↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こもれび亭へようこそ 〜異世界宿屋のまかない日誌〜  作者: 山田鰻
第一部 こもれび亭再出発編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/32

風の夜と、寝具の支度

灯里のまかない日誌より

二十四日目。

風が、朝も残っている。

湯のみ、いつもの数。


朝、玄関を開けると、まだ風が古道の側で鳴っていた。


昨夜の風はそのまま残っていて、空気の中に乾いた音が混じっている。客はいない。今日も、たぶん。二日続けて泊まりの客はない。風の日は、旅人も無理に歩かない。古道には朝から人の影がなかった。


午前のうちに厨房の片づけを終える。湯のみは、いつもの数を伏せて並べた。日誌に書いたとおりの数。


昼すぎから、風が強くなった。


物干し場の毛布が大きく揺れる。ミラと二人で取り込みにいくと、ミラは何も言わずに毛布の端を集めて両腕で抱えた。身体を風上へ斜めに向けながら、足だけは動かない。こちらも反対の端をつかんで、風にさらわれないように抱え込む。乾いた毛布が腕のなかでばたばたと鳴った。


「強くなってきましたね」


「夜まで残るかもしれん」


昼でも、玄関の灯りが少しだけ揺れていた。古道のほうの空はいつもより低く、薪棚の戸がことことと鳴った。


夕方、客室の戸を一つずつ確かめて回る。風で立て付けが緩んでいないか、玄関側の窓の留め金がきちんとかかっているか。空の客室は、風の音がよく響く。誰も寝ていない部屋でも、寝具は乾かし灯りの位置も整えてある。いつ誰が来てもいいように。


廊下の隅に、人の気配があった。


ミラが予備の寝具を一組だけ棚から出していた。たたまれた寝具を、客室の一つの戸の脇に置く。布目を指で軽くならす。寝具の角を、もう一度指でそろえた。角は、いつもよりまっすぐにそろっていた。


「ミラさん、寝具……」


「念のため」


ミラは短く答えて、廊下を戻っていく。


予備の棚の前に立つ。並んでいた寝具の幅が、一組ぶん空いていた。


日が落ちて、風の音だけが宿を囲んだ。夜の膳は、火のそばで食べた。根菜を厚めに切って、豆と一緒にしっかり煮る。こんな夜は、熱いものがいい。窓の外で風が鳴るほど、椀の湯気があたたかく感じられた。


ミラは汁を二杯食べて、外の音に一度だけ耳を澄ませた。


「このくらいは、越える」


夜、風はさらに強くなった。


厨房に戻って、翌朝の支度を始める。


朝粥の米を、いつもより一杯ぶん多めに量っておく。湯のみは、いつもの数より一つ多めに棚から下ろして伏せた。パンの仕込みも、一つ多めに粉と水を合わせる。布をかぶせておく。手はふだんと同じように動いている。けれど、棚の上には、ひとつずつ多い支度が残っていた。


来るかどうかは、わからない。


ポポは食堂の暖炉のそばで丸い。窓が一度大きく鳴って、ポポがひとまわりだけ身をくぼませる。


最後に、玄関の戸を見にいった。


風が、戸の隙間から細く入ってくる。玄関の灯りは、大きく揺れていた。けれど、消えない。


古道のほうで、枝とも足音ともつかない音がした。戸口へ目をやる。


玄関の鈴は鳴らなかった。それでも、灯りは点けたままにした。


客室に戻る前、もう一度だけ廊下の隅を見た。


予備棚の端に、一組ぶんだけ空いた幅が残っている。


玄関の灯りは、揺れながらも、消えなかった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


少しずつ読んでくださる方が増えていて、とても励みになっています。

リアクションやブックマークも本当にありがたいです。


もし続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回も楽しんでいただけるよう頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。