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異世界なまけもの備忘録  作者: フトカワ
第一章 勇者との邂逅
9/11

第9話 勇者、気楽な漫画生活

 勇者はすぐそこにいた。ゆったりくつろげる身体の形に合わせ自在に変化する椅子(のちに、ビーズクッションと呼んでいた)のようなモノに寝そべりながら本を読んでいた。だが、学術書などとは程遠い絵と文字が混在した本を読んでいた。この世界にはないモノだ。


「ちょっと。そこの勇者。よくもやってくれたわね」


「あれ? なんだまたお前か……どおりで足臭くなってきたと思ったよ」


「臭くないってば! あなた色んな方法で私を殺そうとしたわね!」


「殺す? 滅相もない! 一緒に冒険へ行こうと思ってお前を試しただけさ」


「嘘つけ! 色んな魔物が襲い掛かってきたわよ!」


「だから、言ってるだろ? 冒険へ行くなら足手まといはいらないってな?」


「言ってなかったでしょそんなこと! なら、その試練を乗り越えたってことね」


「いいや。お前にはまだ冒険の恐ろしさが分かっていない。とりあえずこれを読め」


 渡されたのは、読んでいたであろう本だ。

 題名は『眉毛ノ下ふさ子のすっごい冒険』と書かれてある。


「……なによこれ?」


「すごいだろ。これは『漫画』っていって、その中でも滅多に手に入らない代物だぜ?」


「いや、だからなんだってのよ」


「……お前はこれだから冒険をなにもわかってないただのメスオークなんだな」


「誰がメスオークよ! これ読んでなにが変わるってのよ」


「いいからそこで読んでみろよ。俺の言ってる意味がわかるさ」


「なんなのよこいつさっきから……わかったわよ! 読んでやるわよ!」


 さっさと読んでこいつを城に連れていく。最初はそう思っていた。

 気づけば、一時間経過していた。


「……次はどこにあるのよ?」


「ん? なんだって?」


「だから! これ続きがあるんでしょう! 早く出しなさいよ!」


 『漫画』はめちゃくちゃ面白かった。学術書しか読んだことがなかった私には新感覚だった。絵と文字でハッキリと臨場感が伝わり、アクションシーンも頭で補完できるこの『漫画』というものはとんでもない発明だと素直に感心してしまった。


「あちゃ~。それは明日にならないとどこにあるかわからんなぁ」


「……だったら他の役に立つ漫画をよこしなさいよ! 面白すぎるのよこれ!」


「……ったく。お前ってやつは……」


 気づいたら夜になっていた。私は食べることすら忘れ、漫画を読み漁っていた。


「そ……そんなもう夜になってる……」


「あちゃ~……これはまた明日だな」


「……ちなみに『眉毛ノ下ふさ子のすっごい冒険』は何巻で終わりを迎えるの?」


「二七三巻だな」


「どんだけ長いのよ! さすがに物語引っ張りすぎじゃない⁉」


 突然、私は勇者に頬を引っ叩かれた。男が女性に手を上げた決定的瞬間だった。


「お前は、まだ冒険の恐ろしさが分かっていないようだな!」


「ちょっと! 普通に暴力でしょこれ!」


 即座に防御魔法を張っていたので痛みは無かった。が、威力は凄まじかった。

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