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『金運』の勇者~お金を稼ぐだけの外れスキルは、どうやら買った人を覚醒させるらしい~  作者: キノコのほうし
1章 獣人の少女

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第9.5話 獣人の少女の記憶(前編)

 お母さんはいつも泣いていた。


 お父さんのことは覚えていない。


 ただ、お母さんがずっと『どうして、どうして』と泣いているのを覚えている。


 私はそれが嫌で、何度も笑わせようと頑張ってみた。


 でも、お母さんは笑顔になるどころか『うるさい!』『お前のせいで!』と私のことを何度も殴った。


 どうやら、お母さんが泣いているのは私のせいらしい。


 私は自分が何をしたのか覚えていなければ、わかってもいなかった。


 それでも、ただひたすらに謝った。


 それでお母さんが許してくれることはなかったけど、ただ謝った。


 ***


 ある日、お母さんが『来なさい』と言って私を街に連れ出した。


 今まで、お母さんが私を連れて街に出たことはなかった。


 私と同じくらいの年の子が、お母さんと一緒に街を楽しそうに歩いているのを、いつも羨ましいと思っていた。


「んふふぅ」


 私も今、同じようにお母さんと一緒に並んで歩いているのだと思うと、嬉しくて思わず笑い声が出た。


 ***


 お母さんと一緒に歩いていると、お店についた。


 お店には瓶や壺がたくさん置いてあった。


 お母さんは何を買いに来たんだろう。


 この壺かな?


