#5:初代勇者の戦い
過去編です。ヒカルたちは出てきません。
遠い昔の話、一人の勇者がこの世界に転移してきた。彼の名はエレード。彼にはいくつかの異名があり、後にシャルル=エレードとも呼ばれることになった。シャレスト王国の初代国王である。
転移という言葉で分かる通り、彼は異世界人である。それもどうやら光たちと似たような世界線から来ているそうだ。もしかしたら同じ世界である可能性すらあるほどに。
エレードは女神によってこの世界に転移させられた。女神曰く、世界に災いが降り注ぐ。それを止めてほしいと頼まれたのだ。勿論断るという選択肢もあったのだが、エレードは既に前世で死んでしまった身だった。転生とは本来であれば赤ちゃんから誕生するという決まりがあるのだが、その時は世界の破滅まで時間がなかった。
そこで女神は、適当な肉体を作り出してエレードの魂をそこに入れた状態でこの世界に送りこむという選択肢を提示した。死んだ者の一度は助けられた魂だと思い、彼女に協力する道を選んだ。
そして、転移した先は王城だった。そこはシャレスト王国と呼ばれることはなく、以前の王朝であった。エレードは第一王女と婚約することになり、魔王討伐を懇願された。第一王女の彼女は【聖女】という職業を有しており、王様も渋々と言った感じではあったのだが魔王討伐に送り出してくれた。
【ウィザード】と【剣聖】の少女を仲間に加えて、エレードたちは様々な場所を冒険した。魔物やアンデットモンスターなどを倒して、経験値を稼いで強くなった。そして、さんざ真名情報を集めてついに魔王の居場所を特定した。
そして僕たちは、魔王城へと攻め入ることを決断した。しかし、そこで僕たちは困惑をした。魔王城はまがまがしい城何かではなく、普通にお城といった感じだった。さらには街にいる人たちも普通の人間と大差ないように思えてきた。国王の聞いていた話とは少し違うのかもしれない。
城下町と思われる場所にいる人々は、僕たちを攻撃してくるわけでもなくただただ普通に生活しているように見えなかった。とは言え、魔王は普通の人々を隷属させて働かせているという話を聞いていたし演技をしているだけなのかもしれない。そう思って、僕たちは特に気にすることなく、城の方へと向かった。
城の前にいた門番に中に入れてほしいと頼んだところ、駄目だと言われて逆に怪しい奴と判定されて攻撃された。もし、ここが普通の国だったとするならば、この対応は普通のことかもしれない。そんな考えがふと頭の中をよぎったのだが、今はこの状況をどうにかするしかないと思い、僕は門番の兵士二人を剣で気絶させた。
そして、城へと入った。その騒ぎを見られていたのか、あちこちで敵襲という声がかけられて次々に兵士が僕たちに襲い掛かってくる。僕たちはただひたすらと兵士たちを倒し続けて、ついには王の間とも呼ばれる場所まで来てしまった。
「ふむ、そなたが勇者を名乗る逆賊か何かか?」
王の間に座るその人物は、そう言うと俺たちのことを睨むようにしてみていたが、僕の横を見て何かに気づくとそう言った。
「そなたは……もしかすると王女ではなかろうか?」
「お前、知っているのか?」
僕は彼女をかばうようにして前に立つ。他の二人も同様にして彼女をかばうようにして前に立った。
この旅の間に彼女に対する愛情が芽生えて、僕と彼女は既に相思相愛の中へと発展していた。
そして、僕は彼が何かを言う前に攻撃を仕掛けた。仲間のみんなは、少しだけ後れを取ったみたいだが、直ぐに援護や追撃を行ってくれた。この魔王、中々に強い。それこそ、僕たち四人が戦っている間もだ。
しかし一方の魔王はどこか上の空だ。
「お前、手を抜いているのか」
「そなたらと戦うつもりはないのでな」
「馬鹿にしやがって」
「待ってください」
婚約者の彼女はそう言うと、僕のことを止めた。他のメンバーも彼女のことを見る。魔王の方をちらっと見ると、彼が攻撃してくるようなそぶりは一切見えなかった。
「まず初めお聞きします。貴方は魔王ですか?」
「ふむ。儂は魔王などではない。そもそも、その言葉でさえ今初めて聞いた」
「では魔物を操っているという話は本当ですか?」
「そんなわけなかろう。第一操れるのであれば、今ここで出しているじゃろう」
「そうですよね」
彼女はそう言うと、何かを考え始めた。冷静になってみると確かにそうかもしれない。もし彼に魔物を操る能力があって、魔物を出現させることができるのならこの場で出さないわけがない。勿論、出したばかりでそういった類の魔法にクールタイムのようなものがあるのであれば別だが。
「それに、貴方とは何処かでお会いしたことがあるような気がするのです」
