加護
冬牙は遠くに見える微かな光を目指して歩いていた。
すると、次第にそれが揺れていることに気付いた。
さらに近いていくと先から光を放っている棒を持った、小さな人影が確認できた。
モンスターか?
冬牙はあまりの眩しさに目を薄めたまま人影を凝視した。
すると、うさ耳フードが付いた紺色のローブを身に纏っていて、白に近いライトブルーの髪を御下げにした幼女がロッドを両手で持ってキョロキョロしながら歩いている様子が見えた。
こんな所に幼女が一人で何しにきたんだ?
冬牙は警戒しながらも、声をかけてみることにした。
「おーい!そこのうさ耳ローブの子!こんな所で何して……」
「きゃぁぁぁぁあああ!!」
「ギャァァァァアアア!!」
突然悲鳴を上げられ、冬牙も思わず声を上げてしまった。
「だ、だ、だ、誰!?もしかして、も、モンスター?」
「違う!俺は……モンスターじゃない……」
心臓がバクバクいって、息が上がり、声がかすれた。
「良かったぁ」
幼女はふぅっとため息をついた。
「それで、こんな所で何してるんだ?」
「あのね、ウイルス人間を探してたらね、迷子になってここから出られなくなっちゃったの」
幼女は半泣きになりながらそういった。
ウイルス人間っていうのはきっと俺の事だな。完全にUMA扱いじゃないか。
冬牙は目の前にいる幼女が何故自分を探しているのか気になった。
「そうか。もう安心していいぞ。とりあえず、ここをずっと真っ直ぐ歩いたら外に出られるから、出口の近くまでついて行くよ」
冬牙は幼女に同行するか迷ったが、色々聞きたい事があったので一緒についていく事にした。
「本当に!?」
幼女は凄くキラキラした表情で冬牙をみた。
尊い……!俺にもこんな時期があったのだろうか。
冬牙は廃人になりかけた自分を思い出し、あまりの惨めさに涙がこぼれそうになった。
次に廃人になりかけたら、この子を思い出そう。そう心に誓った。
「ありがとう、おにーちゃん!キトはキトっていうの!おにーちゃんは?」
「俺は冬牙だ」
「ふゆきおにーちゃん?」
「ふゆきでいいよ」
「わかった!ふゆき!」
「それじゃ、行くか」
「うん!」
冬牙とキトは出口に向かって歩き始めた。
「それより、何でウイルス人間を探してるんだ?」
冬牙は自分がウイルス人間だと悟られないように、何も知らない体で問いかけた。
「えっとね、さっき偉い人達から探してって言われたの」
「へぇ〜。偉い人達ってどういう人達なのか?」
「声しか聞いた事ないからキトもどんな人なのか分かんない」
「そっか」
この子はただ探せと言われただけのようだ。
それにしてもふと思ったが、この世界にはこんな小さな子供もいるんだな。話した感じCPじゃ無さそうだし、あの施設の中のどこかにいるのだろうか。
「あ!ふゆき、みてみて!出口が見えるよ!」
キトが指差す先を見ると、まだ小さい点くらいだが出口が見えて来た。
「ウイルス人間どこにいるんだろ。一回だけでもいいから見てみたかったなー」
キトは残念そうな顔をした。
そのウイルス人間は今、お前の隣にいるんだけどなぁ。流石に、バラすわけにはいかないか。
「見つかるといいな、ウイルス人間」
「うん!」
もうすぐで出口の所まで来たその時、突然地鳴りがして地面が揺れ始めた。
「な、なに??」
キトは怯えてロッドをギュッと握り、身体を竦めた。
「なにが起きてるんだ……」
冬牙はバランスを崩さないように立つのが精一杯だった。
「大丈夫か?」
キトの方を見ると、全く揺れを感じていないようだった。
「ふゆき、何でそんなにふらふらしてるの?」
「揺れを感じてないのか?」
「揺れてるの??」
キトは地面を見つめたまま首を傾げた。
冬牙は何故揺れを感じないのか気になったが、ゆっくり話している時間は無さそうだった。なぜなら、出口付近の天井が今にも崩れて来そうだったからだ。
「キト!生き埋めになる前に走るぞ!」
「わかった!」
冬牙とキトは出口に向かって走り出した。
「いたっ……!」
しかし、キトは天井から降ってきた土砂でできた小さな山に躓いて転んでしまった。
冬牙は手を差し伸べようとしたが、自分が触れるとウイルスが発生してしまう事を思い出した。
もし、アバターに触れたらこの子はどうなってしまうのか全く予測ができない。
けど、このままじゃ二人とも生き埋めになっちまう。
この子を見殺すことはできないし、一か八かだ!