 そう思うと、なんだかおかしくて、また笑ってしまった。


 お母さんはお店の人と話している。


 壺みたいに大きなおじさん。


 お母さんはおじさんから、大きな袋をもらっていた。


 何が入っているんだろう。


 もう、お買い物は終わったのかな。


 すると、お母さんは袋を持って店を出ようとした。


「待ってよ、お母さん」


 私が追いかけようとしたら、お店の人が私のことを掴んだ。


 え、なに。


 私はお母さんを追いかけるために、体をくねくねと動かしてみた。


 でも、力が強くて全然動けない。


「放してよっ。ねぇ、お母さんっ!」


 お母さんは私のことを見ずに、お店のドアを開けて帰ろうとする。


 なんで、なんで、なんで、なんで。


 助けてよ、お母さん。


「――ちゃん。今日から君はここで暮らすんだよ」


「え...?」


 振り返ると、おじさんは笑っていた。


 ***


 おじさんは私に鎖を付けて、お店の下にある大きな箱の中に私を入れた。


 そこには、たくさんの人がいて、私と同じで耳がある人もたくさんいた。


 私はその人たちに話しかけてみた。


「ねぇ、ここはどこ? なんで、皆ここにいるの?」


 でも、誰も答えてくれなかった。


 それどころか、私のことを見ることすらなかった。


 どうして、誰も私のことを見てくれないの。


 ***


 次の日から、私はおじさんにいろんなことをさせられた。


「持ってみろ」


 おじさんはそう言って、私に剣を持たせた。


 でも、重くてすぐに落としてしまった。


 すると——できそこない、と言われた。


 ***


 別の日には、弓を持たされた。


 ヒモが固くて、引くことができなかった。


 おじさんが、やってたようにマネしてみたけど、矢を落としてしまった。


 また——できそこない、と言われた。


 ***


 それから、何度もいろんな物を持たされた。


 短い剣、槍、杖、でも上手にできたのは1つもなかった。


 ——むのう、と言われて今度は別のことをさせられるようになった。


 ***


 お洗濯、お掃除、お料理の練習をするように言われた。


 これならできる。


 今までもお母さんに言われてしてきた。


 お母さん...いつ来てくれるんだろう。


 そんなことを考えていると『早くやれ』と叩かれてしまった。


 痛いからやめてほしい。


 どうして大人はみんな、何かあると叩いてくるんだろう。


 ***


 できると思った、お洗濯も、お掃除もお料理も、私は上手にできなかった。


 おじさんが言うことは難しくてよくわからない。


 おじさんは、見たこともない道具や、食べ物を持ってきて私に『やれ』とだけ言う。


 出来なかったら、私を叩いたあとにおじさんがお手本を見せてくれる。


 でも、何をしているのかさっぱりわからなかった。


 ***


 日に日に私の傷は増えていった。


 寝転がると傷が開いて痛くて、眠れなかった。


 それでも、私は毎日おじさんに言われたことを頑張ってやってみた。


 頑張って、頑張って、頑張った。


 でも、私はどこまでも、私だった。


 ***


 ある日、いつもの練習が終わったあと、見たこともない部屋に連れていかれた。


 ——今日からここで過ごせ


 おじさんはそれだけ言うと、どこかに行ってしまった。


 その部屋には、女の人がいっぱいいて、皆きれいな髪をしていた。


 それに、皆お母さんと同じ匂いがして、ちょっぴり寂しくなった。


 ***


 しばらく、そこで過ごしていると、何度か知らない男の人が来た。


 その人が、女の人を指でさすと、その人がどこかに連れていかれた。


 少しすると、みんな帰ってきた。


 どこに行ってるんだろう。


 ***


 ある日、私はおじさんに呼び出されて、またどこかに連れていかれた。


 通路を歩いていると——お前は、傷があるから売れない。仕方ないから俺が使ってやる、とおじさんは言った。


 私を使うってどういうことだろう。


 よくわからない。


 ***


 部屋につくと、おじさんは私の鎖を取り始めた。


 久しぶりに足と手が自由になった。


 何をするんだろう。


 また新しい練習かな。


 でも、この部屋にはあんまりいたくない。


 なんだか、くらくらして、ふわふわしてくる。


 部屋の角を見ると、モクモクと煙が出ていた。


 お部屋で煙をだしちゃいけないのに...。


 ——お前も脱げ


 私が部屋を見ていると、おじさんがそう言った。


「え...」


 ——いいから、早く脱げっ!


 おじさんは、ビリっと私の服を破いた。


 なんで...?


 なにをするの...?


 こわいよ...おじさん。


 そして、おじさんは私に手を伸ばしてきた。


 私はその手を思わずはらってしまった。


 何をされるかわからないけど、何か嫌な感じがした。


 ——痛ってぇ...


 おじさんは腕を押さえていた。


 よく見ると血が出ている。


 あれ、いまって...。


 私は今しかないと思った。


 私は部屋のドアを開けて走った。


 ——あ、おいっ!


 おじさんは怪我をしていた。


 私には鎖もない。


 今なら逃げられる。


 お母さんのところに帰ることができる。


 後ろから、おじさんの声がしてるけど、気にせずに走った。


 来た道を思い出して、ただ走った。


 いくつか、ドアを開けるといつもの一番最初にいた箱の部屋についた。


 ここに来るのは久しぶりだったけど、私は迷わずに出口に向かった。


 いつも、お母さんのことを考えるのと一緒に思い出していた。


 ここを出たら...。


 やった、外に出られ——


 ——やっと追いついた。このクソガキがっ!


「いやあぁああああああ」


 私は外に出てすぐに、おじさんにつかまってしまった。


 せっかく、せっかく出られたのに...。


 ——舐めたことしやがってっ!


 おじさんは、私を思いきり殴った。


 顔を、お腹を、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。


「うっ...うぅぉ...おごっ」


 息ができない。


 痛い、痛い、やめて、ごめんなさい。


 私が間違っていた。


 この人には逆らってはダメだった。


 ——この無能がっ!


 ——どうしてお前は言われた通りにできないんだっ!


 そう言って、おじさんは何度も私にヒモを打ち付けた。


 痛い、痛い、痛い、痛い、おじさん、死んじゃうよ。


「――いやぁ...助けて」


 この言葉に意味がないことは知っている。


 誰も私のことを助けてなんてくれない。


 お母さんだって助けてはくれなかった。


 そう、はじめからわかっていた。


 お母さんは、もう迎えにこないって。


 誰も、私のことなんて——


「――おいっ!」


 え...。


 誰もきてくれない...そのはずだった。


 でも、その人は来てくれた。


 お兄さんは、おじさんが私をいじめるのを止めてくれた。


 そして、お兄さんはおじさんと何かを話して言った——


 ——俺がその子を買う


 買う?


 私を?


