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『金運』の勇者~お金を稼ぐだけの外れスキルは、どうやら買った人を覚醒させるらしい~  作者: キノコのほうし
1章 獣人の少女

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第2話 分岐点

 久しぶりに街に出たが、そこまでの変化はなかった。


 すれ違う人は財布を落とすし、人にぶつかればなぜか俺のポケットには金貨が入っている。


 これまでとなんら変わりはない。


 最初はこれだけでも興奮したものだが、金があっても現状はどうにもならないのだ。


 金で強さは買えない。


「はぁ...」


 なんか、ないかなぁ。


 俺は市場に並ぶ露店を歩きながら眺める。


 しかし、ろくなものが売っていない。


 基本的に露店に売っているのは果物や野菜、前の日に捌いて保存しておいた肉なんかだ。


 衣類や防具、武具なんかはほとんど売っていない。


 この街、というか国がそうなのかは、召喚主の国王がろくに世界のことを教えてくれなかったのでわからない。


 衣類は基本的に自作で、街の人たちはスラム街にでも住んでいるのかと疑うほどに貧相な格好をしている。


 着ているのは布に穴をあけて紐で縛っただけの貫頭衣だ。


 以前、おしゃれな服を着ている人が、衛兵に取り押さえられているのを見た。


 それを見てから俺も適当に布を継ぎはぎさせて、街に出ても目立たないような恰好をするようになった。


 一方で、貴族や大商人は一目で金持ちとわかるような華美な格好をしている。


 もしかすると平民には極端にみすぼらしい恰好をさせて、身分を分けているのかもしれない。


 まぁ異世界の社会構造なんて今はどうでもいい。


 とりあえず、適当に練り歩いて『金運』の強制ハプニングが発生するのを待つしか——


「――いやぁ...助けて」


「...っ!!!」


 突然、俺の脳内に小さな声が聞こえた。


 おいおい、こんなタイミングよく起きるか?


 どこだ。


 周囲を見回すと、露店が並ぶ通りから少し外れた路地裏に気配を感じた。


『金運』は懇切丁寧にハプニングの場所を感覚で教えてくれる。


 これを無視すると俺にとってマイナスなことが起きるから気づいた時点で強制的に関わらなければならなくなる。


 本当にクソみたいな能力だ。


 俺は気配をたどって路地裏を進んだ。


 薄暗く、市場の喧騒も聞こえないほど奥に、小太りの男と鎖につながれた小学生くらいの少女がいた。


「このっ無能がっ!」


 ——バチンっ


「うぅ...うぐっ...いたぁい...やめて...」


「どうしてお前は言われた通りにできないんだっ!」


 小太りの男は裸体の少女を何度も鞭で打つ。


 少女はそれを避けようとするが、足枷と鎖で身動きが取れないのか泣き叫ぶだけで抵抗ができていない。


 ゲスが...。


 この街はこんな奴ばっかだ。


 ろくでもないゴミしかいない。


「おいっ!」


「あぁん?」


 男は俺を見て警戒の色を濃くする。


 相手は40歳前後、身長は175センチくらいか?


 剣や魔道具は持ってなさそうだけど、鞭を持っていて少女がいる。


 丸腰の俺に少女を助けることができるだろうか。


「なんだよ、お前…。あ、いやあなた様は勇者様っ」


 男の視線は俺の胸に向けられている。


 俺の胸につけられた人類の守護者である証、勇者の紋章を見て男は少し怯む。


 これは俺たち勇者の召喚主であり、人類国家のまとめ役であるギルゼルド王国の国王が発行した徽章だ。


 そこらのゴミでもこの価値はわかるらしい。


「何をしているんだ、そんな子供に…。しつけにしたってやりすぎだ」


 少女は恐怖と痛みに震え、鞭を打ちつけられた素肌からは血が流れ落ち、何本もの線が赤く腫れあがっていた。


「いえいえ、勇者様。これは調教ですよ」


 男はニヘっと笑った。


「は...?」


 言い訳のように言っているが、しつけではなく調教と言えば許されると思っているのか?


 そこにどんな違いがある。


「だからなんだ。それは子供をいたぶる理由にはならないだろ」


 理解ができない。


 話が通じる相手ではないのかもしれない。


「...? おや、もしや勇者様は奴隷をご存じではないのですか?」


「......」


 奴隷?


 この世界には奴隷がいるのか?


 いや、中世のような文明レベルに貴族や王族がいるんだ。


 奴隷がいても不思議ではないが、それを許していたのか?


 あの国王は。


「異界より召喚された勇者様には物珍しかったですかな。奴隷とはなんの権利も持たぬ存在。とりわけ、こやつは獣人種。愛玩種とも呼ばれる魔物の端くれのような存在なれば、勇者様が慈悲をおかけになられる必要のない物ですよ」


 ゲスが...。


 俺に与えられたスキルが『金運』でなければ、この男を俺は殺していたかもしれない。


 あるいは、この手に剣があれば、魔道具があれば...。


 何もしない自信が俺にはない。


 どうして同じ生き物にそんなことができる。


 この世界に人類以外の知的生命がいることは知っている。


 獣人種やエルフ種や妖精種なんかの亜人と呼ばれる種族たちだ。


 しかし、亜人たちは見た目と身体機能が違うだけで分類上は俺たち人類と同じで、何も違いはないはずだ。


 頭部に大きな角を持つ魔族と、亜人の人間離れした見た目を重ねて、自分たちが手も足も出ない魔族への腹いせに亜人を差別し、冷遇する。


 この世界に来てからつくづく思う。




 本当にこんな人類を助ける価値があるのか…?




「その子…奴隷って言ったよな?」


「…? えぇ...」


 だったら。


「俺がその子を、買う」


「...っ。ほぉ...」


 男は一瞬、驚いたような表情をしてすぐに口元をニヤケさせた。


 おおよそ考えていることの予想はつく。


「ほぉほぉ、それはそれは...。しかし奴隷とはいえ、これは大切な商品。いくら勇者様といえども、簡単にお売りすることはできませんなぁ」


 やっぱりな。


 俺から取れるだけ金をとるつもりだろう。


 しかし、先ほどまで鞭で打っておいて、大切な商品だなんてよく言えたな。


「いくらだ。いくら欲しい」


 別に金なんていくらでもくれてやる。


 俺の『金運』であれば金を稼ぐなんて簡単だ。


 こんな外れスキルで一人の少女を救えるならいくらでも使ってやる。


「では、800ギルゼでいかがでしょう」


「......」


 たしか、1ギルゼで1万円くらいだから…800万円か。


 安いな。


「わかった。契約の魔方陣を用意してくれ」


 さすがに、現物で800ギルゼも持ち歩いていない。


 支払いの契約だけ済ませてしまおう。


「えぇ...それではこちらに」


 男は、路地裏の一角にあるドアを開けて言った。


 すると、ドアの奥には地下へと続く階段があった。


「おい、ついて来い」


 男は少女の首につながれた鎖を掴んで、言った。


「......」


 少女はただ黙ってかせのついた小さな足で、歩を進めた。


 男から解放されると言うのに、少女は一切の希望も見せず絶望に染まった目をしていた。


 それだけが、俺の中で引っかかった。


 俺は本当に正しいことをしているのだろうかと。

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