#1:ヒカルの決意
新章です。
ヒカルの決意です。
章タイトルは未定です。
「しかし、聖剣のあるダンジョンに入るためにはおそらくヒカル様が〈聖なる勇者〉であると正体を明かさなければならないかもしれません」
フィーシャはそう言った。正体を明かす?それをすれば目立ってしまうことは確実だろう。さらに、色々とこき使われる未来まで見える。今は一勇者としてだが、公表されてしまえばそうは言ってられない。
「決めるのはヒカル様です。ただ公表したとしても悪いようには決してさせません。貴方が私を助けてくれたあの時のように今度は私が助ける場合です」
「……フィーシャ」
フィーシャははっきりとそう言った。
「まったく昔はあんなに明るかったっていうのに」
「何があったんだろうね、光君」
愛と唯がコソコソと二人でしゃべっていた。早く決めろということだろうか。どうしようかと悩んでいると突然俺の脳に声がした。とはいってもミスラやノヴァが語りかけるように他者からのものではない。これは俺自身の記憶なのか?
早く決めろ、逃げるな?一生懸命、頑張れ。何も考えずに……ただがむしゃらに。懐かしいな。なぜ今そんな言葉を思い出したのかは分からない。どうしてこのタイミングなのか。分からない。けどはっきりすることがある。今はどこで何をしているかわからないけど。あいつなら絶対こう言っていた。
恥ずかしいな俺。いつかまた会える時に、お互い変わらずに会おうと約束していたのに。何をやっているんだろうか。たったの三年間で、それ以前の大事な約束を破るわけにはいかねえだろ。
「フィーシャ、王に言うんだろ?」
「ヒカル様……?」
「ヒカルさん?」
フィーシャと愛月が首を傾げた。他のメンバーも様子も俺のことを不思議そうに見てきた。
「紹介して構わない。俺はみんなを救うために動く」
全員が全員俺のことを驚いたような表情で見てきた。何だよと言いたいが、まぁ確かに今までの俺の行動を見ていたら納得の出来ないものはあるかもしれないんだけど。
「どうしたのヒカル君?急にカッコつけちゃって。というかまぁ、本当にかっこよかったけど」
「はい。まるで今までとは人が変わったような」
朱莉と琴葉も驚いたようにそう言った。
そこへ、先ほど伊藤たちを追っていた美涼と瑠光が帰ってきた。
「終わったわよ、ヒカル」
「まぁ残念ながら撮り逃しちゃったんだけどね。春香ちゃんは伊藤君の所にいるって言ってたよ。だから二人っきりにしてきた」
「お疲れ、二人とも」
「それじゃあ、聖剣を手に入れに行くか」
俺は二人にも今まで話してきたことを離した。すると、二人とも俺が聖なる勇者として表に立つことに滅茶苦茶驚いていた。
「ヒカルがそんなことを言うなんて夢にも思わなかったわ。ヒカル、大丈夫なの?さっきの敵を前にして、取り乱したとかそういうんじゃないでしょうね?」
「ああ、心配するな。きっかけはあいつかもしれないが、少し昔のことを思い出しただけだ」
俺は美涼にそう言う。すると疑問に思ったのか瑠光が俺に聞いてきた。
「昔のこと?」
「ああ、小学校高学年の時だったかな」
俺は覚えている限りの昔の話と、それらの言葉が先ほど突如として俺の脳内に響いたことを話した。すると瑠光は満面の笑みを浮かべた。
「そっかそっか。それじゃあ全力で頑張ろうね」
「おう」
瑠光はそう言うと手をグーにして手を差し出してきた。俺は彼女の拳に俺の拳を合わせてグータッチをした。
「あーずるい二人とも!」
「そうです、そういうの良くないと思います」
「これは私も許せないわね」
愛と愛月、さらには美涼までが文句を言った。俺はしかたなく、全員とグータッチさせられることになった。最初に一回やるから気合が入るんだけど、何回もやると逆に気が抜けていく気がする。俺は群がる彼女たちとグータッチをしながらそんなことを考えていた。
「……昔のこと、少しは思い出してくれたのかなひ―君」
だから、瑠光が何かを言っていたような気がするがみんなの声にかき消されてしまい、聞き取ることはできなかった。
「それでは王宮に向かいましょうか、ヒカル様」
「貴族のしがらみだけは嫌だなぁ」
「勇者様は私が守って見せます。バルティア=ティサリーヌの名に懸けて」
「私がいれば貴族はどうにかなると思います。お姉さまたちは、他国の王であるサリーがいれば迂闊に手は出してこないでしょう」
頑張るぞと可愛らしく意気込んだサリーに対して、フィーシャは落ち着いたようにそう言った。そして転移で王城まで移動した後俺たちはフィーシャの部屋で待たされた。その間に、フィーシャとサリーの二人で交渉に向かうらしい。
――ちなみに俺が聖なる勇者だと公表することはティファリナ帝国にいるオリビアたちにも伝えてある。両方の職業を正式に発表するのはもう少し時間がかかりそうである。ちなみに俺がこのタイミングで公表しようと思った大半の理由は先ほどの思い出によるものだが、もう一つは王が俺たちの敵である賊とのつながりがないことが分かったからである。とはいえ、まだ怪しい人物であることに変わりはないんだけどね。
そして、フィーシャが部屋に戻ってくるとすぐに俺たちは謁見の間へと招待された。
「ふむ、そなたが〈聖なる勇者〉様かの?」
「はい」
俺はそう言って、光属性初級魔法の『ライト』を最小威力で見せた。すると第一王女であるティーシャ王女が俺の前まで来て手を取ると、片方の膝を地面に付けた。
「ずっと探しておりました。〈聖なる勇者〉様。これで私たちは救われるのですね」
彼女はキラキラとした目で俺のことを見てきた。それをフィーシャが無理やり間に入って止める。
「お姉さま、離れてくださいませ」
そう言うとフィーシャは俺に腕を絡ませてきた。ティーシャ王女はそんなフィーシャに対して頬を膨らませると反対側の腕に抱き着いてきた。
「なっ!?ティーシャお姉さま?」
「ふふふ、いいではないですか」
フィーシャによるとこの人権力に固執してるらしいんだけど、今の様子を見る限りそんな漢字には全く見えないんだけど。というか恥ずかしい。
「二人とも、陛下の前ですよ」
そんな二人に対して、第二王女であるサーシャ王女が注意した。彼女の表情はあまりいいものとは言えなかった。
その後、あっさりと聖剣があるといわれているダンジョンに入ることを許可された。ティーシャ王女がついて来たいと言っていたが、王様にダメと言われて滅茶苦茶落ち込んでいた。第一王女である彼女を危険な目には合わせたくないらしい。前に一度スケルトンと遭遇しているわけだしね。そんなわけで、フィーシャが案内役になるそうだ。
「こうして二人きりになるのは珍しいですね、ヒカル様」
「ああ」
「準備はよろしいですか?」
聖剣のあるダンジョンは〈聖なる勇者〉と王族の2人までしか入ることができない。そのため、今回は二人きりだ。
「気を付けてください。ここでお待ちしておりますわ」
ティーシャ王女が王城の地下にあるダンジョンの入口まで見送りに来てくれた。そして、フィーシャが呪文を唱えるとダンジョンの扉が開かれた。
フィーシャはそっと俺に手を差し出してきた。俺はその手を取り、手をつないだ状態で、ゆっくりとダンジョンの中へと入った。
後書きはありません。




