。


「……あれは本当に英雄なのか」


王女は肩をすくめる。


こうして、二人は再び旅路へと歩き出した。しかし、この奇妙な英雄との出会いが、彼らの旅に意外な影響を与えることになるのは、まだ誰も知らない――。

お読み頂きありがとうございます。

評価・ブクマ大変励みになります!ぜひ面白いと思って頂けたらポチッとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