第4話 『金運』の力
誰だこいつ。
俺は何をされて...。
「それ、ガルドフの奴隷だろ。ついてねぇなぁあんた。あのおっさんから奴隷を買っちまうなんて」
「...な...にを言ってんだ...」
痛てぇ...腹が...。
「ははっ。俺はガルドフに雇われてる傭兵だよ。あの人は自分の奴隷を買った奴をこうして襲わせて新しい奴隷にしてんのさ」
クソがっ。
そういうことかよ。
「ってお前、その徽章...勇者かっ? はははっガルドフのおっさんも面白れぇこと考えるじゃねぇかっ! 勇者を...それも『金運』の無能勇者を奴隷にしようなんてなっ!」
ガルドフに雇われた傭兵は顔を手で押さえ高らかに笑った。
「…っなんで知って」
どうして、こいつは俺が『金運』の勇者であることまで知っているんだ。
俺はこの街に来てから誰にも自分のスキルについては話していない。
「そりゃあそうだろう。戦えない勇者の噂は有名だからな。この街の近くにあるアウズグリッドの攻略が一切進んでないことから、この街にきた勇者は『金運』である可能性が高いとは思っていた。そんな時に800ギルゼなんて大金をこともなげに用意した勇者がいる。他の勇者の恩恵ならそんな大金はすぐには用意できないだろうさ」
躊躇いもせずに、金を出したのが裏目に出たか...。
「ま、ここまで言ってやったんだ。こっちが準備万端なのは想像がつくだろ。大人しくするなら痛めつけずにガルドフのおっさんの所に連れて行ってやるが、どうする?」
傭兵の男は俺を見下ろしながら言い放った。
こいつの言うことが本当なら、俺の身元は割れていて最初から狙われていた可能性が高い。
全ては仕組まれていた。
クソが、クソが、クソが、クソが、クソが!
「誰がお前の言うとりにっ!」
「あぁそうだよなぁっ!! やっぱり最高だぜ、お前っ!」
「うがぁっ!」
傭兵はうずくまった俺の腹を下から思い切り蹴り上げた。
少し俺の体が浮いた。
思わず俺は吐きだした。
「ごほっ...おえぇ...あぁ...」
まずい、まずい、本当にまずい。
どうしてこうなった。
俺は『金運』の通りに少女を助けたはずだ...。
そうだ、あの子は。
「うぅ…」
俺は腹を押さえながら少女を探した。
いた。
少女はうずくまり倒れ伏す俺を見ていた。
「逃げろっ、早くっ」
せっかく助けられたんだ。
あの子だけでも...。
「そういえば、そいつは始末しろって言われてたんだった」
は...?
始末...?
「出来損ないを始末するついでに、勇者に買わせて、その勇者も奴隷にする。金も奴隷の処分も新しい奴隷も手に入るたぁ、完璧な計画だなぁ!」
そう言って、傭兵の男はどこから取り出したのかナタのようなナイフを少女に向かって振り下ろした。
「ぐぅっうああああ!!」
痛い。
痛い、痛い、痛い。
あぁ、やらかした。
何してんだ俺...。
とっさに少女を庇うように割り込んだ俺の背中をナイフが裂いていた。
背中が焼けるように熱い。
「っ!」
しかし、傭兵の男は驚いて硬直している。
その隙を逃さず、俺は持っていたポーションを一気飲みした。
一瞬にして背中の傷が治る。
あっぶねぇ...。
「こちとらダンジョン攻略の時に、とっくにゾンビ戦法を試してんだよっ!」
買いまくったポーションで傷を負ったそばから治して、粘り勝ちする。
魔物との実力差が高すぎてボツになった戦法の1つだが、もしものためにポーションは大量に持ち歩いている。
「くっははははっ!」
男は笑いながら俺に切りかかってくる。
避けられないっ。
俺はナイフを正面から受けた。
血が噴き出て、肉が裂ける。
その瞬間にポーションを使う。
飲むのでは間に合わない。
傷口に直接かけて癒していく。
男が俺を切り裂き、俺は傷を治す。
そんな馬鹿げた攻防が何度も続いた。
「はぁはぁはぁ...お前、マジで正気じゃねぇよ」
すると、男がようやく息を切らし始めた。
大丈夫、この戦法なら無尽蔵の体力を持つ魔物でもない限り、俺が粘り勝ちできる。
「あっ...」
唐突に力が抜けてよろけた。
足がガクガク震えて力が入らない。
「ははっ。いくらポーションとはいえ、痛みまでは消せねぇ! お前も限界だろっ!」
手持ちのポーションはあと三つ。
俺が気合で耐えれば勝つのは俺だ。
俺は震える足を拳で叩いて、男に構える。
「......なんで」
俺の後ろに隠れていた少女が呟いた。
「...え」
その声に反応して俺は思わず振り返ってしまった。
「へへっ」
傭兵である男がその隙を逃すはずもなく、俺の腹部にはナイフが突き刺さった。
男はそれを思い切り捻って上に引き抜いた。
斜めに切り上げられたナイフは俺の体を半分に切り裂いた。
「あっ...あがぁっ...あぁ…」
不幸中の幸いか、俺の体は真っ二つにはならず、内臓を切り裂かれただけにとどまった。
しかし——
まずい...腕が...上がらない。
すぐに...ポーションを...。
これではあと数秒で死んでしまう。
こんなの致命傷を通り越している。
「うぅっ!」
「え...」
俺を穏やかな温かさが包んだ。
そして、温もりとともに俺の体は再生を始めた。
少女が、すんでのところで俺にポーションをかけたのだ。
「このっクソ奴隷がっ!」
男は死にかけの俺が再生していくのを見て激昂した。
男は俺を...いや俺の後ろにいる少女もろとも確実に殺すため、姿勢を低くし切りかかる構えをとった。
ここでまたさっきのような致命傷を負うわけにはいかない。
おそらくこれが、あいつの最後の攻撃だろう。
「うぐぁあっ!」
俺も最後の力を振り絞って立ち上がり、男に構えた。
「...大丈夫...です。主様...」
少女はそう言うと俺の前に出た。
「...待って!」
何をしてるんだ。
駄目だ。
死ぬぞ。
「死ねやぁ! クソどもがっ!」
男はこれまでよりも数段強い踏み込みよって、もはや俺の目では負えないスピードで切りかかった。
「くっ...」
俺は思わず目をつむった。
少女が死ぬところなど見たくなかった。
——キンっ
だが、聞こえたのは肉の裂ける音ではなく、金属が弾かれる音だった。
その時、俺は人生で初めて視界が遅くなるという現象を体験した。
目を開くと、飛び込んでくる男のナイフを少女が逸らしていた。
そのまま、少女の手が男の腕を挟み込むようにして折り、そのまま回し蹴りで男を路地裏の壁に打ち付けた。
「なっ...!」
嘘だろ...。
俺は驚いていた。
少女の異常なまでの強さに...ではない。
確かに感じた——『金運』が発動した気配に。
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