「昔、交流という名目でそなたらの国に赴いたことがあったからな。当時、王女は小さかったが確かに儂とあっておる」
「そういえば……何でこんな大事なことを忘れていたのでしょう」
「どういうことだ?」
「外交していたんです。元々この国とは」
国?だけどそんな話は一切聞いたことがなかったけど。
「不思議な顔をしているのも無理はありません。恐らく、あの国に記憶を操作する結界のようなものが貼られていた可能性があります」
「だとしてもそんなことをして何の意味が」
「恐らく、おぬしらを使って侵略するためだろう。この国をな。とは言え、おぬしの父がそのような性格だとは思わんかったのじゃが」
彼は彼女のことをじっと見つめてそう言った。
「だとしたらごめんなさい。私は、人類の恐怖とばかり思って貴方を召喚してしまってでもただ私は人同士の争いに巻き込むようなことになってしまって」
彼女はそう言うと僕に謝った。そんな彼女に対して、僕は何も言わずにそっと抱きしめた。
「確かにそうかもしれないけど、僕は君と出会えたことで幸せいっぱいだ。それに君は知っていてそれをしたわけじゃない。だから君が気負う必要はないよ」
「エレード様」
「あららー効果が切れちゃったか。でも残念。勇者はへばっている状態だし、ここまでやれば後は僕自身の手で倒しちゃおうかな」
「なっ、国王様!?」
「お父様!?」
「おぬしは」
突然、国王が俺たちと魔王の間に宙に浮いた状態で現れた。
「おぬし、何者だ?」
魔王がそう言うと、国王は笑うようにして姿を変えた。国王としての姿は消え、やがて少年のような姿になった。違うのは天使のような羽が生えていることだ。しかし、その色は黒に染まっている。
「お父様はどうしたのですか!?」
「お前の父親ならとっくに殺している。ここまでは計画通りだ」
少年はそう言うとニヤニヤとしていた。どうやら全てこいつのたくらみだったらしい。恐らく俺が召喚された時点で既に国王はこいつだったのだろう。
「おぬしら戦えるかな?」
「ああ、こいつを倒さないと気が済まない」
そして、僕たちは彼と戦った。結論を言うと戦いには勝利した。しかし、魔王は死んだ。少年の格好をしたやつが倒れる直前に僕に向かって呪いのようなものをかけようとした。僕は膝をついてしまっておりよけることができない。覚悟を決めて目をつぶったが、呪いが彼を包むことはなかった。エレードは恐る恐る目を開くとそこには僕をかばいそして呪いを受けてしまっている魔王――いや、この帝国の王がいた。
「な、なんであんたが」
「儂は元々長くはない。そんなことよりも、勇者よ。君は王国と帝国が協力して気たるべき恐怖に備えてほしい」
「来るべき恐怖ですか?」
「ああ、呪いを受けた和紙だからこそ分かる。仕留め損ねたのじゃ。今すぐとはいかぬが、やつは条件さえ満たしてしまえば復活してしまう」
「そんな」
「だからその時までに、我々が対抗できるように国を作ってくれ」
「分かりました」
しかしながら彼の願いがかなうことはなかった。国王を偽っていた少年により、王城は既に破壊しつくされており、逃げ遅れた人々はほとんど亡くなってしまっていた。
さらに魔王の死に際を見ていない帝国の兵士たちが、エレードたちを許すこともなく二か国が協力することはなかった。魔王が倒れたということ王国側が戦争を仕掛けた二つの真と偽の情報が飛び交い、その情報はエルフやドワーフ、亜人の国々まで広まってしまった。
そして彼の望みとは間逆に、世界の国々の距離は徐々に広がっていってしまっていた。
僕はあの後、国を立て直しパーティメンバーの三人と結婚して国の復興を行った。そしてシャレスト王国を新しく作った。しかし、帝国の王にかけられた呪いは想像以上に残酷なものだった。
それは魔王というものの創造であった。【魔王】が死ぬと新たな魔王が現れるといった呪いで、【魔王】は魔剣という禍々しい剣を持ち、よほどの精神力がなければ自身の膨大な魔力がない限り世界を破滅に導こうとしてくるらしい。
そして【魔王】を新たな王として認めるという宣言がなされてしまった帝国は、あちこちの国に戦争を仕掛け始めた。そして時が経ち、エレードは城の地下に試練を作るように女神さまからの信託があった。そして彼が寿命で命を落とした後も魂は試練の場所にとどまり続けた。女神さまが【魔王】に対抗するべく【聖なる勇者】を初めて召喚したのはちょうどエレードが亡くなった日からだと思う。
何故、三代目以降の魔王は、前の魔王が倒れてしばらく経ってから召喚されていたのかについての話については今回は明かされません。(エレード自身は知らないので)
次回は試練後の話に戻ります。




