03.サバイバルに必要なものは
俺はひたすらネズミを倒していた。
倒すたびに俺の体内に時空粒子という名の経験値がたまっていく。
まるで某RPGでひたすらスライムを倒してレベル上げをしている気分だ。
この間も、俺の体内でホープが解析を進めている。
――マスター、解析で分かったことを報告させてください――
よし、聞かせてもらおう。
あたりまえのように体からレーザーガンを取り出してはいるものの、不思議でしょうがない。
――まず今から言う内容には予測が半分以上含まれています。核ミサイルが研究所に直撃する瞬間に暴走した時粒子は、ブラックホールを発生させたと思われます――
何が起こるかわからなかったが、そんなものが発生したか。
時空ブラックホールとでも言うものだろうか。
――そのブラックホールが周囲を圧縮し、最終的に今のマスターの形になったと推測されます。マスターの体内には、あの研究所と地下シェルターがすべて押し込められているのではないかと――
かなり曖昧な言い方だが、これは確認しようがないので予測することしかできないのだろう。
物理的にありえないことが起きているのは時粒子の力によるものだろうか。
それで地球はどうなったと思う。
――この地の太陽や星の動きで判断はできると思います。私の希望としては、ここが過去か未来の地球であることを願います。生物や時粒子の進化が独特ではありますが……あの最後の実験はして良かったと言えるのかもしれません――
ホープの希望か……。
俺と全く同じようにここが地球であってほしいと思っているんだな。
――私が読んでいた物語には、全く違う世界へ転移してしまうものがありました。そうでないことを願うばかりです――
それは俺も勘弁してもらいたいところだ。
他の世界に来てしまっていては、俺が逃げてきただけになってしまう。
しかも元いた地球を破壊するようなことをしてだ……。
――それよりもマスター、まずは今を生き延びることを考えましょう。もうすぐ日が暮れて夜となります。それまでに寝床を確保しなくてはなりません――
そうだな。
なんにせよまずは生きることだ。
しかし俺はサバイバルなどやったことはないぞ。
――それでは、ここまでで貯めたエネルギーを使いましょう。体内の研究所を一部外に出すことが可能になりました。マスターの体をアップグレードできます――
アップグレードと言われるとなんとも不思議な感じだな。
まあいい、具体的には?
――ではこれもゲーム風にしてよろしいでしょうか? こんなことを言うのもおかしいのですが、私は今の状況が楽しいのです――
さすがゲーム好きだな。
楽しく探索や研究をするのはいいことだし、やってみてくれ。
――それでは、次の中から選んでください――
ホープがそう言うと、頭の中に文字が浮かんできた。
マスターのスキルポイントは207Pです。
割り振るスキルを選んでください。
・解析能力Lv1……100P 左手で触れたものを解析する
・倉庫拡張Lv1……100P 体内に道具を保管する
・簡易工作Lv1……100P 両手をかざすことで物体の加工が可能
・光銃強化Lv1……050P レーザーガンの威力を上げる
――解析も工作もマスターの体内で私がすることは可能ですが、時間がかかってしまいます。外に出せるようにすることで効率が10倍以上に跳ね上がるはずです――
なるほどな。
たしかによくあるファンタジー世界の設定のようだ。
ゲームっぽくて少しだけわくわくするな。
とはいえ、これから寝どこを作りつつサバイバル生活だ。
倉庫拡張と簡易工作を迷わず選ぼう。
―そうですね、私もそう考えていました。解析は時間がかかりますが私でもできますので。ではまず倉庫拡張からはじめます。マスターは持って行くべき道具を集めていてください――
よし、俺の体内倉庫に入れるべき道具を集めるか。
食料となるりんごもたくさん集めておこう。
あ、でも体内に置いておいても腐るのか?
――おそらく腐ります。時粒子を用いた時の流れが止まる倉庫を作ることも可能ですが、それにはスキルポイントをためてください――
ホープは今の状況をゲームっぽくすることにノリノリだな。
まるで天からゲームマスターの声が響いてくるようだ。
――そうですね、もし平和な世界であれば、あなたとテーブルトークRPGをやってみたいと思っていました。その夢が叶ったようなものです――
ああ、平和になればやろうな。
もっともこの世界がすでに平和な可能性もあるが……。
そうなればあとは沙耶を見つけて助けるだけだ。
意外とすぐにできるようになるかもしれないな。
そう思えるくらい、空と周りの景色は穏やかだった。
さて、リンゴを2日分ほどと焚火に使えそうな木の枝を集めた。
さらに先ほどネズミが落とした尻尾や皮も集めておく。
解析は後でホープにしてもらおう。
あとは寝どこに使えそうなわらとか。
さらにツタとか石とか思うがままに集めてみた。
――マスター、倉庫を使えるようになりました。道具をおなかの中に入れるように運んでみてください――
ほほう、それは俺のおなかに何でも入るポケットが出来たようなものか。
試しにおなかにりんごを近づけて入れようと考えると、りんごが消えた。
――成功です。体内にリンゴが格納されました――
なんとも不思議な気分だが、このように集めたものをすべて収納していく。
そういえば俺は今裸なわけだが、服を着ているとこれできないのか?