すると、冬牙は脇にキトを抱え上げ、もう一方の手でロッドを拾うと全速力で出口へ走った。
勢いよく洞窟の外に飛び出した瞬間、洞窟の穴が土砂に潰されてしまった。
「間に合った……」
冬牙は息切れしながら、ゆっくりとキトを下ろした。しかし、すぐにハッとすると、キトに触れていた部分に異常が無いかを確認した。
「ど、どうしたの?」
冬牙のあまりの剣幕に驚いたのか、不安そうな顔をしている。
見た感じどこにも異常はなかった。
「良かった……」
冬牙は胸を撫で下ろすと、その場にへたり込んだ。
「だいじょーぶ?」
「ああ。キトこそ怪我とかしてないか?」
「うん!なんともないよ!また助けてくれてありがとう!」
キトは満面の笑みで勢いよく冬牙に抱きついた。
「うわっ!」
冬牙はバランスを崩し後ろに倒れてしまった。しかし、顔をすりすりしてくるキトに癒され思わず頭を撫でた。
可愛いなぁ。……ん?
撫でている所をよく見ると、触った所だけに数字とアルファベットの文字列が無数に現れていた。文字列は瞬時に他の文字列に切り替わり、まるでコンピューターでデータ処理をしているようだった。
「ちょっと、いいか?」
冬牙はキトを乗せたまま状態を起こした。
「どうしたの?」
「お前ってウイルスから身を守れるのか?」
「うーん、わかんない。けど、皆んなウイルスと戦う前はキトから加護を分けてあげてるの!」
加護……。
しかし、冬牙はそれよりも皆んなウイルスと戦うという所に引っかかった。そのフレーズだけで大体ピンときた。
「キト、お前は九聖衆の一人なのか?」
「うん!九聖衆を知ってるの?」
「まぁな」
「皆んな凄いんだよ!キトは何もできないからいつも見送る事しかできないけど」
こんな小さな子まであんな危険なウイルスと戦わせるなんて、この会社の神経はどうなってるんだと疑ったがどうやら、実戦には出ていないらしい。それを聞いて少し安心した。
「さっきの加護っていうのはどんな効果があるんだ?」
「キトも詳しくは分からないけど、あらゆる状態異常を無効にするんだって」
なるほど、だからさっき揺れを感じていなかったのか。もし、その加護がウイルスすらも無効にするのなら……。
「キト、お願いがあるんだが」
「なーに?ふゆきは命の恩人だから、出来ることは何でもするよ!」
「俺に、お前の加護を分けて欲しい」
キトはしばらく考え込んでから、冬牙を見た。
「……わかった。ふゆきに特別に分けてあげる。本当は九聖衆以外の人には分けちゃダメって言われてるから内緒だよ?指切りゲンマンして」
「わかった。約束する」
二人は指切りゲンマンをした。
「それじゃあ、そこに立っててね」
キトは冬牙と少し距離をとると、両手でロッドを構えて先端を冬牙に向けた。
「大地、天空の女神よ、水、火、木の精霊よ、光、闇の神よ。全ての力をここに収束し、この者に大いなる加護を授けたまえ!」
キトは拙い言葉遣いで詠唱すると、冬牙の体表に先程の文字列が無数に表示され次第に見えなくなった。
「かけおわったよ!」
「ありがとな!」
冬牙は恐る恐る近くに生えている木の幹に触れてみた。
すると、ウイルスは全く発生しなくなっていた。
ふと掌を見てみると、文字列で埋め尽くされていた。恐らくウイルスを処理し続けているのだろう。
「これで少しは恩返しできたかなー?」
「十分、いやそれ以上だよ。本当にありがとな!」
冬牙はキトの頭を撫でた。
これでウイルスを発生させないで済むな。
万里乃と合流したら俺も一度ログアウトするか。
そういえば、万里乃が今ログインしたら洞窟の中なんじゃ……。
「冬牙ー!」
噂をすれば、万里乃の声がした。
しかし、洞窟からではなく別の方からだった。
声のした方を見ると、万里乃が手を振りながら冬牙達のもとへ走ってきた。
「大丈夫だったか?ログアウトしたところが洞窟だったけど」
「うん、大丈夫だったよ。ログインしたら一番最後にいた町へ戻るみたい」
「そうだったのか。それなら良かった」
「その子は?」
「キトはね、キトっていうの!」
「そうなのね!私は沙月よ。よろしくね、キトちゃん」
「よろしく!さつきおねーちゃん!」
「かーわいぃ!!」
万里乃はいきなりキトを抱きしめると、頬擦りしだした。キトはされるがままで大人しかった。
「とりあえず、ここにいても何だから一旦町に戻ろうか」
「そうね!キトちゃんはどうするの?」
「キトも一旦おうちに帰る!」
「じゃあ、ここで解散だな。本当にありがとな!」
「ううん。こちらこそありがとう!また会おうね、ふゆき!」
キトはロッドを振ると、霧のようなものに包まれて姿を消した。
最初からそれ使えば良かったんじゃないか……?と、思わず心の中で突っ込んでしまったが、よくよく考えてみればキトに出会ってなかったら俺は今頃土砂の下敷きになってたかもしれない。
実はキトは幸運の女神だったりしてな。
「じゃ、俺達も行くか」
「そうだね」
冬牙と万里乃は町へ向かおうとすると、再び地鳴りがし始めた。
そして、凄い轟音と共に洞窟を突き破って現れたのは巨大なオーガだった。




