第87話 勇者、複雑な事情を聞く
「その頃、マルクス王は国の運営で精一杯だったのだ。どうしても、国の安寧のために自分も動くしかなかった。勇者もいないこの土地を魔物から守るのはさぞ大変だっただろう。そこに最愛の妻の死。本当にマルクス王が悲しくなかったと思うか? そんなはずはない。後から聞いた話だが、その花畑の魔物はすぐに討伐され、そこに母の墓がある。そこに毎年献花して泣いているらしい。家族や国民の前で泣くことは許されなかったんだ。マルクス王、いや父は悪代官ではない。それはわかって欲しいんだ」
ランドレスはその話を知らなかった。ただ、父と魔物を恨んだ。その二人への怨恨だけで生きてきたと言ってもいい。それが間違いだったなんて思うことはできなかった。
「……私が一番近いようで、一番遠かったのかもな……」
「……えっ? それはどういう意味なの?」
「エデン今回は本当に黙りましょう。深い意味があるのよ」
ランドレスは決心して皆にこう語りかけた。
「さぁ……私が今回のすべての元凶だ。処刑にして終わらせてくれ」
「うんわかった~。国民全員からの暴行でいいかな?」
「ちょっと待ちなさいよあんた! 少しは、温情みたいなものはないの⁉」
「えっ? だって本人もそれを望んでいるみたいだし……」
「エデン。俺からも頼む。兄上の処刑をやめてくれないか?」
「……なにを言っているヘンドリクス。私への情けか? そこまで私は落ちぶれてはいない」
「いや。これは国のために言ってるんだ。これから誰が国を支えていくんだ? 俺は兄上の姿を見て次期国王になるのは難しいと感じて、斥候になったんです。そして、マルクス王は北方での兄上の働きを評価していた。あなたが次期国王になってもらわないと困るんです」
「……こんな私を見てそこまで言ってくれるのはお前だけだろうな……だが、もう遅いんだ。この『魔眼』がある限り、魔物との関係性は拭い去れない。早く処刑してくれ」
「なんだそんなことか。それなら、俺がなんとかできるかもしれないぞ」
エデンが横から口を挟んできた。なにか策があるらしい。
「エデン。それは本当なのか? 一体、どんな方法だ?」
「えっ目玉引ん剝くとか」
「ああぁ! やっぱりただの暴力的なことだ!」
「嘘だよ。俺の聖拳を使えば消しされるんじゃないかな」
「あれってそんなこともできるの?」
「うん。まぁ知らんけど」
「あんたって勘だけで生きているの?」
「……本当にそれが可能なのか?」
「兄上。試す価値はある。やってもらおう」
「……わかった。それでは頼むぞ。勇者エデンよ」
「承知~」
聖拳を顔の前で寸止めするだけでいけるような感じがするらしい。本当にできるのか。
「じゃあ行くぞ~。えいっ。聖拳!」
と、寸止めするはずだった聖拳がジャブのように鼻に当たった。それだけの威力でもランドレス王は吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「あ、兄上ぇえええええええ!」
「あ、やべ。ちょっと当てちゃった」
「当てちゃったじゃないわよ! 吹っ飛んでるわよ! 大丈夫ですか?」
「……あ、あぁ。大丈夫。なんとか意識はあるから」
すると、さっきまでの黒い眼は失われていた。確かに聖拳は効果があったみたいだ。
「おっよかったな。魔眼消えているぞ。俺のおかげだな」
「ま、まぁそうだな。意識飛びかけたけどな。なんにせよ本当にありがとう」
「いいってことよ。当然、魔眼の治療費とか今回の魔物討伐代とかも請求するからな」
「……なんでこんなに金に貪欲なの?」
「それは私たちもわからないのです。ただ、強いのだけは確かです」
「なにはともあれこれで解決だな。髭面王とかマカロンとか助けに行こうぜ」
城の皆を助けに行く。マルクス王も、ロマーニ老師も皆、地下で元気に過ごしていた。魔物に襲われないようにランドレスが手を回してくれていたらしい。
ランドレスはマルクス王へ今回のことすべてを話した。その中で自分の中に積もり積もった感情も吐露し、己の間違いでこんなことをしてしまったと心から謝罪していた。
マルクス王はすべての事情を鑑みて、不問にすることとなった。そのうえで今までお前と心の奥底まで話すことができなくて申し訳なかったと逆に謝る事態となった。皆がそれを見つめ、涙した。
そして、五魔天神が一人『破神のクリウス』はその行方がわからなくなっていた。城から投げ出され、地面に落下したはずだが、どれだけ兵士が探すも見つかることはなかった。
それだけではなく、もう一人行方不明者がいた。私たちの牢屋にいたはずの守護天使ハマエルも姿を消していた。
幸いなことに一連の出来事は国民にはなにも影響はなかった。城での大規模な戦闘は爆破魔法の実験をロマーニ老師がしていて失敗したことになった。普通であれば不安にもなりそうなものだが、この国の民は勇ましい。誰一人そんなことを気にすることもなく、すぐに日常へと戻っていった。




