U.23「起動」
キュー・ビーとマスタードの衝撃にテコイレィはマントで煙を防いだ。
目の前が見えない。
「大丈夫か」
テコイレィには目の前にいる誰かの声が聞こえた。
「ええ。大丈夫よ。」
マントを下げると煙を防ぐようにキュー・ビーがテコイレィの前に立っていた。
「キュー・ビー・・・」
テコイレィとキュー・ビーはしばらく見つめあうように一瞬だけ動きを止めた。
そして、キュー・ビーは言う。
「悪は倒れた。私はこれで失敬するよ。」
テコイレィは名残惜しそうにそしてつぶやくようにぽつりと言い返す。
「また、会えますか。。。」
「また、どこかで会えるさ」
キュー・ビーはそう言い残すと出口に向かって走り去っていった。
一方その頃、イーコは何とかしてゼプシオンの起動を行うため何とか近づいた。
「動け……動いてよ……!」
イーコは巨大な魔具人形ゼプシオンの足元にたどり着くと、震える指先で起動術式を展開した。
青白い魔法陣が幾重にも重なり、古代文字が空間を埋め尽くしていく。
反応は鈍い。
だが。
「……!」
ゼプシオンの両眼に、微かな光が灯った。
確かに起動している。
少しずつではあるが。
その頃。
上太郎は不思議な夢を見ていた。
暗闇だけが広がる世界。
そこに、自分以外の存在が一つだけあった。
黒い影だ。
何の前触れもなく、その影は襲い掛かってくる。
「うおっ!?」
上太郎は慌てて避ける。
しかし影は何度も何度も攻撃してきた。
殴る。
蹴る。
体当たりする。
姿はあやふやなのに攻撃だけはしっかり痛い。
「なんなんだこいつ!」
上太郎が叫んだその時だった。
どこからともなく声が聞こえた。
『お前を試している』
「誰だ?」
『影を捕まえてみろ』
黒い影が再び飛び掛かる。
上太郎は腕を伸ばす。
だが掴めない。
すり抜ける。
何度やっても捕まえられない。
「無理だろこれ!」
『抗うな』
声が言った。
『身を任せろ』
「なるほど」
上太郎は素直に従った。
直後。
ドゴォッ!!
影の拳が顔面に炸裂する。
「ぶはぁっ!?」
吹き飛ばされる。
「騙されたぜ!!」
『違う違う』
声が呆れたように言う。
『そうじゃない』
『……』
しばらく沈黙。
そして上太郎は首を傾げた。
「その喋り方……もしかして擬態の新人?」
『どうもー。鈴木雅○です』
「やっぱお前じゃねえか」
『違う違う』
「いやお前だろ」
『……まあいい』
声は諦めたように言った。
『影を敵と考えるな。受け入れろ』
上太郎は静かに目を閉じた。
そして影が来るのを待った。
逃げない。
戦わない。
受け入れる。
やがて影が胸の中へ溶け込む。
その瞬間。
膨大な記憶が流れ込んできた。
知らない景色。
知らない人々。
異世界。
魔法。
戦争。
そして――
かつて現世から召喚された存在。
《微熱の道化師》。
彼が滅びかけたこの世界を救ったこと。
多くの命を導いたこと。
失われた文明を再生させたこと。
無数の記憶が洪水のように流れ込む。
最後に見えたのは二人の赤ん坊だった。
意味は分からない。
だが妙に胸が締め付けられた。
その時。
厳かな声が響く。
『記憶を継ぐ救世主に捧ぐ』
『対成す正義と戦うための力、我に有り』
刹那。
ゼプシオンに隠された機能の存在が脳裏へ刻み込まれた。
武装。
起動コード。
封印解除。
存在理由。
すべて。
上太郎は理解した。
ゼプシオンと一つになったのだと。
「ゴーストがささやくってやつか」
上太郎が再びゼプシオンとして目を開く。
目の前にはイーコがいた。
「やっと起きた」
「長い夢を見てたらしい」




