U.22 「白い魔具人形」
テコイレィは必死に防御魔法を維持していた。
だが、トーフ・マスタードの猛攻はあまりにも重い。一撃ごとに魔力が削られ、防御陣の光はみるみる弱まっていく。
「魔力が……もう限界よ……!」
震える声が漏れた。
半透明の防御陣には無数の亀裂が走り、崩壊寸前だった。
「ゼプシオンはどうにもならないの!? 早く動かせないの!?」
焦りを隠せず、テコイレィはイーコへ怒鳴る。
「呪文が届かないんだ! まだゼプシオンの内部に反応がない!」
「使えないわね……!」
吐き捨てるように言い、テコイレィは再び魔法の維持に集中した。
しかしマスタードの攻撃は止まらない。
むしろ勢いを増し、防御陣に叩きつけられる衝撃はさらに激しくなる。
「くっ……!」
次の瞬間。
防御魔法は砕け散り、二人は壁際まで吹き飛ばされた。
床を転がったイーコは歯を食いしばりながら立ち上がる。
「なんとかして……ゼプシオンに近づかなきゃ……!」
しかし考える暇はなかった。
マスタードはすでに二人の目の前に立っていた。
巨大な大剣を握り締め、その切っ先を天へ向ける。
「このまま終わらせるぞ」
振り下ろされる寸前――
「まてぃ!」
鋭い声が施設内に響いた。
マスタードの動きが止まる。
イーコとテコイレィも思わず顔を上げた。
「誰だ……?」
施設の扉が軋みを上げて開く。
逆光の中、ロボットのような人影が立っていた。
「この世に悪がある限り、正義の味方は現れる! 覚悟しろ、トーフ・マスタード!」
その言葉に、マスタードは鼻で笑う。
「威勢だけは一人前だな。俺に勝てるかな? オーバーライド!」
漆黒のスーツが輝き、膨大な魔力が噴き上がる。
対する影は軽やかに跳躍し、施設内へ飛び込んだ。
光に照らされたその姿は、白い魔具人形だった。
「貴様も魔具人形か。面白い。かかってこい!」
白い魔具人形は静かに構える。
その隙を逃さず、テコイレィが叫んだ。
「今ならゼプシオンに近づけるんじゃない!?」
「よし!」
イーコは全力で駆け出し、ゼプシオンへ向かう。
そして呪文を唱え始めた、その瞬間。
「させるか!」
マスタードがレガンを放った。
青白い閃光が一直線に走る。
「イーコ!!」
テコイレィは反射的に飛び出した。
残された魔力を振り絞り、防御魔法を展開する。
しかし、その威力は先ほどまでとは比較にならなかった。
「こんなの……初めて……!」
魔力が一気に削られる。
視界が揺れ、防御陣が悲鳴を上げる。
崩壊寸前――
「危ない!」
誰かがテコイレィの身体を抱き寄せた。
衝撃が消える。
温かな腕に包まれながら、テコイレィはゆっくり目を開いた。
「イーコ……?」
だが、そこにいたのは白い魔具人形だった。
「やだ……イケメン……」
思わず本音が漏れる。
白い魔具人形は口元を緩めた。
「レディへの不意打ちは感心しないゾ☆」
「なっ……速い……!」
マスタードが驚愕する。
白い魔具人形はテコイレィをそっと床へ降ろした。
「お嬢さん、ここは危ない。下がっていて」
「あなたは……?」
頬を染めながら問いかけるテコイレィ。
しかし彼は答えない。
代わりにマスタードが割り込んだ。
「そうだ! 名を名乗れ!」
白い魔具人形は少しだけ考える素振りを見せる。
「名前か……そうだな。キュービーとでも名乗っておこうか」
「キュー・ビー……」
テコイレィはうっとりと呟いた。
「なんだ、その変な名前」
マスタードが呆れたように肩をすくめる。
「そんなことはどうでもいい。勝負だ!」
手刀が振り下ろされる。
しかしキュービーは紙一重でそれをかわした。
「なんて身のこなし……」
テコイレィが思わず息を呑む。
キュービーは鮮やかなバク転で距離を取り、再びマスタードの正面へ着地した。
その一瞬の隙を逃さず、マスタードが不敵に笑う。
「我が家に伝わる伝説の武具を紹介しよう。プラスティックダイソードだ!」
現れた剣はどこか安っぽい。
しかし、その刃には無数の傷が刻まれ、歴戦の重みを感じさせた。
「一撃で決める。この剣に最大級の魔法を込めて、お前を倒す!」
マスタードは剣を構える。
膨大な魔力が刀身へ流れ込み、刃が真っ赤に輝き始めた。
「行くぞ! ケイタフラッシュ!!」
咆哮とともに剣が振り下ろされる。
「危ない!」
テコイレィが叫んだ。
次の瞬間。
キュービーとマスタードが交差する。
凄まじい爆風が施設全体を揺らした。
白煙が視界を覆い尽くす。
そして、やがて煙が晴れる。
その中心に立っていたのは――
白い魔具人形、キュービーだった。
「正義の味方は負けん」
静かな言葉。
だがその声は、誰よりも力強く施設内へ響き渡った。




