城下町
町へ戻ると、初めてログインした頃とは全く違う町並みになっていた。
あの時は確か、草原が辺り一面に広がっていたはずなんだが……。
目の前にあるのはどう見ても城下町だった。
「うーん、おかしいなぁ。地図はこうなってるから、ここからこう来て……」
万里乃は地図をクルクル回している。
「お前って、もしかして……」
「い、言わないで!自分でも分かってるから!」
ここに来るまで、万里乃に地図を任せてついてきたが、どうやらこいつは方向音痴だったらしい。
「自分でも分かってるなら、なんで先導したがったんだよ」
「だって、さっきは森までちゃんと行けたもの!私だって来た道戻ることくらいならできる……」
「できてねぇだろ!ここ何処だよ!ちょっと、地図見せてみろ」
冬牙は万里乃から地図を奪うと、今いる場所を確認した。
恐らく、始まりの草原って所が最初の町の名前だから、俺達のいた森はここで……。
冬牙は指で、森からここまで来た道のりを辿っていった。
「なぁ、万里乃よ」
「はい、なんでしょう」
「ここ、目的地とは真逆の町だぞ」
「ごめんなさい」
万里乃は素直に謝った。
どうやら俺達は森の外周を半周して、真逆の町へたどり着いたらしい。
まぁ、町だったら何処でも良かったんだけどな。とりあえず、散策するか。
冬牙はスタスタ歩きだした。
「ちょっと、待って!」
「あ、すまん。とりあえず散策しようぜ」
「うん……」
万里乃は落ち込んだまま、冬牙について行った。
城下町は沢山の冒険者や商売人で溢れ、賑わっていた。
「ここにいる人達は、皆プレイヤーだと思うか?」
「うーん。それにしては人数が多すぎる気がするけど」
「そうだよな。お、あそこに案内掲示板があるぞ」
城下町の中央広場には噴水が設置されており、その前方に案内掲示板と書かれた文字が空中でゆっくり回転しながら表示されていた。
冬牙は案内掲示板に触れると、城下町の地図が表示された。すると、頭の中でピコンが話し始めた。
「ようこそ!トリタール城下町へ!この町には、初心者から中級者向けのクエストや防具、武器等が揃ってるよ!まずはここを真っ直ぐ行って右手にある集会所でクエストを受けてみよう!」
久々にピコンの声を聞いた気がする。冬牙は早速ピコンに質問した。
「ここにいる人達はみんなプレイヤーなのか?」
「もちろん!この世界ではモンスター以外のNPCは存在しないよ!皆それぞれの役割をこなしてこの町を作ってるんだ」
こんな人数、一体あの施設のどこにいるんだ??
何千人という規模の人があの施設に全員いるとは到底考えられない。
恐らく同じような施設が他にもあるのだろう。
「それじゃあ、行ってらっしゃい!バイピー!」
ピコンは一方的に別れを告げて話さなくなった。
そして、冬牙はある事を思い出した。
「そうだ、万里乃。クエストを受ける前に1度ログアウトしようと思ってるんだが、暫くここで待っててくれないか?」
「冬牙、その件なんだけど。ちょっといい?」
万里乃は冬牙を人影がない場所に連れていくと、チャット機能を発動した。
「え、そんな機能あったのか?」
「えっへん!ヘルプ機能は全部読んで熟知したもんね」
ヘルプ機能?一体、どこで知ったんだよ……。
そういう所だけは本当に凄いな。
と、冬牙は本人に悟られないように感心した。
「とりあえず、私が打つ文字を見てて。絶対に声に出しちゃダメだよ」
「わかった」
こうして、万里乃はログアウトした後の出来事をチャット機能を使って冬牙に説明した。
そして、冬牙は自分が隔離されている事を知った。
強制的にシャットダウンしないという事は、なにか目的があるか、それともできない理由があるのだろう。
どちらにせよ、ログアウトすると面倒な事になりそうだから辞めといた方がいいな。
「わかった。ログアウトは辞めとくよ」
「そうね。それがいいと思う」
