第6話 初めての朝
「ん...うぅ」
獣人の少女が俺の横で丸まりながら、何やら寝言を言っている。
昨日の晩、疲れたのでそのまま寝ようとしたらこの子が物凄く不安そうな顔をして見つめてきた。
たまらず『一緒に寝るか?』と聞くと小さく首を縦に振ったので、こうして俺のベッドで一緒に寝ることになった。
しかし、昨日から何も食べていない。
お腹が空いた。
もう、昼に近い時間だが朝食にしよう。
俺は少女を起こさないようにスッと腕を引き抜いた。
昨日の様子からして、起きた時に俺がいないと不安になってしまうかもしれない。
あの子がガルドフの元でどんな生活をしていたかはわからないが、あのやせ細った体を見るにまともな食事はしていなかったことだろう。
「よしっ」
たらふくご飯を食べさせよう。
朝からどれだけ食べるのか、好き嫌いもわからないけど、まぁ残り物は晩御飯にでもすればいい。
俺が全部食べれば済む話だ。
俺は洗面所に行き、眠気覚ましに水の魔石から出した冷水で顔を洗って、キッチンへと向かった。
***
「主...様...?」
リビングの扉を半開きにして少女がのぞいていた。
「ん...? あ、起きた? ごめん、朝ごはん作ってた」
よく場所がわかったな。
まだうちの間取りは知らないはずなんだけど。
もしかして、本当に起きたら一人で不安になったとか?
家じゅうを探し回ったのだろうか。
もしそうなら、申し訳ないことをしたな。
「もう少しでできるから、座って待ってな」
俺が言うと、少女はリビングに入り椅子に座った。
周囲をキョロキョロと見回している。
そうしていると、本当に借りてきた猫みたいだなと、自然と笑みがこぼれた。
「よしっ、最後にこれをかけてっと」
仕上げにお手製のドレッシングをかけて完成だ。
今日の朝食はサラダと、鳥の照り焼きにパンと目玉焼き。
異世界の食材のため、多少の見た目や味の違いはあれど、日本の味をそこそこ再現できている気がする。
「ほい、お待ちどうさん」
俺はトレーに料理を載せてリビングへ運んだ。
照り焼きの甘タレが香ばしい。
パンも魔石のおかげで、出来立てのような香りだ。
こと食材の保存に関しては異世界の方が圧倒的に優れている。
俺が三週間も引きこもっていられたのもそのおかげだ。
「いただきます」
俺は箸で照り焼きを掴んで口に入れる。
あかん、これはうますぎる。
「んふぅ~。ってあれ? どうした? 食べないのか?」
少女はご飯を前にして硬直していた。
「えっ、えっと...わ、わたし...が...食べても...いいん...です...か?」
「え...? いいよ、当然だろ?」
俺がそう言っても、少女は料理に手を付けようとはしない。
「何か苦手なものでもあった?」
「ち、ちがいますっ! その...まえ...は...わ、わたしが...いっしょにたべちゃ...だめって...」
一緒に食べちゃ駄目...。
それは奴隷だからだろうか。
十中八九、ガルドフが何か余計な教育をしている。
「大丈夫、食べていいよ。ご飯は一緒に食べた方がおいしいからな」
俺が言うと、おそるおそる少女はパンをかじった。
「おいしい...」
それはよかった。
「そっちの照り焼はどうかな。ちょっと食べてみて?」
俺がそう言うと少女は少し困ったような表情をした。
手を出したり引いたりして、戸惑っている。
「...? どうした?」
「あっ...いや...だいじょうぶ...です」
そう言って、少女は箸を鷲掴みにして照り焼きにぶっ刺した。
うぇっ?!
あっ、そうだ。
こっちに箸ってないのか。
使い方がわからないよな。
俺も今まで誰かと食事をするなんてなかったから、完全に抜け落ちていた。
「ちょ、ちょっと待ってろ? 今、フォーク持ってくるから」
俺はキッチンに行き、フォークとナイフを持って少女に渡した。
少女は顔を赤らめてそれを受けとると、照り焼きに刺さった箸を外してフォークでもう一度突き刺して口に入れた。
「んっ!!」
その瞬間、目をかっぴらいた。
少女はコクコクと頷いて、次々と口いっぱいに照り焼きを入れる。
「どうだ? うまいだろ」
「んぅううっ!」
——ブンブン
少女は激しく頭を振る。
「あははっ。よかった。ゆっくり食べな」
そうだろう、そうだろう。
俺は前の世界からずっと、自炊だけは欠かしたことがないのだ。
人に振る舞ったことなどないが、自炊歴3年は伊達ではない。
***
「ごちそうさまでした」
俺がそう言って手を合わせると、少女も真似をして手を合わせた。
「えっと...な。昨日のことなんだけど...」
俺は慎重に言葉を選びながら言った。
「...?」
「君の力について調べたいんだ」
昨日、この子はガルドフが雇っていた傭兵を簡単に倒してしまった。
「わたし...きのう...なんだか...主様をたすけなきゃって...おもったら...からだがあつくて...それで...ちからが」
そんなことを思っていたのか。
まぁ、確かにあの時の俺ボロボロだったしな...。
しかし、やはりこの子からしても昨日のことは異常事態だったのだ。
もし最初からあんな力を持っていたなら、ガルドフにいい様にはされていなかっただろうし、あの男が簡単に売るようなことはしなかったはずだ。
思い当たることがあるとするなら、俺の『金運』しかない。
しかし、俺は『金運』のことを、てんで知らない。
「はぁ...やっぱ行くしかないかぁ」
「...どこ...ですか?」
少女が俺を見つめてくる。
できることならこの手は使いたくなかった。
しかし、背に腹は代えられないだろう。
向き合う時が来たのだ。
「ふぅ...冒険者ギルドに行こう」
あそこに行けば鑑定の水晶で、ステータスを見せてくれる。
上手くいけば...。
俺は勇者の役目である、ダンジョン攻略をここ数週間サボっている。
そのことで何度かギルドから呼び出しを食らっているのだ。
「ぼうけんしゃ...」
なんだか、少女がワクワクしているように見えるのは気のせいだろうか。
うん、気のせいだ。
「まぁ今日は行かないから。明日の昼にでも行こう」
「えっ」
昨日の今日で、この子に負担をかけるのも良くないだろう。
うん、仕方ない。
いや、別に俺が行きたくないからじゃないよ?
本当だし。
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