二人の心をかき乱す王子登場
剣崎は王女テヨの手を握り。
「無理して思い出さなくていい、話さなくていい。」
その言葉の返事のように、その彼女の握った掌の上に王女テヨは手を添えた。
剣崎はその彼女の涙の苦しさが痛いほどわかっていた。
「私は。」
剣崎はそう言うと、王女テヨは声をかけた者にベッドの上に顔を向き直しジッと次の言葉を聞き入った。
続けて言った。
私のセカイで刑事をしていたこと、そして婚約者も同じ刑事だったこと。
ある時、裏社会のフィクサーと対峙する事になり、彼女は彼を引き止めたが正義感が強い婚約者は一人、戦いを挑んだこと。
(行って来る。)
その言葉が最後だったこと。
残されたのは彼との日々の思い出と。この穴の開いたトレンチコート、そして愛用のS&W M500だけだったこと。
そこまで言うと自嘲したように。
その日から私は彼の下に一日でも早く逝きたい。
その想いで悪には容赦なく叩いてきた。
でも、ようやく逝くことが出来たと思ったら。
フッと笑い。
まだ来るなと、婚約者に言われたような気がした。
と一気に喋った。
「ごめんなさい。」
王女テヨは痛々しい包帯の下から謝罪した。
「良いよ、これも縁だ。」
剣崎。
「えん?」
「そう、人と人の偶然じゃない巡り合わせ。」
「そう。それが縁と言うの、私があなたを召喚したことは偶然じゃない巡り合わせなのね。」
そう言って王女テヨは眠りについた。
同じ傷を持つ者同士。
決して、同情じゃない。
お互い戦いの中で、幸せだったという、それを証明する術は無かったのは私も彼女も同じだ。
剣崎は、そっと握られていた掌を解いた。
数日が過ぎ、敵との戦いは小康状態となっていた。
そんなある日。
隣国からその国の王子が表敬訪問、および同盟、作戦について国賓としてやって来た。
敵との戦いの最終決戦についてだった。
隣国も疲弊しきっていた。
戦力はそんなに持たないが故に、近隣国と同盟を強化して敵に最終決戦を挑もうと言う申し入れだった。
そんなことより、剣崎はその王子を一目見て固まってしまった。
王子の立ち居振る舞いは、剣崎をそこから動かす事が出来なかった。
なぜなら、亡くなった彼に、事件に巻き込まれ殉職した彼に似ていたからだった。
いや、彼そのものだった。
あの懐かしい日々が蘇る、そして彼女に一つの仮定が沸き上がった。
もしかすると、彼もこのセカイに転生してきたのかも。
はやる思いが、自分が女だったと、思い起こさせていた。
「あなたがお噂の転生者ですか?ご活躍はかねがね伺っております。」
王子の言葉に、心臓が狂わんばかりに、早打ちし続けた。
(やっぱり彼かも。)
顔を見ると、声を聞くと、あの逢いたくて、逢いたくて狂おしく、早くあの人の下に逝ってしまいたいと思っていた日々が、思い起こされていた。
それを遠くから見ていた王女テヨは複雑な心境を隠せなかった。
「あの人は、そんなにあなたの想い人に似ているのかしら?」
意識せず、王女テヨの言葉はとげとげしかった。
その時お互いの、心の内を覗いたような気がした。
王女テヨが王子を見る瞳、剣崎が王子を見詰める瞳。
同じものだった。
いずれにしても、二人は想いの内をお互い晒さなければならなかった。
でなければ今後一緒に敵に向かうことは厳しくなってしまう。
力を合わせてここまで戦ってきたのだ。
今ここで力を分散させることは得策ではないし、剣崎がこのセカイに召喚された事、王女テヨが召喚したことが無駄になってしまう。
同じ傷を負った者同士、傷の舐め愛ではない、傷口は塞がるとそこは強くなるという。
お互い、弱くなるためではない強くなるためにやって来たのだから。
王子との同盟の協議は終わり作戦の詳細も詰めた。
帰り際王女テヨに耳打ちをする王子を見て剣崎は心がざわついた。
それを見てとって、今度は剣崎の下にやって来て、「待っていたよ。」とささやいた。
剣崎は倒れそうになった。
やっぱり、あの人だったんだと、確信した。
それを王女テヨは見逃さなかった。
二人の亀裂は決定的なものとなった。
数日後、決戦の日時のほんの数刻前、タバコを吹かしながらその時を待っている剣崎の下に王女テヨがやって来た。
暫く二人は黙っていたが、どちらともなく声をかけた。
「あの、」
王女テヨ
「何?」
剣崎
沈黙が続いた。
「ハハハ」
沈黙を破ったのは剣崎だった。
「安い恋愛漫画じゃないんだから。」
「どうってことないや、あの人は死んでしまったんだし、私は早くあの人の下に逝きたいだけ。王子はたまたま」
そこまで言うと。
(待っていたよ)と、王子がささやいたセリフが思い返された。
「いいさ、この戦いが終わったら、元のセカイに戻してくれるんだろう?それで、万事万端元通りってもんだ。婚約者は彼一人だから。気にすんなって。」
と王女テヨの肩を誤魔化すように叩いた。
そこの戦場は、最終決戦と言っていいほどの広範囲の地平線が全て敵、全てが味方で埋め尽くされていた。飛行する敵地を這う敵。
味方の甲冑に身を包むもの、弩馬車に乗込み突撃の準備をするもの。飛行船の重火器を用意する者、
敵の龍の火を吐く者の上に乗る者、地面の中を潜り今にも引きずり込もうとする者。
登り始めた朝日が血の色に見えたその時。
敵味方、両方の陣営の鬨の声が発せられた。
おおきな黒い山が二つ、この大地を割るように激突した。
王女テヨは左右に太刀を持ち、旋風のように敵を切り裂いた。
剣崎は、形見のS&W M500を敵に向けた。
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