1-12 走馬灯は転生トラックと共に
新しい執筆ツール使ってみました!
「……擬人ってのは、あれか。社長さんが言ってたあの擬人か」
「徹浪さんのことかな? だったらそうなんだろうねー。ツリーハウスで、あの人と話してきたの?」
「はぐらかすな。……擬人には、女の子が多いって話だった。けどお前は男……だと思う。いや、詳しくないもんで、それほど見た目も女っぽくないし」
「んー当たり! あ、でもそこから突いてくるのは予想してなかったかな……なるほど、そこらへんまで聞いてるのね。なるほどなるへそ……なら、やっぱりここに『自分』がいるなんておかしいと思わない?」
どこまでも気楽なその擬人(暫定)は、人差し指を立てると自身を指さしながら疑問を投げ掛けてきた。
その疑問の根元はお前だと、強く言い聞かせてもこいつには何だか通じない気もする。おそらく徹浪も同じタチであり、こいつも同じタチだ。
「聞く限りじゃ地下にいるってのが普通だと聞いた」
「間違いじゃないよ、自分がイレギュラーなんだからね。僕は間違いなく擬人――転生トラックの擬人。ま、色々訊きたいことはあると思うんだ。多分あなたが知りたいのは……徹浪さんとの関わり、じゃない?」
その問に、軌道は普通に肯定をしかねる。もちろんそれも気になる。というか何もかもが気になっていた。
景色は一貫してゆっくりとしたセピア色に染まっている。時の流れがカタツムリ並みなのに、多分こいつ――転生トラックの擬人が関係しているはずだ。
転生トラックの擬人、とやらは中性的な見た目の一応男、といった感じの外観をしていた。
髪は色が抜け落ちたように白く、全身も服装含めて真っ白。幼げな体つきをした高校生くらいのやつだ。
作業服に身を包み、何らかのマークが入ったヘルメットを装着し、そして何よりも目につくのは、所持している凶悪で鉄っぽい質感の金棒。
見れば、その金棒にトゲは付いていない。しかしほっとしたのも束の間、なんと金棒には『タイヤ』が付いていた。おっかねぇおっかねぇ。
『タイヤ』とは言っても、小さいミニローラー的なものが金棒の片側に集中して取り付けられていて、辛うじて転生トラック……というかトラック要素が見受けらる。
ファンタジーに出ても一応おかしくないくらいの、しかしやはり一応ファンタジーっぽい人物、擬人だ。
これが、擬人――。
――要するに怪しい極まりない。
「んで、君の目的はなんよ。俺は絶賛人生転落モード中だから、あんまり構われると身投げしちゃうぞ」
「……命、大切にしてってば」
「身投げしたって俺は死なないから大丈夫だ」
とんでも事態に軽口で対応するが、軌道は軌道ならではで事の事態を察することは出来ていた。
まず始めに、こいつと徹浪の繋がりがあった場合。
最も有力で、最も当たる確率が高いだろうまっとうな意見そのものだ。
あの徹浪のことだ。『地底で過ごしたことがある』とも『必ず地下へ』ともほざいていたし、今日この日に刺客が送られてきても不思議ではない。もしそうだった場合、何故転生トラックを送り込んだのか問い詰めたい。
そして二つ目の可能性、こいつが独自で動いてる。
徹浪と繋がっていれば、目的がある程度透けて視える。『地下に軌道を送ること』――それさえ果たせれば、話は終わりのはずだ。
だが、もしこいつが一人で動いているならば。
目的は分からないし、何で地上にいるのかも分からないし、何で軌道を狙っているのかも分からない。
そして後者の可能性の時、徹浪とこいつの意見は食い違うはず。繋がっていると言えばおかしな話だ。
軌道はある程度の分析を終えると、改めて当の擬人と向き合う。少しだけ、景色の速度が戻った気がした。
「擬人か……しかしなんで転生トラックなのよ。もっと良いモチーフなかったのか? 大樹の意思?」
「徹浪さんと話して、擬人と大樹の関係までわかってるってことは知ってるはずだよね。もちろん自分たちの『姿と力』はここら辺の若者の考え方を糧にしてるから……うん、つまりここら辺のヤングさんはラノベ脳なんだよ、うん」
