第86話 勇者、黒龍を倒す
「すべて……兄上の計画なんでしょ? 親父と……魔物への復讐で……」
「ちっ……なんでお前がそれを知っているんだよ……」
「長年、斥候やっていましたからそのくらいの情報は。あなたが北方でなにをしていたかも」
「……まぁいいさ。俺を捕まえたところでこの『ドラゴネス』が発動した時点で全員死ぬ運命さ。変化した者の魔力量が多ければ多いほどその強さが増す。あれは『破神のクリウス』誰にも止めることはできない」
「兄上……あなたそんな禁術まで……」
「もう止まることはできなかったんだよ……全員死んでこの国も滅ぶ」
「兄上。残念ですが、それは叶いません。この国には勇者がいるからです」
「なにを言っている? あれを本気で止めるというのか?」
「ええ。エデンなら止めますよ」
「無理をいうな。もうS級すらも超えているかもしれない魔物だ」
「いいえ。すべてを可能にするのが勇者エデンです」
「なにをそんなに信じているんだ⁉ あいつは人間だぞ! 敵うはずなんてないんだ……」
「幾度となくそんな瞬間がありましたが、勇者エデンは軽々と私たちの予想を超えてきました。そんな人間という枠組みで捉えてはいけないんですよ。彼は『勇者』です」
「勇者……本当に勝てるのか?」
「ええ。見ていてください。きっと勝ちますよ」
「……あの~。しょうもない会話してたから黒龍の攻撃避けながら待ってたけど、もう倒していい?」
「あ、すまん。なんか盛り上がっちゃったわ。もういいと思う。読者的にも」
「おっけ~! じゃあいくかぁ~。聖剣エクスカリバー」
勇者の手元に聖剣が現れる。伝説の剣。勇者にのみ与えられ、勇者のみ扱える聖剣だ。
「これで終わりだな。よいしょっと~!」
ただそれだけでよかった。エデンが振り下ろしたその聖剣の斬撃はすさまじい音を立てて黒龍へ迫る。それと同時に黒龍も激しく一帯を燃え尽くすような黒炎を放った。
だが、強力な黒炎すらもすべて消し去ってしまう。チート級の信じられない斬撃。避けることなど出来ず、受け止めることしかできなかった。
黒龍は、自慢の鎧がより強力になった今の状態でも受け止めきれなかった。すさまじい音と共に王の間の壁を破壊し、城の外へ投げ出された。
『ドラゴアス』の呪文から解き放たれ、ただの魔族の姿へと戻り、クリウスは城の外へと落ちていった。
王の間は、一気に静まり返った。そして、爆発するような歓喜が沸き起こった。
「よ~し! 任務完了だな。今日やばいぐらい疲れたな」
「やったわねエデン! あの黒龍を倒せるなんて世界であなただけよ! これはもう胴上げしましょう! いえ、するしかないわ!」
「やばいまだあーちゃんのテンションが高い……」
「いいわねぇ! 最高の勇者様を盛大に胴上げよぉ!」
「よっしゃ! エデン様はやっぱりこの国の英雄やでぇ~!」
わ~しょい! わ~しょい! の掛け声とともに私たちはエデンを胴上げした。これ以上の喜びはない。あの五魔天神を打ち破り、窮地に立たされた国まで救うなんて、エデンにしかできない芸当。
テンションが高かったこともあるが、それ以上にあの体たらくのエデンが国に貢献してくれたことが素直に嬉しかった。
その様子を愕然と見つめることしかできないランドレス王子。彼の計画は、すべて破綻したといってもいい。
「……ランドレス王子。城にいた人たちは今どこにいるのですか?」
「……地下に幽閉している。衣食住には困らせてはいなかったから全然生きているだろう」
その言葉を聞き、私たちは安堵した。食中毒で一週間遅れたからどうなっている事かと思っていたら、意外にランドレス王子は手厚く保護していた。
「……兄上。やはりこんなことをしたのは母のためですか?」
「……そうだ。すべて私が悪いんだ。幼少期の頃に母と城を抜けだし、町の外まで連れて行ってしまったのが悪かったんだ。そこで魔物と鉢合わせてしまって……私は母に助けられ、命からがら逃げることができたが、母はその場で犠牲に……」
「えっじゃあお前が全面的に悪いんじゃん」
「エデン! 余計なことを言わないの。最後まで聞きなさい」
「元々、病弱気味だった母に喜んでほしかったのだ……あの一面の花畑を。その日は母の誕生日だった。まさかそこが人面花の巣だったなんて思いもしなかったがな……」
「あれ? 最後まで聞いてもお前が悪くね? 親父悪くなくね?」
「エデン……あんたって空気が読めないわね……」
「いいんだ……確かに私が全面的に悪いのだ。だが、死んでしまった母の葬式であの父は涙一つ見せなかったのだ! いや、その前からも父は病弱な母のことなどお構いなしだった。世継ぎを二人も生んで満足したのかもな……」
「兄上。それは断じて違うんだ」
卵王が話に切り込み、複雑な事情を話しだした。




