剣崎と王女テヨと異世界で。
目が覚めた。
白い部屋だった、よく見る部屋、病院送りにした奴の付き添いで、いやというほど見た病室のベッドの上だ。
剣崎は此処が病院と思い、絶望した。
「まだ死なせてくれねえのか。」
独り言を言って、白い天井を見ていると自然と涙がこぼれてきた。
「気が付かれましたか?」
そう言って、いつの間にかベッドの傍に立っている人間を見て剣崎はギョッとした。
そのいでたちだった。
白いシルクの様な透き通った衣をふわりと身に纏い、剣を二本左右に差して、髪は銀色に長く瞳は澄んだ翠色、耳が異様に尖っていた。
エルフ。
そう直感した。
剣崎は思考が混濁して一気に情報が処理できずにいた。
「驚かれるのもむりはありません、私たちが剣崎殿を召喚したのです。」
エルフは剣崎の顔を覗き込んだ。
「召喚?」
剣崎は聞き返した。
「はい、私の名はこのエル国第603代王女テヨ・シイ・ケマ。テヨと呼んでください。」
王女テヨは続けて言った。
「敵の侵攻に最後の望みをかけて剣崎様、貴殿を召喚したのです。」
「召喚?」
剣崎はもう一度言った。
「貴殿の、向こうのセカイでのご活躍はかねがね、伺っております。」
王女テヨはそう言って剣崎の手を握り、
「そのずば抜けた常軌を逸した正義漢が我々のセカイでの力となるのです、どうか。」
握られた手を解く事も出来ず、王女テヨの気迫に気おされた格好となった。
(常軌を逸した)と言われてそれが到底誉め言葉とは思えず、困惑してしまっていた。
それに(私はただ、死にたかっただけだ。)と言い切れずにいる。
そして自分の格好を改めて見て驚愕した。
手を握っているこの王女テヨの格好、そう、中世の貴族の様なドレスは分かるが、自分の身を改めて見ると全く同じようなドレスを着ている。
こんな格好は、女子学生時代の文化祭の出し物以来だ。
そう思った次の瞬間、剣崎はその自分のドレスを脱ぎだした。
王女テヨはその突然の行動に驚きで、告げる言葉を見つけることが出来なかった。
あっと言う間に下着姿、ブラジャーとショーツになった。
剣崎は王女テヨにつげた。
「私のトレンチコートを。」
穴の開いたトレンチコートを下着の上から直に着て落ち着いた様子で、王女テヨと対峙した。
転生召喚のため、このセカイの服装に着替えさせたのが悪かったと、王女テヨは謝罪した。
「私の持ち物に触れないでいただきたい」と剣崎はテヨに告げた。
「承知しました。いずれにしても、このセカイを助けていただきたいのです突然でお困りなのは重々承知の事。」
必死に王女テヨは懇願した。
それでもその剣崎の困惑した表情を見て、王女テヨはその病室の扉を開け放ち、外の景色を指し示した。
「ご覧ください、これが今我々の被害を被った国の状況です。」
ベッドから降り、窓辺から外を眺めるとそこは、山林、湖、自然という自然、建物と言う人工物がそれこそ、蹂躙されたと言っていいほど破壊されつくしていた。
剣崎は絶句した。
その絶句している最中に突然甲冑に槍を携えた衛兵が飛び込んできて、
「敵襲です!」
と叫んだ。
「あれが敵。」
剣崎はその敵の塊を見ると、その威容がどこかの本で見たり読んだりした、想像上のモンスターそのものであることに、これが現実のものであると、どこかいまだ信じられない自分がいた。
隣には王女テヨが左右の手に太刀を握り広げ構えていた。
「あれが敵です、ある日我々はあの敵の急襲になすすべもなかったのです。」
そう言い終わるか終わらない内に敵の塊に飛び込んでいった。
早い。
その剣風は敵の間をすり抜け、そして敵をバラバラにした。
他の兵士たちも、奮闘しているようだが、敵のほとんどは王女テヨの刃下に斃れていった。
「危ない!」
剣崎は叫んだ。
王女テヨが舞を舞うように敵を撫で切りにして着地する瞬間。
大型の敵がその着地点に鈎爪と、牙が押し寄せた。
乾いた、硝煙にまみれた音が戦場にこだました。
耳朶に響くそれは大砲の様だった。
剣崎の懐にあった、S&W M500が火を噴いた。
象の頭も吹き飛ばすと言う。
「ハンドキャノン」
あっという間にそこにいる敵の視界に入って、照準に入った敵は全て、骸となった。
そして、さらに覆いかぶさるように、
王女テヨに襲い掛かる敵を銃弾で薙ぎ倒し、吹き飛ばした。
また更に、
吹き飛ばした。
新たな、モンスターに対する武器に恐怖した敵、その者たちは一瞬固まったが、すぐさま状況を判断し我先にと戦線を離脱し始めた。
追い打ちをかけるように剣崎は何匹かのモンスターを撃ち落としたが、逃走は止めることは出来なかった。
辺りは硝煙の匂いと、天を仰ぎ血だらけの味方の荒い呼吸の音、味方同士肩を貸し合い戦場を彷徨うもの。
敵の骸の塊。
それらが、今の戦場の結果であった。
気が付くと、
「ありがとう、」
そう言って、駆け寄って来た王女テヨの姿を見ると、決して、その戦いが生易しいものでない事は容易に理解できた。
それほどの手傷を負うほどだった。
着ている物もボロボロに、あの白いシルクの着物は血だらけになっていた。
「大丈夫か?」
思わず剣崎は、肩を貸した。
あの初めて会った時の凛とした、王女は鳴りを潜め、体を剣崎に預けるか弱い所が垣間見えた。
「大丈夫、ありがとう。」
という、熱い吐き出すような、吐息の様なセリフに一瞬ドキリとした。
夕日の赤い光が二人を照らしている。
今度は王女テヨがベッドの上だった。
王女テヨは今までの事を、かいつまんでぽつぽつと話し始めた、
「あなた方のセカイで言う所の、数年前、突然敵が我が世界に侵攻してきたのです。
そう、突然の事。
このセカイの半分は蹂躙され征服された。
だが、我が婚約者はこのセカイをまとめ上げ敵に対抗した。
その力は敵のほとんどを殲滅し、勝利まであと一歩と言う所で・・・。」
王女テヨはギュッと唇を噛み、涙を見せまいと向こうを向いた。
拙作に目を通していただき誠にありがとうございます。
目を通していただくだけでも本当に有難いです、感謝申し上げます。もし、もし面白いと感じていただきました折には、星を頂戴できれば大変うれしゅうございます。