 おじさんは、それを聞いて少し笑った。


 おじさんは、お兄さんに800ギルゼなら私を売ってもいいと言った。


 800ギルゼ...。


 私はそれがお金であることを知っている。


 どれだけの価値があるのかは知らないけど、おじさんがそう言ったときに決まって起きることがあった。


 いなくなったと思った人がその日には箱の部屋に戻ってくるのだ。


 その時、おじさんの横にはいつも血の付いた剣を持った男の人がいた。


 お兄さんは...。


 何があるのかはわからない。


 でも、たぶん、お兄さんが危ない。


 私は、おじさんがもう一度、鎖を付け来る間、なにも言えなかった。


 さっき、おじさんにいじめられた時に思ってしまった。


 もう、逆らえない...。


 私は怖くて何も言えなかった。


 ***


 そして、私は箱の部屋に連れていかれた。


 おじさんは、少し待ってるように言って、どこかに行ってしまった。


 今なら、お兄さんに話せるかもしれない。


 もしかしたら、そのまま一緒に逃げられるかもしれない。


 そう思っていたら、お兄さんが話しかけてきた。


 ——えっと...これ...


 そう言って、お兄さんは私に手を伸ばしてきた。


 その時、さっきのことが思い浮かんだ。


 もう、痛いのは嫌だ。


「っ!!!」


 私は伸ばされた手を避けようとした。


 でも、鎖につながれていることを忘れていて、そのまま転んだ。


 ——ご、ごめん


 お兄さんは転んだ私を見て、すぐに謝った。


 悲しそうな、申し訳なさそうな顔をしていた。


 もしかしたら、お兄さんは私をいじめようとしたわけじゃないのかもしれない。


 でも、怖かった。


 それから、おじさんが戻ってくるまで、お兄さんが私に話しかけることはなかった。


 私は危ないことを教えようとしたけど、思うように声が出なくて、何も言うことができなかった。


 ***


 おじさんが戻ってくると、お兄さんと一緒に床の上に立つように言われた。


 その時、指の先をナイフで切られた。


 痛かったけど、そんなことがどうでもよくなるくらいに、もう体中が痛かった。


 なんでもいいから、早く終わってほしかった。


 ***


 そして、痛いのを我慢してると、気づけば私はお兄さんと一緒に外にいた。


 ——さて、どうしたものか...


 お兄さんはそう言って私のことを見てきた。


 お兄さんも、私の服を取って何かするのかな...。


 思い起こされるのは、おじさんのことばかりだ。


 ——とりあえず...


 お兄さんはそう言って、ゆっくり私の前にしゃがんだ。


 お兄さんはじっと私の顔を見ている。


 少し、カバンの中に手を入れてガサゴソとした後に、お兄さんは一つの瓶を取り出した。


 それを私に渡してくる。


 ——これ、飲めるかな...?


 お兄さんは、笑顔で言った。


 でも、それはおじさんが、いじわるをするときの笑顔とは違って見えた。


 なんだか心がモヤモヤした。


 そこで、私はおじさんの言葉を思い出した。


 ——ご主人様の命令は絶対だ。言われたことには必ず従え


 お兄さんは、私の主様になった。


 なら、私はこの人の言う通りにしないといけない。


 じゃないと、また痛いのがくる。


 それは嫌だ。


 私は瓶を受け取って、それを一息に飲んだ。


 味はしなかった。


 でも、飲んだら体がすごく楽になった。


 さっきまで痛かったのが全部なくなった。


 瓶を持つ手を見てみると、さっきおじさんに切られた指が治っていた。


 すごい...。


 私なんかのために...。


 ——何かしてもらったら、まずはお礼を言え。お前なんかのために時間と労力を使ったんだ。ありがたく思わなきゃ失礼だ


 そうだ。


 お礼を言わなきゃ。


「あ、ありが…とう…ござい…ます」


 声が出なくて、上手に言えなかった。


 おじさんは、こういう時、私が上手に言えるまで何度も叩いてきた。


 でも、お兄さんは違った。


 ——うんっ! どういたしましてっ


 お兄さんはとても嬉しそうな笑顔だった。


 私は不思議だった。


 まだ、出会ってからお兄さんに叩かれていない。


 どうして、この人は私を叩かないんだろう。


 私がそんなことを考えていると、お兄さんはどこかへ向かおうとした。


 もしかしたら、私はもう痛いことはされないのかもしれない。


 そんな期待までし始めていた。


 けど、そんな思いはすぐに消えた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


 もし、「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブクマとポイント☆☆☆で応援していただけますと大変励みになります!


 評価や感想もいただけると嬉しいです!


追記2026/8/7

以前は、1エピソードで公開していましたが、長いので前中後編に分けて投稿することにしました。

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