契約
いつの間にか日が落ち、辺りは暗闇に包まれた。
ハンナはスキル「ブライト」を使うと、冬牙達が立っている周辺の地面が光り始め、辺りが明るくなった。すると、ハンナは口を開いた。
「そういえば、アンタ達にお願いしたいことがあってずっと探してたのよ」
「なんだ?」
ハンナは画面を表示させると、冬牙の前にスライドさせた。そこには契約書と書かれていた。
「今あなたが隔離されてるのは知ってるわよね?」
「ああ。万里乃から聞いた」
「それって、珍しい措置なの。本来ならこのゲームから強制的に排除されるわ。けどそうしなかった理由は……」
「分かってる。俺のウイルスを解析してワクチンを作りたいんだろ?」
「話が早くてよかったわ。その通りよ。協力してくれるなら、強制措置はとらないし、あたし達九聖衆もあなた達に何も手を出さない。そういう契約内容よ」
「俺に出来ることがあれば喜んで協力するよ」
冬牙は契約書にサインすると、契約書をハンナに返した。
「ありがとう。アンタならそう言ってくれると思ってたわ」
ハンナは契約書をどこかに送信した。
「そうだ!キトに伝えといてくれ。ウイルス人間って事、隠しててごめんって」
「キトに会ったの?……なるほどね。だからアンタから何もウイルス反応が出なかったのね」
ハンナは片手を腰に当てると、やれやれと肩を竦めた。
「キトを怒ったりしないでくれ。俺はそのお陰で助かってるんだ」
「ま、アンタはあたし達側だったから、今回は大目に見てあげるわ。けど、そのままじゃウイルスの解析ができないからキトには加護を解除させるわね。その代わりにこの手袋を装備してもらうわ」
ハンナはアイテムボックスから黒い革の手袋を取り出すと、冬牙に譲渡した。
「装備してみて。それはプログラムを自動で記録してくれるアイテムなの」
冬牙は早速装備すると、手袋はピッタリと冬牙の手にフィットした。
「記録されたデータは定期的に転送されるからあなたはそれを装備してるだけでいいわ」
「けど、これ俺のウイルスで壊れたりしないのか?」
「それにも一応加護はついてるわ。キトの加護よりは少し弱いけど今と変わらないと思う」
「そうか。それなら大丈夫だな」
「それじゃあ、あたし達はもう行くわね。色々と新しい情報が入手できて助かったわ」
「それは良かった。ありがとな!また何かあったらよろしく頼む」
「お互い様よ。それじゃあね」
「また会おうぜ!」
そういうと、ハンナと弘次はその場から飛び立った。
「俺達もニサンゴの村に向かうか」
「そうね」
冬牙達は万里乃のスキル「状態異常回復」で自身を明るく照らすと、ニサンゴの村へ歩き始めた。
すると、直ぐに
「冬牙殿ーっ!万里乃殿ーっ!」
と、遠くから声が聞こえてきた。
「ラピ、ここだ!」
ラピはニサンゴの村から戻ってきたのか、耳にランプをぶら下げ、馬車を引っ張って戻ってきた。
「無事だったズラか!」
ラピは冬牙達を見つけると、冬牙達の目の前で急ブレーキして立ち止まった。
「良かったズラ!途中で心配になったからジン殿を村に送って直ぐに戻ってきたズラ」
「心配かけて済まなかったな。ありがとう」
「礼なんていいズラよ。まだ恩を返せてないのに死なれたらわいは一生困るんズラ。さ、乗るズラよ」
「無理しなくていいよ。疲れてるだろ」
「わいを誰だと思ってるズラ!天下の盗賊様ズラよ!わいのスタミナとすばやさを侮るなかれズラ!」
冬牙達はラピに急かされながら馬車に乗り込んだ。
「出発ズラ!」
そう言うと、ラピは馬車の持ち手を持って走り始めた。
ニサンゴの村の前に到着すると、何やら村全体が騒がしかった。
「なんだ?」
「さぁ?」
「何だか楽しそうズラな」
冬牙達は村の中に入ると、家と家の間に提灯が沢山ぶら下げられていた。
「なんだか懐かしいな」
「お祭りみたいだね!」
「おまつり……ズラか?」
ラピは首を傾げた。
「そうだ。お祭りは出店があったり、皆で踊ったりするんだよ」
「よく分からないズラけど、楽しそうズラな!わいも何かお手伝いしてくるズラ!」
そう言うと、ラピは会場の準備をしている獣人達に話しかけに行った。
「おぉ!冬牙、万里乃ちゃん!無事だったか!?」
ジンが向こう側から手を振ってこっちへ向かってきた。
「ジン!」
冬牙達もジンの方へ向かった。
「いやぁ、良かった!あの後どうなったんだ?」
「あの後すぐに、九聖衆が駆けつけてくれたんだが、結局女は逃げて仕留めることは出来なかった」
「そうか。いつどこで狙われるか心配ではあるけど、とりあえずは一安心だな!」
ジンはバシッと冬牙の背中を叩いた。
「いてっ!」
「ワッハッハッハ!そういえば、お前さん達の為にニサンゴ村の人達がなにやら準備してくれてるぞ」
「これは俺達の為に準備してくれてるのか」
すると、1人の獣人がジンに動物の言葉で話しかけてきた。
「あ、そうだったな。分かった!」
ジンは手でOKサインを出すと、獣人は頭を下げてその場から去って言った。
「村長がお前さん達と家へ来てくれってさ」
「ジン、お前……」
冬牙と万里乃驚いた顔でジンを見た。
「どうした、2人共そんな顔して」
「ジン、お前、獣人の言葉がわかるのか?」
「はぁ?獣人の言葉?なにいってんだ、
俺の事を馬鹿にしてるのか?日本語で喋ってきてんだから、分かるのは当たり前だろ」
「相手は日本語じゃないぞ」
「またまた、俺の事からかってるんだろ?そうだよな?万里乃ちゃん」
ジンは万里乃を見たが、万里乃は至って真顔だった。
「ジンさん、冬牙は全くからかったりしてないよ」
「えぇ!?けど、万里乃ちゃんがそう言うならそうなのか……。道理で日本語で返事しても相手はずっと首を傾げてたのか。冬牙、すまなかった」
「仕方ないさ」
まさかジンが獣人の言葉を理解できるなんて想像もしてなかったな。けど、これで村の発展の為の重要な助っ人が増えた。
「とりあえず、村長の所に行くか」
「そうだな」
こうして、冬牙達は村長の家へ向かった。




