第88話 勇者、知らぬところでとんでもないことになっていた
――場所は魔王城。そこへ二人の敗残兵がやってきた。
「あれ? クリウスちゃんどうしたのその姿。ボロボロじゃん」
「グランドニエル様。誠に申し訳ございません。北方制圧だけでなく、ゴードン王国の支配すらも失敗してしまいました……」
「……えっ? 俺にそれ言われてもな。次どうするとかあんの?」
「……再度北方へ戻り、必ず制圧いたします。今回の件、なんとかご容赦いただけませんでしょうか!」
「いや、見てたよ全部。甘かったねぇ。なんで一週間も勇者来なかったのに国を制圧しなかったの? 国民を盾にしなかったの? 全部、甘ちゃんだよ~」
「そ、それは……同行した王子がなんとかすると――」
「人間に甘い魔族なんて聞いたことないよ~!」
「ま、待ってくださいグランドニエル様……」
「残念ながら二度はないんだよね。北方にお前がいないから攻め込まれてるんだよ。代わりのやつ送っといたから負けた時点ですでに用済みなんだよ。君は」
「そ、そんな。もう一度……もう一度だけチャンスを――」
「ダークネス・フォール」
闇の穴がヒュドラを吸収したようにクリウスを飲み込んでいく。だが、今回はヒュドラのように甘くはなかった。その先は、永遠の闇が広がっている。
「お。お待ちくださぁあああああああい! 助けてぇえええええええ!」
その声は、虚しく、そして儚く散るように吸い込まれていった。
「はぁ疲れた。で、次は君ってわけか。ハマ君」
終始、隣で怯えていたのは守護天使ハマエル。ランドレスがクリウスにハマエルの居場所を伝えていたため、ここに連れてこられていた。
「……もう私には言い訳する余地もありません。闇に葬ってください」
「おいおいもう諦めるのかい? クリウスのように命乞いとかないんだ?」
「このことが熾天使セラフィム様にバレるのも時間の問題……もういっそのこと殺してくれた方がいい」
「残念だけどそれはできないかなぁ。君にはまだまだ使い道があるからねぇ。あの勇者はおそらく俺とつながりがある」
「……それはどういう?」
「君はそれを知らなくてもいい。だが、君にはスパイになってもらう。ただそれだけでいい」
「……たったそれだけでよろしいのですか?」
「ああ。セラフィムにもバレない様にもしてあげるよ」
「……なんともありがたき幸せ! このハマエル。永久に魔王様へ忠誠を誓います!」
「ただ、魔物貸すときに書いた借用書あるじゃん。あれはずっと有効だよ?」
「……えっ? 借用書?」
「うん。魔物一体につき月々、金貨百枚。もう三ヶ月経ってるから金貨九百枚だよね」
「……えっ? 魔王様。そんなことがあの借用書に……?」
「うん。あと魔物をもし紛失とか討伐されたらさらに金貨五百枚だから~。リヴァイアサンとケルベロスは行方不明。ヒュドラは一応帰ってきたから大丈夫だね。ということは、今んところハマ君の借金は金貨一千九百枚って感じかな!」
「……ちょっと待ってください。ケルベロスは勇者の家に……というか、そんな額、私では払えま――」
「だから、払うんだよその身体で! 永遠に俺の下僕ってことだよ。話がわからないかなぁ」
「そんな……それなら死んだ方がまだマシなのでは……」
「言っちゃえばそうかもな。お互い支え合って頑張っていこう! ね!」
「……勇者エデェエエエエエン! 私を助けてくれぇえええええええええ!」
――そんな声など届くはずもなかった。




