U.24「過去とこれから」
ゼプシオンはゆっくり立ち上がる。
見ると、盾と一体化していた左腕が元の姿へ戻っていた。
以前とは明らかに感覚が違う。
機体の隅々まで理解できる。
「調子はどう?」
「最高だ」
その時だった。
「そんなことよりこいつどうにかしてよー!!」
テコイレィの悲鳴が響いた。
意識を取り戻したトーフ・マスタードが再び襲い掛かっていた。
「まだ終わりじゃねぇ!」
巨大な剣を振り上げる。
テコイレィは必死に防御魔法を支えていた。
しかし限界だった。
「やれやれだぜ」
ゼプシオンは防御陣の外へ出る。
そして。
ガキィィィン!!
振り下ろされたプラスティックダイソードを片手で受け止めた。
「なっ!?」
マスタードの表情が凍る。
信じられない。
全力の一撃だった。
それを平然と止められた。
「貴様……何者だ」
上太郎は肩をすくめる。
「俺か?」
少し考える。
そして笑った。
「ただの救世主なんだぜ」
「救世主だと?」
マスタードは吐き捨てた。
「ふざけるな」
静かな声だった。
しかしその奥に怒りが見える。
「俺はそんな綺麗な言葉を信じない」
そして語り始めた。
自分の過去を。
貧しい家庭。病気の母。
働きづめの父。そして優しかった姉。
姉は家族を養うため、自ら企業へ身を売った。
オーバーライド素材として。
人体を魔具へ転換する実験。半魔としての生を捨てる契約。
マスタードは必死に姉を探した。
そして見つけた。
器だけになった姉を。
だが戻し方は分からない。
企業の噂だけが残った。
役職付社員になれば真実を知れる。
だから企業に近付いた。入社試験は一つ。
企業に反抗するゼプシオンを倒すこと。
「だから俺は戦う」
マスタードは剣を構えた。
「姉を救うためにな!」
ゼプシオンは静かに聞いていた。
そして言った。
「そうか」
右手を掲げる。
「リラート」
魔法陣が展開される。これはゼプシオンだけが使える、器と魂(人体も含む)を分ける魔法だった。
そして古代の盾との結合魔法によって、今までよりも分離能力が少しだけ強くなっていた。
次の瞬間。
マスタードのオーバーライド状態が解けて光が飛び出した。
「なっ!?」
姉だった。薄く透けた魂。弱々しい姿。
マスタードは駆け寄る。
「姉ちゃん!」
反応はある。
しかし弱い。
命の灯火は今にも消えそうだった。
「そんな……」
絶望。膝から崩れ落ちる。
その時だった。
「山のふもとに仲間の魔女がいるわ」
テコイレィがぽつりと言った。
全員が振り向く。
「彼女たちなら何とかできるかもしれない」
「本当か!?」
マスタードが叫ぶ。
「保証はできない。でも可能性はある」
マスタードは迷わなかった。
「行こう!」
しかし。
「待ちなさい」
テコイレィが言う。
「魔女たちは人嫌いなの。私が仲介しないと話も聞いてもらえないわ」
「じゃあ頼む!」
「仕方ないわね」
テコイレィはため息をついた。
だが表情はどこか優しかった。
「彼女も時間がないわ。急ぎましょう」
「ならこれを使う」
マスタードが自慢げに指差した。
そこには既視感のある車があった。
どこか未来的でどこか古臭い。
「俺の愛車、la4ooだ」
「へえ」
テコイレィが感心する。
「ちょっとはマシなもの持ってるじゃない」
ツンとしながらも評価は高い。
しかし。
ゼプシオンが冷静に突っ込んだ。
「二人乗りなんだぜ。全員は無理だぜ」
沈黙。
確かに二人乗りだった。
四人乗れない。
どうする。
その時。
イーコがニコリと笑った。
「大丈夫」
懐から奇妙な装置を取り出す。
「こんなこともあろうかと、古代技術書を参考に携帯型転送装置を作っておいたよ」
全員が固まる。
「そんなもの作れたの?」
「作れた」
「あっさり言うな」
「天才だから」
胸を張るイーコ。
ゼプシオンは頭を抱えた。
「便利キャラなんだぜ」
やがて。
山の麓へ向かう準備が整う。
マスタードは姉を大切に抱きかかえる。
テコイレィはその姿を見つめた。
少し前まで敵だった。
でも今は違う。
救いたい人がいる。
それだけだったのだ。
「急ぎましょう」
テコイレィが言った。
「絶対に助けるんだから」
マスタードは静かにうなずく。
「恩に着る」
「勘違いしないで」
テコイレィは顔を背ける。
「あなたのためじゃないわ」
典型的なツンデレだった。
「姉さんのためよ」
マスタードが苦笑する。
上太郎も思わず笑った。
こうして戦いは終わった。
だが旅は終わらない。
企業。継承された記憶。
そして救世主としての使命。
まだ何一つ解決していなかった。
それでも。
仲間たちは前へ進む。
新たな希望を胸に。
こうして、テコイレィとトーフ・マスタードの峠を越える旅が始まったのだった。




