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常闇の地底列車  作者: たけどらの民
第1章 『天空のツリーハウス』
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幕間 選ばれし救世主様

「――あれ、徹浪さんは?」


「アンダージュに行かれました。また『災害』です、今度は風……地底は無事でしょうか」


「なるほど…………『台風』だね。過去にも何回かあったけど、あれの危険度は並じゃないよ。むしろ逆……いや、安全な『災害』なんてないけどさ。マギマギも、徹浪さんは心配?」


「その呼び方いい加減止めてくれませんか、不愉快極まります! あとそんなに心配じゃないです、あの人だったら何とかするって……自信、ありますし」


「可愛いらしいこと言っちゃって~。ね、マギマギ」


「トルクさん!」


 徹浪が天空に存在するツリーハウスから姿を消した数刻後、そこに新たに現れた者がいた。

 数分前まではマギナが独占していた社長室だが、何となくこいつが来ることは予測出来ていた。なにしろ『協力者』――転生トラックの擬人、トルクは見計らって出てきたのである。

 徹浪にバレないよう、気付かれないよう。さらには勘づかれないように、万全の潜伏を行っていたトルクは満足そうに鼻の下を人差し指で擦る。


「と、そこまでだったら普通だったんですが……あ、いえ、ごめんなさい元から普通じゃなかったですよね」


「なーんか感に触るねその言い方! ごめんごめん、波長合わせ間違っちゃって、ね」


「そういうところは察せれるんですね。というかそろそろ私も平行……じゃなくて一直線にトルクさんとお話したいんですが」


 そう、トルクはドアから社長室に入ってきたのではない。

 なんとまさかの『天窓』から、トルクは顔と首だけを覗かせつつ天井から太陽光と共にマギナや時計、観葉植物を見下ろしていた。凄まじい逆光で眩しいし、彼の顔はよくわからない。

 垂直にお話をしても、一向に『辺』という言葉は交わる気がしてこないので、なんなら曇りの日に来てほしかったと、ちょっぴり心の中で思う。


「……なんなら、曇りの日にでも来れば良かったんじゃないですか?」


「マギマギが『隙を見て入ってこい』って言ったんじゃん。あれ、もしかして乙女なジョーク? 可愛いね」


「トールークーさーん! ……どうでもいいので早く降りてきてください。首疲れてきましたし、眩しいですし、金棒落ちてきそうで怖いです」


「顔赤いよ?」


 近くの机に置いてあった高そうな羽ペン数本を投げてやると、天窓から軽い悲鳴が聞こえてきた。命中したようでなにより。

 血が滴ってきたらどうやって掃除しよう、と瞬時に我に帰るが、悲鳴があがってすぐに「血は出てないよー!」という報告があってので、どうやら無用の心配だったようだ。コンマ感覚でもう数本投げてやりたい気持ちになったが、今回ばかりはしまっておく。

 落ちてきた羽ペンを床に一ミリ足りとも触れさせることなく回収し、飛び散ったインクは雫単位でコーヒーカップに注いで、後で食べようと思っていたショートケーキと並べてみる。不味そう、という率直な感想は口にはしなかった。


「金棒呼ばわりは止めてよ、是非とも『転生棒てんせいぼう』って呼んでもらいたいところだね!」


「そっちの方がカッコ悪いので金棒って呼んであげてるんですけどね」


「金棒って呼ばれた方が……もっとダサいじゃん」


「転生棒がダサいって認めてるじゃないですか」


 持ち前のファッションを侮辱されて複雑な気分のトルクは、ようやく社長室へと降り立った。

 ぶら下がっていたせいか全身がだらしなく、もしもこんなサンタクロースがいたら子供は泣き喚いて助けを乞うんじゃないかな、と変な想像をしていると、トルクはいつの間にか髪や服装などの身嗜みを整え終わっており、意外にも作戦会議には乗り気らしかった。


「……それにしても、救世主様をくるくるー……あ、じゃ、じゃなくて、救世主様を本当に『福見駅』に送っても良かったんですか? あそこってほんとに何も無いじゃないですか。社長の名前が付いてるんですし、何かあるとは思うんですが…………正直、少し怖かったです。社長の指示に逆らってしまったのも初めてですし……」


「救世主様て……梶原さんと何があったのかは知らないけど、良いんだよそれで。あーちなみに、福見駅を選んだのはちょっとした理由があるからなんだよね」


「……お聞きしても?」


「――梶原さんがアンダージュに到着して五分十三秒後、福見駅に地底列車が到達する。ヒナヒナと連絡とったから間違いないよ」


 その発言に、マギナは明るい室内で息を飲んだ。

 トルクの発案で始められたこの世紀の大作戦、まさかここまで計算しているとは思わなかった。

 発案者の人格性も相まって、軌道はともかく、トルクに対してはそれほど期待してはいなかった、のに。


「……『風の災害』が来ることも、わかってたんですか?」


「さぁて、どうだろうね。勘って答えとこっか。追及してくるマギマギも可愛いね」


「もしわかっていたとしたら――『災害』から救世主様を守るために」


「列車に乗せたかったのは事実だけど、ほら、自分たちにはちゃんとした本来の目的があるでしょ?」


「――――」


 トルクはあくまでも気楽に、伸び伸びとした会話を求めていた。マギナはと言えば、緊張と使命感に挟まれて気持ち的に終始立ち往生。

 これではまともに話が成立するわけがない。

 トルクの態度や地底列車の事実等に騙されかけていたが、そうだ、自分たちが動き始めた理由を忘れてはならない。

 こんな作戦さえなければ、トルクと会話する意味すら見出だせなかったというのに。マギナは自身の視野の狭さに自分で呆れる。

 そして二人で確かめ合うように、マギナは世紀の大作戦の目的を口にする――。


「――救世主様に、地底を救ってもらう」


「梶原さんだったら出来ると思ったから、自分は梶原さんを選んだんだよ、地下の『救世主様』に。どうやら……徹浪さんも彼を選んでしまったみたいだけどね」


 地底アンダージュを救いたい。

 それは、ずっと胸の奥で響き続けている魂の叫び。ずっと叶えたい全員の願い。ずっとそうであってほしいというシンプルな願望。

 徹浪と擬人の救いたい世界、叶えたい願いは、元々一つのものだった。

 ――そして、それを成し遂げるために選んだ存在も同じ。

 ただ、少しだけ達成する方法にズレがあるだけだった。『直接』か、『否』か。


「その二つから『否』を選択しちゃったことだし、ついでに勝っちゃったことだし、もう自分たちも立派な悪党だね。梶原さんを援護する傍ら、これから一緒に地上で誰も傷付けない盗賊でもやらない?」


「現代日本って不景気真っ只中ですし、あんまり収穫はないと思うんですが」


「りょ、良心が痛むなぁ……地下鉄ジャックとかは駄目?」


「良心があるならそもそも犯罪を提案しないで下さい」


「良心があるからこそ道が空から降ってくるんだし……」


「意味がわからないですよ?」


「特に意味はないよ。意味あるって思った? 可愛い」


「…………」


 今だけは、何だか羽ペンを投げる気にはなれないマギナだった。

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