黒い鎧の男
現れたオーガは下唇から牙が剥き出しになっていて、頭から二本の角が歪な形で生えていた。全身の皮膚は鱗のように泥が乾いて張り付いているが、それ越しにでも全身が筋肉の塊だという事が分かった。
「デカっ!?」
あまりの大きさに冬牙は驚いた。丸腰の二人では到底敵う相手ではなかった。
オーガは肩慣らしをしているのか、片手に持っている大斧を適当に振り回して空を切った。
その度に強烈な風が冬牙達を襲った。
初めに目撃したモンスターもそうだったが、この世界のモンスターは大きすぎる!
オークはまだこちらに気づいている様子では無かったので、冬牙は万里乃に目で合図すると、できるだけ足音を立てないように後ずさった。
このまま逃げられるといいが……。
しかし、なにか気配を察知したのか、オーガは冬牙達を睨みつけると凄まじい声で唸り声を上げ、大斧を振りかざした。
くそ!見つかった……!
万里乃は即座に自分達の前にシールドを発動した。大斧は一時的に受け止める事が出来たが、すぐにシールドにヒビが入り始め、とうとう突き破ってきた。
「うそ……!?」
「万里乃!」
冬牙は意味が無い事は分かっていたが、体が咄嗟に動き、その場で万里乃を庇うようにして覆いかぶさった。
オーガの振り下ろした大斧は、そのまま止まることを知らず、冬牙達に振り落とされた。
冬牙は目を瞑り死を覚悟した。
しかし、いつまで経っても大斧は当たらなかった。
目を開けて何が起こったのか確認すると、砂埃の中に人影が見えた。
「おい、クソ豚野郎……!」
その人影は黒い鎧を全身に纏い、黒い不気味なオーラに包まれた魔剣のようなもので、オーガの大斧を片手で受け止めていた。
そして、魔剣を振り払って軽々と大斧を払い除けると
「お前の相手は、俺だろうがよ!!」
そう言って、オーガの遥か頭上まで飛び上がった。
「死ねコラァァァァァアア!!」
黒い鎧を着た男は魔剣を振り下ろすと、落ちる動力を利用して、そのまま一気にオーガを頭上から真っ二つにした。
そして、軽々と地面に着地した。
黒い鎧を着た男はくっ、くっと笑い始めると
「最高だぜぇええええ!もっと!もっと!強え奴は何処だぁぁあああ!」
と、オーガの血を浴びながらそう叫んだ。
異様な光景だったが冬牙はお礼を言おうと立ち上がり、黒い鎧の男に声をかけた。
「あの!そこの黒い鎧の人!俺達を助けてくれてあり……」
「くそぉ、楽しすぎる!こうしちゃいられねぇ!次のクエストを受けに行かないとな!次はもっと強い奴をぶった斬ってやる!!」
そう言うと、黒い鎧の男は冬牙達に目もくれず、ヒャッヒャッヒャッと笑いながら、その場から勢いよく走り去って行ってしまった。
「え……」
何だったんだ、あの黒い鎧を着た男は……。強さが異常だったが、精神も異常だ。
冬牙はそれ以上言うと命の恩人に対して失礼だと思い、考える事を辞めた。
「さっきの人は一体……」
万里乃も状況が掴めず、目が点になっていた。
「俺にも分からん。とにかく、あの男のお陰で命拾いしたな」
「そうだね。次会ったらちゃんとお礼を言わないと」
「そうだな」
どうしてだか、あの黒い鎧の男とはすぐにまた何処かで会いそうな気がする。
冬牙達は今度こそ町へ戻った。