「ファンタジーの登場人物がラノベ脳とかヤングとか言うなよ、俺を含めてみんなの夢が壊れる。あーそれにしても単語の選択があいつとそっくりでイライラしてきた。緑念仏してもいいか?」
「よく分からないけど不可抗力だねっ。もちろん禁止にしとこうか。じゃないと転生させちゃうよ?」
浮かべた不敵な笑みですら、うっすらと似ている。
だんだん忘れかけていたあの憎たらしい顔が甦ってきて、軌道は顔をしかめる。
不本意そうな転生トラックは、なんだ、俺を轢きに来たのか。
だとすればこの世からおさらばだ。いや、死にたいなんて口走ってはみたが、そんなつもりはさらさらない。死にたくはない。当然だ。
しかしその望みを断絶するかのように、正に狙い済ました感じで転生トラックは言い放った。
「――で、転生する気はない?」
「ない」
「お話が進まないの、それじゃ」
これでは先程の徹浪とのやり取りをなぞるだけだ。やり口まで似ているとは、やはり繋がっている可能性が高くなってくる。
では、転生とは一体どういうものなのか。
殺すってことか。だとしたら嫌だと言っておこう。
もしくは独自の表現として、『連れていく』という意味説。え、やだ。こんな社長と似てる擬人とあの世散歩はしたくない。
というか、何故こいつに殺されることばかり考えてるんだ。どれにせよ何にせよ、軌道は転生トラックの御世話になるわけにはいかない。
死ぬくらいだったら地下に行く。今は、それは確かな気持ちだった――。
「死ぬくらいだったら、俺は地底に行く。だから殺すなよ。身投げすんぞ」
「――言ったね?」
「は?」
「よっ……いしょと。さーて、あの世に御世話になる準備はいい? 閻魔様にお会いになる覚悟は出来た? 鬼にしばき倒されることを念頭に入れた? じゃ、始めるよー」
「待て待てまてまーて待てまーーてまぁてよ、な、ま、まずは落ち着こう。何で金棒持ち上げたんだ、おい、下ろせよ、なぁ」
――転生トラックは、エンジンをかけた。
特徴的な金棒のタイヤが回転し、甲高い共鳴が鳴り響く。火花が飛び散る。金属音がこだまし、思わず耳を両手で塞ぐ。
周りの人――そうだ、『ゆっくり』なんだった。
けど、何だ。さっきよりも『速く』なってる気がする。
音が戻りつつある。
あ、小鳥が鳴いた。
クラクションが変に間延びして聞こえた。
電車の発車ベルが、逆再生されたみたいなメロディー。
片足だけ動いた人間たち。
金棒を持った『転生トラック』は、どんどん俺に、軌道という存在に歩いてくる。そして色合いが、セピアからモノクロへと変貌を遂げる。
火花も、金属が掠れた音も止まらない。止まるはずもない。
今さら、止めてくれるはずもない。
俺は耳を塞ぐのを止めた。目を開けていることを止めた。息をすることを忘れ、体に力を入れるのを止めた。
やっていることは相反していた。俺と転生トラックは、似ていない。字ずらはおかしい。けどだってそうだろ。
――俺と徹浪が、似てるわけがない。
それは変なプライドであり、妙なとっかかりだった。意識的に徹浪と自分を比較している自覚はある。あるからこそ、こうやって考え見つめ直してみれば発見できることもある、と思うのだが、
――今は余裕がとてつもなくスーパーに無い。
転生トラックの擬人と徹浪は似ていた。俺は二人と似ていない。
どこが似ていない?
『狂気』か、『笑み』か、はたまた『意思』か。
――全部、という答えは無しだろうか。そんな思考も脳内で溶けてどろどろになり、とうとうその時がやってくる。何故こうなったかも、何もかも知ることなく。考える間にもあいつは金棒を振り上げ、軌道をぶっ飛ばす準備を整えた。
ふと開けてみた目の下には、セピアでもモノクロでもない真っ白な横断歩道があって――。
「『転生・ぶっ飛びオーレ』ッ!」
「――こんなの、あり、かよ…………」
――俺は、轢かれた。
新しい執筆ツール、如何だったでしょうか?
でも気が向くまでこれは使いません! 面倒臭いのですよ。