――おそらくは問題ないと思われます。服を着ていてもこの機能は使えるでしょう。あ、能力と呼びましょうか――
ふふっ、ホープはSFよりファンタジーっぽくするのがお好みのようだ。
さあ、寝どこにできそうな場所を探すか。
その間、ホープにネズミのしっぽと皮の解析を頼もう。
――了解しました。しかし先に簡易工作の能力獲得をしていただきます――
確かにそっちの方が優先だな。
よろしく頼む。
探索の結果、ほどよい感じのほら穴を見つけた。
少し入ると行きどまりになる理想の住処だ。
まずは入り口付近にたき火を作ろうか。
石や枝をおなかから取りだして並べていく。
そうしているとあたりは少し薄暗くなってきた。
あとは火を付けるだけだな。
――マスター、簡易工作の能力を習得しました。さっそく使ってみてください。両手を対象にかざして念じれば様々なことが出来るはずです――
いいタイミングで完了したな。
では両手をかざして、火を念じてみるか……。
すると俺の両手の間に炎が生まれ、枝に火がついた。
これは簡単で便利だな。
この要領で様々な物を作っていく。
寝床もできたし、ロープも作った。
木を使ってお皿やコップも作ってみよう。
後は服を作りたいわけだが……先ほどのネズミの皮は使えないだろうか。
――マスター、ネズミのしっぽと皮の解析が完了しました。これは時粒子が形や成分を変えた結晶と呼べるもののようです――
また時粒子か。
あのネズミは時粒子で変異した生き物と言うことか?
ホープ、予測でいいから教えてくれ。
――はい、おそらくはネズミが時粒子を取りこむことで生まれた生物と思われます。その時粒子が体の一部に集まり結晶化することで、この尻尾や皮ができたと推測します。結晶化していない時空粒子は、先ほどのように光となってマスターの体内に入ってくるようです――
なるほど。
この世界の生き物も時粒子と、それが変異した時空粒子で説明できるわけか。
推測が合っていればの話だが……。
それでこれらは使っていいものだろうか?
ネズミの菌があって危険とかはないか?
――問題ないと思われます。尻尾は薬となる成分を含んでいるようですね。皮はそのまま使えるようです――
わかった、ありがとうホープ。
それではこの皮で服を作ってみようか。
ネズミの皮を取り出して手をかざす。
そして簡易なシャツとズボンと靴が完成した。
素材が足りないかと思っていたが、薄く延ばされたような状態となっている。
この工作能力は形を変形させることも可能なわけだな。
俺の体内研究所はハイテクノロジーだ。
あとは草を編んでベルト的なものを作ってと……。
服を着て寝床も確保した。
これで今夜は生き延びることができそうだな。
あとは火を見て近づいてくる生き物がいなければいいが……。
食事として、たき火で簡易工作を行いリンゴ煮を作った。
砂糖はないが、十分甘くおいしくできた。
さらに水分補給として絞ったジュースも作る。
明日は水の確保も考えないといけないな。
――不思議ですね。同じものを食べたはずなのに、補給されるエネルギーが生の状態より多いです。これからは簡単なものでも料理していただく方がいかもしれません――
料理した方がエネルギー効率が良くなるか。
これもゲームの設定のようだな。
しかしなんで体内のホープにもエネルギーがいくんだ?
――あ、まだお伝えしていなかったですね。この世界のあらゆるものは時空粒子を取りこんでいるようです――
なるほどな。
そして俺の体も時空粒子をエネルギーとすることが可能というわけだ。
不思議な世界だ。
果たしてここは本当に地球だろうか?
やがて空が暗くなり星が出てくる。
核により星の見えない地球に住んでいた身としては感動の光景だ。
――これが星空なのですね。データとして見たことはありますが、実際のものは初めてです。綺麗ですね――
そうだな……。
この景色を取り戻したくて研究を長年続けていたんだ。
もうこれを見るだけで満足してしまいそうになる。
さて、そのデータベースと照合してどうだ?
――似ているような違うような……。申し訳ありません、今あるデータだけでは断定できません。もっとたくさんのデータが必要となりそうです――
そうか……。
でも似ているってだけでも十分だ。
もし違う世界や惑星であれば、似ている可能性なんてほぼ0なんだから。
さあ、ずっと星空を見ていたいが明日のために寝ることにしようか。
まだ早い時間だが、疲労のためか眠気はかなりきている。
――マスターが目を閉じていても、私は周りの状況を確認できます。見張りは任せてお休みください――
ああ、頼りにしているよ相棒。
もしくはゲームマスターだな。
お前がいてくれて本当に良かったよ。
今夜はいい夢が見られそうだと考えながら、俺は眠りに落ちて行った。