そういえば、と冬牙もキトが九聖衆だった事、その子のおかげでウイルスが抑えられている事を万里乃に話した。
「なるほどね。だから、ウイルスが発生してなかったんだ。キトちゃんが九聖衆だったのは驚いたけど、抑える方法が分かって良かった!」
「とりあえずはな。だけど、今後レベルが上がっていったら、このままウイルスが抑えられるかどうかが心配だ」
「そうね。確かにそこは心配だけど、今のままじゃどうすることもできないし、とりあえず装備を買いに行くってのはどうかな?」
「そうだな、そうしよう。このまま丸腰って訳にもいかないしな」
そう言って、冬牙達は武器屋に向かって歩きだした。
「そういえば、万里乃の武器と属性って?」
「私は武器が持てないから、代わりに指輪を装備してるよ。属性は一応光になってる。冬牙は……まだ何も表示されてないね」
「ウイルスマークが出てないだけましだけどな」
「ウイルスマークって」
万里乃は思わずふふっと笑った。
「ここが武器屋か」
冬牙達は武器屋に到着し、中に入った。
「いらっしゃい!どんな武器をお探しかい?」
気前の良さそうな大柄の男が話しかけてきた。
冬牙達の所持金は初めに支給されていた3000ピカだけだった。ピカはこの世界の通貨の名称だ。
「3000ピカで買える武器を探してるんだが」
「その格好からすると、あんたらこの世界に来たばかりだな」
「ああ、そうだ」
「武器に全額投資するのもいいが、防具も揃えた方がいいと思うぞ。うちでは初心者セットっていって武器と防具一式が揃った商品を売ってるんだが、どうだい?」
「そうだな。やっぱり、それにしよう」
「それじゃあ、まずは今使ってる武器を教えてくれ」
「えーっと、どの武器を装備できるか試用させて欲しいんだが」
「あんた丸腰なのか!?もしかして農民だったりしないよな。残念だけど、この世界に転職機能はないぞ」
「いや、農民じゃない」
「じゃあ、一体何の職業なんだ……?」
「えっと……」
冬牙は何と答えようか困っていると、
「この人、無職なんです」
と、唐突に万里乃がそう答えた。
「なに!?無職だと?」
「お、おい!」
「ワッハッハッハッ!なるほどな!そりゃ自分の口からは言えねぇわな」
「違っ……」
「そうなんですよ〜。だから、なにが装備できるか分からなくて困ってるみたいなんです」
万里乃は無理矢理、冬牙の声に被せて黙らせた。
「そうだなぁ。無職にあった事がねぇから断定できないが、基本的な武器といったらこの五本だな」
そう言って武器屋の男は机の上に、鉄でできた棍棒、剣、小型ナイフ、杖、ナックルを並べて置いた。
「一つずつ持ってみな。掴む事ができるのが装備できる武器だ」
冬牙はまず棍棒を掴んだ。しかし、棍棒は手を擦り抜けて掴めなかった。
なるほど、そういう事か。
順に掴んでいったが、結局冬牙が掴む事ができたのはナックルだけだった。
「じゃあ、武器はこれで決まりだな。防具はこれだ」
防具は鉄板と鎖帷子が合わさった鎧で、鉄の盾と靴もセットだった。
「こんだけ揃って2500ピカだ。残ったピカで回復薬を買っておくといい」
「ありがとう」
冬牙は支払いを済ませると、早速受け取った武器と防具を装備した。
「お嬢ちゃんはどーする?」
「えっと、私は武器は持ってるので、3000ピカで防具一式を買いたいです。ちなみに、職業はヒーラーです」
「ヒーラー用の防具だったら、こいつだな」
武器屋の男は白を基調としたエメラルドグリーンの刺繍が袖や裾に施されたローブと、茶色の靴を持ってきた。
「こいつは装備すると回復能力を高めてくれる効果があるんだが、どうだい?」
「買います!」
「あいよ!」
万里乃も支払いを済ませ、ローブや靴を装備した。
「毎度あり!兄ちゃん、頑張っていい職につくんだぞ!」
「おう」
冬牙は力なく掌をあげると、武器屋の男は笑顔で親指を立てた。
そして、冬牙達は武器屋を後にした。




