1-13 死にました
――無理解の壁を駆け上がる。音という音が反響し、脳内に焼き付けられる。
記憶の中で必死に頼りになるものを探すも挫折、手がかりは僅かも存在しない。
軌道は『転生トラックに轢かれた』。
それが意味する、と言えば『死』だろう。
なら、俺は今死んでるのか。
辺りは真っ暗、というか意識すら存在しない世界なのかもしれない。ぷっつんと途切れた光を求め、腕を動かそうと試みるがそもそも腕がこの世界にはなかった。
そんな状況の渦中に呑まれるがままの軌道は深く、深く嘆息する。もちろん気持ちだけ、だ。
『――――』
徹浪と対話し、あんなもろ胡散臭い関係を作り上げた軌道は、成す術もなくトラックに轢かれて死んだ。【人を、止めた】。
こんな醜態を徹浪に晒してみれば、どんな反応をするだろう。相変わらず想像したくない。笑われるのが、恥ずかしい。――しかし、それは何も徹浪に限ったことではなかった。
だってそうだろう、別れて十数分で、会社下の横断歩道で死んだ。そして、大切な『約束』も破った。どんな人に笑われたって仕方がない。
死にたい。いや、もう死んでるのか。
でも、死にたくない。
やっぱり、俺にはやり残したことがある。この世に【未練】があった。
こんなへんてこな場所でも徹浪の予言っぽい伏線発言に驚かされるが、もうあいつと会うことなんてないんだろう。
もしこの世に『未練』が残っているならば、人の霊は幽霊となり、この世に留まり続けて因縁のある人物を呪ったりするそうだが、もう社長を呪ってやる気力も残っていなかった。
そしてもし『未練』があったとしても、軌道はこの世に留まることは出来ないだろう。――『転生』するのだ。
『転生トラック』に轢かれれば『転生』する。不思議発想とファンタジーと創作が大好きな日本人が生み出した、最もポピュラーで王道な『転生』の仕方が『トラックに轢かれる』ことだ。
転生する先は主に異世界。ネット小説界ではよくあることだそうだが、そこへ送られた所謂『主人公』というやつはチートやらハーレムやら、とんでもない世界に直面する流れが基本である。
だが、俺が今から行くところは本当に異世界なのか。
ぶっ飛ばされる直前、あいつが言っていた――そう、あいつが言っていた。『閻魔』やら『鬼』やら、物騒で物々しい単語が、途端に頭に響く。
『――地獄、か』
不鮮明な意志が軌道にその現実を伝えきると同時に、漸く闇が晴れてくる。
あっちに、光が見えた。
やっと、常闇から抜け出せる。
ぼろぼろになっていた精神も、光を求めて浮き上がり始めた。ついでに、覚悟も拾っておいた。
あの光が鉄釜を滾らせる紅蓮の炎でないことを祈りつつ、その覚悟を心にしまっておく。
『地獄へ行く』なんて、気の良いことではない。むしろそんな風に思わない人間がいるのかどうか知りたい。
死ぬと解っていても、人間を止めたということを解っていても、やっぱり死にたくなかった。
もし、一縷の望みが叶うなら。
――俺はまだ、人で在りたいと。




