U.18「水中戦」
テコイレィは観念したようにため息をつき、杖を軽く振った。
変装魔法が霧のようにほどけ、チュウネンの姿が消える。現れたのはスガキ・テコイレィ本人だった。
ヘビーは半笑いを浮かべ、低く言い放つ。
「……お前か。スガキ・テコイレイ。まさかチュウネンのフリをして潜り込むとはな。部下はいるんだな?」
テコイレィは舌打ちしながら返す。
「部下じゃないわよ。仲間よ」
「どちらでも同じだ。ここでまとめて処理してやる」
ヘビーの目がギラリと光り、戦闘の気配が一気に濃くなる。
水中戦が始まる。
ゼプシオンは拳を構えるが、水の抵抗で動きが鈍い。
「くそっ……やっぱ水の中じゃ重い……!」
イーコは焦りながら袋を抱え、ゼプシオンへ叫ぶ。
「ゼプシオン!これ使って!」
イーコが投げたのは支社で拾った試作盾。ゼプシオンが受け取った瞬間、ヘビーが突進してくる。
「遅い!」
巨大な尾びれが水を切り裂き、ゼプシオンへ叩きつけられる。しかし盾が光り、魔法陣が展開して攻撃を弾いた。
「なっ……!? その盾……研究中の試作品か。古代の遺物だと甘く見ていたが……!」
ゼプシオンは驚きながら盾を構え直す。
「イーコ、これ……すげぇぞ!」
「支社の研究装備だからね!たぶん強いはず!」
「たぶんって言うな!」
ヘビーは舌打ちし、腕を広げる。
「……仕方ない。本気を出さねばなるまい。ヘンシン!」
光がヘビーを包み、鱗が硬質化し、筋肉が膨れ上がる。
「《ヘビー・モード スモークサーモン・プライム》」
「名前が長い!!」
テコイレィが即座にツッコむが、ヘビーは巨大化し、尾びれは刃のように鋭くなる。
「さあ、かかってこい。発掘物風情が、どこまで耐えられるか見せてもらおう」
ゼプシオンは盾を構え、ヘビーの連撃を受け止める。しかし水中ではヘビーが圧倒的に有利で、ゼプシオンは押され壁に叩きつけられる。
「ゼプシオン!!」
イーコが叫ぶが、ヘビーは容赦なく追撃する。
「終わりだ」
巨大な尾びれが振り下ろされ、盾にヒビが入る。
「やばい……壊れる……!」
だが次の瞬間、盾が光り、ヒビが盛り上がるように変化する。
「……え?」
イーコが目を見開く。
「盾が……厚くなってる……?」
ヘビーも驚愕する。
「なに……? 自己修復か……いや違う。攻撃を受けるたびに……強化されている……?」
ゼプシオンは立ち上がり、強化された盾で体当たりをかます。
「うおおおおお!!」
ヘビーはバランスを崩し、後ろへ倒れ込む。
倒れたヘビーはゆっくり立ち上がり、ゼプシオンを見据える。
「……認めよう。発掘物にしては強い」
ゼプシオンは息を切らしながら笑う。
「へっ……褒められても嬉しくねぇよ……!」
ヘビーは胸に手を当て、低く呟く。
「ならば……こちらも切り札を使うしかあるまい」
テコイレィが青ざめる。
「まさか……!」
ヘビーの体から黒い魔力が溢れ出し、生命力が魔力へ変換されていく。
「《オーバーライド》発動」
海底が震え、ヘビーは巨大な魔力生命体へと変質する。体内を魔具コアの光が走り、従業員たちが息を呑む。
「さあ……第二ラウンドといこうか」
イーコはその威圧に息を呑む。
「……雰囲気が……さっきまでと違う……!」
テコイレィは険しい表情で言う。
「オーバーライドの“深層領域”。支社長クラスが本気を出すとこうなるのよ」
ヘビーは王者のような所作で腕を広げる。
「勘違いするなよ、発掘物。私は企業の力を背負っている。貴様らのような素人相手にここまで力を使うとは思わなかったが――
それだけ、貴様らが“脅威”だということだ」
ゼプシオンはその言葉に一瞬息を呑むが、構え直す。
ヘビーの体が赤熱し始める。イーコが「温度が……?」と呟き、テコイレィが「来るわよ……!」と警告する。
ヘビーは静かに宣言する。
「《グリル・ターンオーバー》起動」
次の瞬間、ヘビーが高速回転を始める。赤い光の渦が生まれ、熱と魔力が混ざり合い、深海に沈んだ太陽のように輝く。
ゼプシオンは盾を構えるが、回転するヘビーが突進し、衝撃で盾ごと吹き飛ばされる。
「ゼプシオン!!」
イーコが叫ぶ。ゼプシオンは壁に叩きつけられ、腕が痺れて動かない。
ヘビーは湯気を立てながら静かに言う。
「片面焼き……完了だ。次は、裏面だ」
再び高速回転が始まり、赤い渦が迫る。
「ゼプシオン、避けて!!」
イーコが叫ぶが、ゼプシオンの体は動かない。
「終わりだ、発掘物」
ゼプシオンは歯を食いしばり、赤い光が視界を覆う――。




