U.21「トーフ・マスタード」
海底での激戦が終わり、荒れた水面にはまだ戦いの余韻が漂っていた。
その光景を、遠く離れた崖の上からひとりの男が静かに見下ろしていた。
マホー・チュウネン。
現在は魔具人形を運用する巨大組織の幹部にして、冷徹な判断力を持つ男だ。
「面白いことになった……」
波間に揺れる影――ゼプシオン。
あの異質な魔具人形が組織の均衡を壊す存在になると、彼は直感していた。
期待にも似たぞくりとした感覚が胸を走る。
しかし次の瞬間、チュウネンの瞳は冷たく光った。
「……いや、期待している場合じゃないな。ゼプシオンは脅威だ。早めに潰す必要がある」
彼は背後に控えていた部下へ振り返る。
「トーフ・マスタード。ゼプシオンを破壊しろ。これはお前への入社試験だ」
「了解しました、チュウネンさん。試験達成のために働かせてもらいます」
淡々と答えた男は、旅人の衣装をまとい、影のように姿を消した。
◆古代技術書と、倒れていた旅人
「どうしようか……このままじゃ技術書の内容を試せないよ」
古代技術書を手に入れたものの、実験施設がなく途方に暮れるイーコ。
ゼプシオンとテコイレィも困ったように周囲を見回していた。
その時だった。
「おい、大丈夫か?」
ゼプシオンが道端に倒れている旅人を見つけた。
「……水を、一杯……」
弱々しい声に、三人は迷わず介抱する。
水を飲んだ旅人は息を整え、礼として近くの研究施設の場所を教えた。
「助けてくれたお礼だよ。ここから少し行ったところに古い研究施設がある。使えるはずだ」
この異世界は技術発展の過程で各地に実験施設が点在していた。廃墟となった施設も存在し、
いつの間にか文化として根付いている。
半信半疑で向かった三人だったが、そこには確かに設備が整った施設があった。
「じゃあ、周りを散策してくるよ」
旅人はふらふらと姿を消した。
◆ゼプシオン改造計画、始動
イーコは技術書を開き、ゼプシオンに適合する装備がいくつかあることを発見する。
しかし装備を装着するには、ゼプシオンの動力機能の一部を切断する必要があった。
散策から戻った旅人――マスタードに説明すると、彼は一瞬だけ目を細める。
「……力を切る、か。ふむ」
その言葉の裏に潜む意図に気づかぬまま、三人は作業を続けた。
イーコは装備作成に取り掛かり、ゼプシオンは補佐役に回り、テコイレィは周囲にかく乱魔法を展開する。
「テコイレィ、魔法陣お願いできる?」
「はぁ? あんた技術屋のくせに魔法陣も描けないのぉ? ダッサァ」
「……まだ見習いなんだよ。悪かったね」
テコイレィは渋々魔法陣を描き、ゼプシオンは中心に立つ。
イーコが呪文を唱えると、ゼプシオンの動力機能の一部が停止した。
ただしコア――上太郎の魂は無事だった。
「よし、次はケツゴウね。ちゃっちゃと終わらせるわよ」
テコイレィの魔法とイーコの呪文が重なり、海底戦でひび割れた盾は光を放ちながらゼプシオンへ吸収されていく。
「完成……したのかな?」
「わからない」
「わからないって何よ!」
二人が言い合っていると、旅人が戻ってきた。
「作業は順調そうかい?」
「まだゼプシオンは動かないけど、とりあえず完成だよ。ありがとう」
「そうか……なら、今が倒し時だな」
◆正体暴露 ―企業戦士トーフ・マスタード
旅人はゆっくりとフードを外した。
その瞳は、先ほどまでの弱々しさとはまるで別物だった。
「俺の名はトーフ・マスタード。企業戦士だ。悪いな。入社試験合格の糧になってもらう」
「えっ――」
大剣が閃き、イーコへ襲い掛かる。
咄嗟にテコイレィが魔法陣を展開し、攻撃を防いだ。
「知ってる人!?」
「知らんわ! 初めて見た!」
研究施設に緊張が走る。
ゼプシオンはまだ動力機能が切られたまま――動けない。
マスタードのノルマ達成の刃が、三人へ迫る。




