U.20「海底支社からの帰還」
海底支社の廊下は、先ほどの衝突の余波で泡が舞い、視界が揺れていた。
ゼプシオンは荒い息を吐きながら、盾を握りしめる。
ヘビーは壁からゆっくりと抜け出し、焦げた体表から白い蒸気を上げていた。
その目には、もはや余裕も嘲笑もない。
「……見事だ、ゼプシオン。
だが――まだ終わらん」
魔具コアが深紅に染まり、海底の水が震えた。
温度が上がり、周囲の水が細かく泡立つ。
テコイレィが叫ぶ。
「まずい……! あれ以上の出力なんて、支社長クラスでも身体がもたないわよ!」
イーコも青ざめる。
「海水が……沸騰してる……!」
ヘビーは静かに腕を広げた。
その動きは儀式のように厳かで、どこか悲壮感すら漂う。
「《グリル・ターンオーバー・フルフレイム》」
次の瞬間、ヘビーの全身が炎のような魔力に包まれた。
水中なのに炎が揺らめき、周囲の水が白く濁る。
ゼプシオンは盾を構えた。
「……来いよ」
ヘビーはゆっくりと回転を始める。
その速度は、先ほどの比ではなかった。
「これが……企業の“最終品質”だ……
焼き尽くしてやる」
赤い渦が海底を切り裂き、支社の壁が熱で歪む。
ゼプシオンは歯を食いしばり、盾を前に突き出した。
「うおおおおおお!!」
ドオオオオオン!!
盾と渦が激突した瞬間、海底全体が揺れ、巨大な衝撃波が走った。
イーコとテコイレィは吹き飛ばされ、視界が真っ白になる。
◆ 静寂
衝撃が収まったとき――
海底支社の廊下には、静寂が戻っていた。
ゼプシオンは膝をつきながらも、盾を構えたまま立っていた。
盾はひび割れながらも、最後まで彼を守り切った。
対してヘビーは、壁にめり込み、全身から白い蒸気を上げていた。
「……見事……だ……ゼプシオン……」
ゼプシオンは荒い息のまま答える。
「……あんた……強かったよ……」
ヘビーはわずかに笑った。
「……その盾……古代の遺物か……
いや……持ち主に応じて……進化する……厄介な代物だ……」
ゼプシオンは盾を見下ろす。
盾は何も言わない。ひび割れた表面がじわりと再生していた。
「…………
ありがとな」
それは返事ではない。
ただの光の明滅。
だがゼプシオンには、それで十分だった。
ヘビーはゆっくりと目を閉じる。
「……覚えておこう……ゼプシオン……
貴様の名を……」
そのまま、ヘビーは意識を失った。
◆ その後
イーコとテコイレィが駆け寄る。
「ゼプシオン!! 大丈夫!?」
「腕……ゴツくなったじゃん……!」
ゼプシオンは笑った。
「へへ……盾が守ってくれたからな……なんとかなったぜ……」
盾は静かに光を明滅させる。
それは治癒でも意思でもない。
ただの自律反応。
だが、ゼプシオンの腕の痛みは少しだけ和らいだ。
テコイレィはヘビーを見下ろし、ため息をつく。
「支社長を倒したのはいいけど……この騒ぎ、すぐにバレるわよ。
急いで技術書を持って逃げるわよ!」
イーコは袋を抱え直し、頷く。
「うん……!
でも……ゼプシオン、本当にすごかったよ」
ゼプシオンは照れくさそうに頭をかいた。
「いや……俺だけじゃねぇよ。
こいつが……頑張ってくれたからな」
盾は静かに脈動した。
それはただの光。
だが、三人の胸には確かな絆が芽生えていた。
三人は崩れかけた海底支社を後にし、地上へ帰還した。
海の戦いは終わった。




